11 恐怖の女子高生 ポポ&クゥ
俺がけしかけた戦闘訓練が終わり、いつも以上に攻撃の的にされた俺たちは逃げるようにして生徒会から飛び出した。
「はぁ、はぁ、ひどいさ……必要以上に痛めつけられたさ……!」
「マリアたちをそうとう怒らせたな、もうしばらく生徒会に行けない……!」
「きっとあの容赦なく攻撃してきたソォスイン騎士の誰かが犯人なんさ!」
俺は地面から現れたボッキンに言う。
「ボッキン、予言の結果は!?」
「真実のかけらを手に入れることはできた――、犯人の所属は」
俺とルアがボッキンに注目する。
「犯人はビグニティ騎士……!」
「なんだと――」
「脅迫の犯人はビグニティの騎士である――ゥ!」
一同は一斉にボッキンを注視する。
「つまりビグニティ騎士が脅迫状の差出人である、そう呪術が語りかける――!」
「マリア、ポポ、クゥの誰かが俺の秘密を知っていて、脅迫した……、そう言いたいんだな」
「その通り。あの空間にいたビグニティ騎士の中に脅迫の犯人が――」
「黙れ! この嘘つき魔族!」
俺はボッキンに詰め寄る。
「……ゥ?」
「俺を騙すつもりか!」
「騎士たちから採取したソーサリィを用いた呪術だ……信頼できる――ゥ」
「それなら、犯人をずばり言い当てろよ! マリア、ポポ、クゥ、この3人の誰だ!? それとも全員か!?」
「呪術は万能ではない、限界がある――ゥ。素材に対して多くの見返りを求めると予言は失敗する――ゥ。呪術は繊細なのだ――ゥ」
「そんな都合のいいでたらめ信じるか!」
「真実から目をそむけるかは個人の自由だ――ゥ」
「うるさい! お前はクーラーに罰を受けている! 俺たちを嫌う理由もちゃんとある! 俺と騎士を引き離して混乱させようとしているんだろ!」
「真実を告げることが吾輩の役目だ――、個人的な感情はない――」
ボッキンは落ちつき払ってそう言った。
「――お前は信用できない! それをかせ!」
俺はボッキンの手からランプを奪い取る。
「マリア、ポポ、クゥが犯人なわけない! こうなったら自分で見つけてやる!」
「核心に迫る素材であるほど真実に近づく答えが返ってくる――ゥ。それで好きなように犯人を捜すといい……ゥ」
奇妙な笑い声をあげた魔族は地面に溶けて行った。
「吾輩は脅迫者を特定するため、個別で調べたいことがある――ゥ」
「変なことをするんじゃないぞ、お前なんかこれっぽっちも信じてないんだからな!」
「予言のランプならいくつでもあるが、真実はひとつのみだゥ。ククク……よい安息日を――ゥ」
地面に溶けたボッキンは地面に焦げ跡を残し、消えていった。
俺はしばらくその跡を眺めていた。
「ガルナビ、最後の頼みがある」
俺はガルナビを檻から引っ張り出す。
「な、何ガル! 痛いのは嫌だガルよ……!」
「どうしても慎重にやってくれ」
「だ、旦那の頼みなら何でもするガルよ! そ、そんな怖い顔しないでほしいガル――!」
ガルナビの頭を掴み、耳打ちする。
「何させる気さ、先生?」
「がががががが……」
「お前の得意分野だろ――なぁ、頼むよ……」
ガルナビのきゃしゃな肩をはさむ。
「旦那! そればっかりは申し訳ないけど、他を当たってほしいガルよ――!」
「一生のお願いだ……生贄は後からなんでも言ってくれ、終わればすぐにその檻からも出そう……な?」
「が、がるぅ……」
ガルナビは何度も振り返り、地面をすり抜けて行った。
●
朝は雪の予報だったが、土砂降りの雨が始まった。
廊下の窓から暗い空を見上げて、俺と雄太は黙っていた。
渡り廊下ではクリスマスの飾りを屋内に避難させている生徒たちが見える。
「とにかく気を付けるさ先生、女は怖いさ」
廊下の壁に背を預けて座る雄太が言った。
「びっくりするほどずっと根に持つし、あからさまに仲間外れにしたり、いじめたりして……って先生、どこ行くさ!?」
俺は雄太をよそにランプを握りしめ廊下を走る。生徒会室に入る。
開けっ放しにされた窓から雨が入り込んでいる。
時折雷が光り、しばらくして爆発音が生徒会室に響いた。
俺は扉にカギをかける。
そして地面に膝をつく。
イスや、床をひたすら手のひらでさすった。
「核心に迫る素材……! 髪の毛、ツメ? いや、もっと大切なものか!? 何かないのか!」
連続した雷の後に、蛍光灯が消えた。
目線をあげると、誰かが持ち帰り忘れた青いポシェットが机に置いてある。
「これは……騎士の誰かの……」
俺は周囲に誰もいないことを確認し、ファスナーを開ける。
中にはポポがいつも頭につけている赤い髪飾りがあった。
「ポポのか……これだ! いつも身に着けてるこれなら……!」
「ねえ、エリート」
「――なッ!」
俺は声の主に驚き、イスに足を取られて転倒する。
「痛ッ! な、な、なんだ……ポポ! どうした!? なんでここに!?」
俺はポポの死角でポシェットに髪飾りを戻した。
「ソッチこそ、こんな暗いところで、なにしてるのー?」
「生徒会室の結界が気になったんだ! 生徒魔族に見られないようこっそり確認してたんだ!」
俺は窓を閉める。
「にゃるほどぉ……」
ずぶ濡れの少女の顔が窓ガラスに映っている。
「うああっ!」
目の前のその顔に驚いた俺は尻もちをつく。
「って……クゥ! なんで外に!?」
「じゅっといたよ、生徒会室でかくれんぼしてた――寒ぃ……」
「ッ! ほ、本当か!? き、気が付かなかったなぁ!」
髪の毛から雨が滴らせながら、クゥが窓から入ってきた。
「ハロぉ、うそだよ……今来たぁ――」
クゥは無邪気に笑う。
「あ、ははは、嘘か……」
「ウチ……」
横からポポがぼそりと言う。
「仲直りしたいなの……」
「え?」
「クゥも。さっき、いっぱい攻撃して、ごみぇん……」
2人はうつむいて言った。
「ポポ、クゥ……い、いいんだ、俺も言い過ぎた……こっちこそすまなかった――」
ポポはぶっきらぼうに何かを差し出す。
「これ、美味しいから食べるの。クゥと理科室の食材で手作りしたの……」
「へー理科室で作ったのか……で、理科室の食材って何――?」
気のせいか、アルコールのような薬液の匂いがする。
「ハロ、喰ぅ……、今ここで喰ぅ……」
クゥが俺の背中から両腕を押さえる。
「ちょ! な、なんだよ! 手作りって! はは、毒でも入ってるのか?」
「……え? 何それ、予言? すごーい……」
ほほをつりあげるポポは弁当箱を開ける。
その中身を見て俺は背筋が凍った。
「――ッ!? あ、ありがとうな! でも、もも、持って帰って食べるから――!」
俺はポポからフタを奪い、そのおぞましい弁当を閉じる。
「……今食べるつーの、感想聞きたいなの」
「いや、ほら停電して暗くて、おいしい料理もよく見えないし! 自分の教室で食べるよ! 明日感想言うから――!」
俺はクゥの濡れた手を逃れる。
「クゥも風邪ひくから、雨の日にかくれんぼはよせな……!」
俺がドアノブに触れたときに、ポポが口を開いた。
「お弁当」
俺は踵を返し、ポポから弁当箱を受け取り、生徒会室を飛び出した。
廊下を走り、自分の教室に向かう。
「なな、なんだあいつらッ!? な、なんだよ冗談じゃない! どうかしてるッ!」
俺は脅迫状はビグニティ騎士が送ったという言葉を思い出した。
俺はぞっとして弁当箱をごみ箱に投げ捨てた。
「気味の悪いことをしやがって! まだ俺をおちょくって――! 食うかこんなもん!」




