17 本当にこのまま堕しちゃうわよ!
「雄太ッ!! おい雄太ッ!」
「……ぴくっ……ぴくっ」
倒れこんだ雄太の首はくっついてはいるが、顔が青ざめ失神しているようだ。
「お前っ! クソッ、この野郎! 張っ倒してやるッ!」
その魔女に飛び出つこうとした俺の足元から何かが飛び出した。
「ぐああああああっ――!」
地面から飛び出した槍が、俺の脚を無造作に串刺しにして固定した。
身もだえする俺の前にヴァーサー・クーラーが歩み寄る。俺はヴァーサー・クーラーに掴みかかろうとすると、脚を刺しているヤリが動く。
「――ぐあッ・・・痛ッ!!」
「まじめに聞く気がないなら本当にこのまま堕しちゃうわよ!」
「お前らの話をまともに聞ける奴がこれまでいたのかッ!?」
「そう! アナタを見ていると、次々と新しい理論体系が思いつくわ! 知恵のフクロウが持ってくる真理より新鮮ね!」
「お前らに関わると、このまま舌を噛み切りたくなる!」
「なら、その前にいい返事を聞かせて! 協力してくれるでしょ! いえ、協力せざる得ない雲行きであることはさすがにご理解済みでしょ、頑固なジェントルマンさん?」
「たまるか!」
俺は襟に仕込んでおいたミニサイズのトウガラシ爆弾を部屋に撒いた。
瞬く間に煙が立ち上がり部屋を曇らせる。
脚を固定していたヤリが消えた。
魔女たちが目くらましを食らっているうちに床でのびている雄太をかついで扉を蹴り、飛び出す。
「――足手まといは置いて、逃げるさ……先生……」
「バカいうな! こんな悪夢を信じちゃいけないって言ったろ!」
俺は振り向くと、執事がオフィスの扉を閉めて部屋に消えた。誰も追いかけてはこなかった。
しかし、廊下の床で寝ていた小さい化け物がこちらに気が付く。俺の顔をなめたあの化け物だ。
「だ、脱走だガル! 奴隷が逃げてるガル!」
周囲の物陰から続々と化け物が姿を現して、俺たちを追いかけ始める。
廊下の傍らでは佐藤が壁にもたれていた。そして化け物から走る俺にホウキの封殺剣を差し出した。
「……ご多幸を」
「傍観者め! 明日の朝、覚えてろ!」
俺は佐藤をにらみつけホウキを奪い取ると、雄太を抱えて走る。暗い廊下から次から次へと化け物たちが飛び出して、意識の薄い雄太を抱えた俺を追いかけ始める。
「あの空元気なニンゲンは弱っているガル! 逃がすなガル! 捕らえるガル!」
「どけ化け物め! 今度は容赦しないぞ・・・ッ!」
「ぺぺぺ~! ペクソッ!」
「ッ! くそ……」
しかし、しばらく走った先の曲がり角で化け物に囲まれた。化け物たちが俺の行く手を阻む。
「はぁ、はぁ、どうすれば……ッ!」
化け物が放った斧や火炎が俺たちの背中をめがけて飛んでくる。校舎から飛び出し、やっとの思いで花壇のくぼみに飛び込み、身を隠す。
「雄太、しっかりしろ!」
「ママ、ママぁ……助けて、ママぁ―――」
頭上には見たこともない呪術攻撃が、俺が顔を出す瞬間を狙っている。
何度か化け物の攻撃をはじき、ホウキは柄の部分が折れてしまった。封殺札、トウガラシ爆弾は使い切った。もう武器は残っていない。
遠くから化け物たちの声が聞こえる。
「あそこに隠れてるガル! さっさと連れて行くガル! あのわからず屋のニンゲンを連行するガル! これでガルたちもクーラーお嬢さまに一人前として認められるガルね!」
「お前らッ! ここぞとばかり調子にのりやがって! 明日恐ろしい思いをさせてやるぞ!」
「聞いたかガル!? あの生意気で不届きなアゴをはずしてしまうガル! お嬢さまに忠誠を誓う生徒魔族たち、笑殺ネコじゃらしの出番だガル! 突撃だガル!」
「……やっぱりここまでか。あの魔女からは逃れられないのか――」
俺は折れてしまったホウキを握り、化け物たちに姿を見せた。すると化け物たちは俺を見て、歓喜している。
「気を付けるガル! あのニンゲンは油断ならないガル! 手と足をもいで連行するガル!」
「……いいか、例え地獄に落ちようとも、お前らの何匹かは道連れにしてやる!」
「オーウェイ! サーヴェイ! いい心がけだガル! でも賢くないガルね! さあ、取り押さえるガル!」
俺は折れたホウキの封殺剣を構える。
しかし突然、俺に突進する化け物たちへ巨大な火炎の弾が降りそそぐ。そして化け物たちの悲鳴が聞こえた。
「ぎゃるるるる! 熱い! 何者だガル!?」
「学園の生徒魔族たち、それ以上の好き勝手は許さないです」
「――誰だ!?」
俺は声が聞こえた校舎の屋上を見る。
そこには小さな少女が凛として俺たちの様子を見下ろしている。
その背後には巨大な化け物が見える。それは屋上で魔女の攻撃から俺を守ってくれた巨大な化け物だった。
「単独特攻は無謀です。わたしが生徒魔族たちの邪気の殲滅を引き受けるです」
「――!? ……あんたは?」
「ビグニティ神殿学園を守る騎士マリアです」
「学園を守る――騎士!?」
その小さい女子は薄い紫色の甲冑をまとっていて、手には赤い炎を灯している。
そして、俺を襲ってきた化け物たちに対峙した。
「ガルッ!? 愛国少女で暴君騎士マリアちゃん!? ええぃ! ビグニティ教会の手先がなんだガル! 見つかっちゃったからにはやっつけるガル!」
「――ぺこき?」
「ペッキンたち、弱音は処刑だガル! な、何をビビってるガル! ガルも行くんだからみんなも続くガル!」
「ヴァーサー・クーラー卿に加担した生徒魔族の生徒手帳を取り押さえ、校則に則りお仕置きを加えるです」
「ええい、意地悪騎士ちゃんをひざまずかせて捕えて、お嬢さまに献上するガル!」
小さな化け物が叫ぶと、地面から巨大な図体をした化け物がわいて出てきた。大勢の巨大な化け物がマリアという騎士を囲む。
「女神さまがおいでなさった――――ゥ”!?」
「そうだガル! もたもたするな下等魔族どもめぃ! いつも地下に引き籠ってないで、たまには早くあの厄介な騎士ちゃんを倒して役に立つガル!」
「騎士を倒し手柄を立て、ヴァーサー・クーラーさまの祝福を得るのだ――――ゥ”!」
俺はマリアの小さな背中に叫ぶ。
「おい、なんなんだよあいつら!? どうするんだよ!」
「混乱に便乗して、魔族たちが好き勝手暴れようとしているだけです」
「……ってどういうこと?」
「つまり、学園内ではいつものことです」
マリアという騎士と似たような甲冑姿の2人の少女がマリアの横に着地した。
「マリィ! 大丈夫なの!?」
「まりぃ! 無事ぃ!?」
その2人の少女の背後にも、仲間らしき巨大な化け物がついている。
「ポポ、クゥ、遅いです」
「ウチのバリアーでみんなを守るなの!」
「バトルぅ! みぃもステルスぅ!」
「わたしたちの連携技で魔族たちを牢屋に押し返し、正しく厳しく裁くです」
3人の騎士が手を取り合い呪文を唱えると、空をも覆うほどの巨大な衝撃波が化け物たちを蹴散らした。
地面でのたうち回る化け物たちは、騎士たちの次の攻撃が襲い掛かる前にそそくさと逃げ帰って行った。
「問題にしてやるガル! 騎士ちゃんが無抵抗なか弱い生徒魔族に手を上げたってブン屋に売ってやるガル!」
「面白いです、それならチビたちの軽犯罪を国際裁判所で余りなく読み上げるです」
「ガルゥ!? に、逃げるガル!」




