19 ニーソな生徒会長には逆らわない方がよい
佐藤がため息をついた。
「――マリアさんの手前、話を合わせていただきありがとうございます」
マリアたちがいなくなると、佐藤の指示で俺に刃物をつきつけていた仮面の化け物が離れる。佐藤は俺に深々と頭を下げる。
「いかがです、この学園の隠された裏の世界は? 退屈しないでしょう?」
佐藤と仮面の化け物を警戒しながらポケットの中のトウガラシ爆弾を握りしめる。
「お前らは一体なんなんだ! どっちの味方なんだ! ……それに、佐藤だのルアだのって!」
俺は後去りしながら生徒会室の扉に手をかける。
「外は危険です。特に放課後は魔族の力が強まります。貴方をよく思わない生徒魔族の皆さんが手ぐすね引いてますよ」
「あそこに友達を置いてきたんだ、助けにいく!」
「彼なら無事です」
ルアという男を警戒しながら振り返る。
「サリスマリス、御苦労さまです。もういいですよ」
「――(こくり)」
仮面の化け物の背後に、ぼうっとした雄太の姿があった。
「――うぅ、首のあたり、寝違えた感じがするさ……」
雄太が首をさすりながらコチラへ歩いてきた。
雄太はサリスマリスと呼ばれた仮面の魔族が魔法を使って助けてくれて、安全な場所にかくまってくれたと言った。
「さて、ご質問をどうぞ」
佐藤は壁にもたれかかり前髪を払う。
「ハロってなんだ? なんで俺をハロって!?」
「貴方にビグニティ騎士のハロとして、学園の平和のための協力していただきたいのです。貴方には騎士のように魔族に対抗する力がある」
俺は窓から魔族という化け物を追いかけて学内を駆け回っているマリアたちを見下ろす。魔族たちは観念したように、地面に伏せている。
「……この学園で、一体何が起こっているんだ?」
「魔界から留学生として受け入れている生徒魔族たちが暴れ始めた、なんて話を信じていただけますか?」
「……魔界? 留学生? 生徒魔族?」
「別世界の幼い民たちをヴァーサー・クーラーさんがこの学園に連れ込んだのです」
「……、金城コミン……がか?」
ルアは周囲を注意深く見回すと、俺に密着するようにくっついてきた。
「な、なんだよ!」
「……金城さんがヴァーサー・クーラーさんであることは、ここにいる僕たちだけの超極秘にしてください。マリアさんたち騎士には絶対に知られてはなりません」
「……どういうことだよ? どうしてッ!?」
「僕もマリアさんたちの味方ですが、人にはいえない事情もありまして。この世界は実に複雑で不安定の中に成り立っているのです。ここでの会話はマリアさんたちには絶対の秘密ということで、どうかおひとつ」
「――(こくり)」
そして仮面の化け物がうなずく。
「お前らは、魔女の手下なのか? あのマリアという騎士たちを裏切ってるのか!?」
「マリアさんと同じビグニティ教会の一員ですが、秘密裏に『教会裏庭』という影の組織にも属してます。クーラーさんやフィシス教徒に逆らわず、被害を抑えて、共生していこうと願う者の集まり、それが僕たち『教会裏庭』の組織です」
「……つまり、……どういうことさ?」
雄太が頭を抱えているが、俺もだった。
「僕はクーラーさんの希望で、彼女の行動を正しく世界へ発信しています。クーラーさんは、革命家、邪心教祖、あるいは魔女という誤解を取り除くため、各国の記者を自身の周囲に招き、活動を報道させています。さっき粛清された僕の哀れな同士は、クーラーさんとの契約を破り、活動や思想を恣意的に偏向して世間に悪評を発信した。僕も彼女の計画に立ち入れば消されます。よって彼女に弄ばれる貴方を助けることができないのです」
俺はいらだちながら生徒会長金城コミンというネームプレートを指差す。
「じゃあ、金城コミンの正体はヴァーサー・クーラーだとマリアたち騎士に暴露して、みんなで力を合わせて学園から追い出せよ! 魔女も魔族も、騎士が学園を守っているから好き勝手できないんだろ!? 教会とやらからその仮面みたいな味方も大勢呼び出して、一斉にけしかければいい!」
俺はサリスマリスという仮面の魔族を指差した。佐藤は困った顔をして答えた。
「まさにおっしゃる通りです。しかし、フィシス教派とビグニティ教会の影の利害関係が複雑に絡み合い、そう単純に解決できない問題が背景にあるのです」
「なんだよそれ! どんな弱みを握られてるんだよ!」
「貴方にとって彼女は魔女に見えるでしょう。……しかし、見る者の立場によっては、女神にもなります。……そうですね、この世界の普遍的な理論や秩序を彼女が掌握している、……つまり世界の心臓部を彼女が握っているというような緊迫した危険な状態なのです」
「なんでそんな危ない奴が野放しに――!」
「そう、うかつに手が出せない一触即発の状態なのです。心臓をつかまれている貴方のようにね」
「……俺は自分で自分の心臓は奪い返す! そして魔女も魔族も追い払う!」
「貴方のような勇敢な騎士や諜報員がフィシス教派の組織に潜り込み、幾人帰らぬか、数える気にもなりません」
「じゃあ黙ってやられていろって……!?」
「――いえ、逆らわずして守り抜くのです」
ルアは急に真面目くさった顔に切り替える。
「僕たち教会裏庭の使命はフィシスとの共存の道を探り出し、世界の秩序を守ることです。僕は記者でもあり、いざというときの警報機です。フィシスの矛先が人類に向けられ、本当に彼女を止めなければならない危険が迫った時までは静観し続けます。これからは貴方もです――」
ルアは生徒会の腕章を差し出す。
「貴方は生徒会の地位を使い、彼女に気に入られつつ、無防備な生徒や学園に危険が迫れば割って入り被害を最小限に食い止める。クーラーさん、そして騎士の皆さんの両者の目をかいくぐりながら、あらゆる衝突を回避、あるいは緩和させるのです」
「まったく無茶な……具体的に、俺にどうしろってんだよ!」
「貴方は救世主になれる器です。生身の心で彼女のヤリに耐えた。死神すら論破し人の生死を操作できる彼女が貴方の心だけは論破できなかった」
「だけど俺は……、な、何度も殺されかけたんだぞ!裏の世界のこともまったく知らないし――」
「……もしハロとなっていただけないのなら、今日の記憶を抹消させていただきます」
ルアは緑色の液体が光る小ビンを持っている。飲み薬のようだ。
「この記憶消し薬を服用すれば体内の魔力が死滅し、人間界の記憶が分別され、明日から普通の学園生活に戻れます。貴方の学園生活から金城コミンさんとヴァーサー・クーラーさん、生徒魔族、マリアさんらが消えます」
ハロとしての生徒会の腕章、そして記憶を消す薬を差し出したルアは俺に笑顔を見せる。俺は腕章と、薬を交互にみつめる。
「……つまり、表ではマリアたち騎士の仲間のふりをして、裏では魔女に調子を合わせておきながら、その悪巧みを阻止するってわけか?」
「さすが学園(学園)随一の頭脳派です」
「せ、先生? 引き受けるの!? そんなめちゃくちゃで危ない役目を!?」
「……少し考えさせてほしい、ルアとやら」
ルアと呼ばれた佐藤はうなずいた。




