10 女子高生たちを煽る
「……ゥ」
「――犯人はどこの誰なんだ? 何か手がかりは!?」
「……ゥ」
「――おい?」
「……ゥ」
「――おい!」
「……ゥ」
ボッキンは目を閉じ、沈黙を続ける。
「ハロ、あなたが連れてきた魔族は本当にわたしたちに協力する気があるですか」
「……やっぱり信用できないんだぜ」
「おい、ボッキン、何か言えよ!」
「……ゥ」
「やっぱり嘘ちゅき囚人……魔女の手下っ!」
「どうすんだよ、大切な手掛かりが燃やされちゃったゼ……」
「あーあ、犯人に証拠を燃やされちゃったっつーの、マジめんどー」
「……すごいダサいって」
「残念ですの……」
「ハロ、生徒会長が戻る前に、灰を片付けたらその魔族を地下に戻してくるです」
呆れた様子のマリアたちが生徒会室を立ち去った。
「ガルの言った通りだガル! やっぱりこのペテンが脅迫の犯人だったガルね!」
「困りましたね」
「……ゥ」
「――地下に帰るんだ」
「……ゥ」
「――帰るんだ!」
ボッキンはうつむいて黙りこねる。俺はボッキンの髪の毛を掴み、ルアと雄太に嘆いた。
「ああ! 囚人なんか信用した俺が馬鹿だったよ! こいつを地下に閉じ込めてくる!」
●
生徒会を出て、廊下を歩き、中庭を経由して地下への扉にたどりつくまで、俺に連行されているボッキンは黙っていた。しかし、錠を外すといきなりその口を開いた。
「――ごほん……」
ボッキンはわざとらしく発言の咳払いをする。ルア、雄太、ガルナビも不審そうな顔をしている。
「なんだ、うれしそうだな! だが喜ぶなよ! お前が犯人と関係があると、さっきので推測してるんだからな!」
「……それは魔族でも、ニンゲンでも、教会でも、フィシスでもない――」
ボッキンは手に持ったランプの受け皿の灰を指ですくう。
「脅迫の犯人は騎士である――」
「……何?」
「手紙の送り主は……騎士である―――ゥ」
ボッキンは小さく、重い口調で言った。
「そのように呪術が語りかけてくる――ゥ。騎士で間違いない―――ゥ”」
「……騎士……だと?」
俺の手から解放されたボッキンは地面に灰をこすり付けなぞりながらうなずく。
「先の予言にて、生徒会室に同席していた騎士の中に脅迫状の送り主がいた――ゥ。こんなことを騎士たちのはびこる学園内で発言してよかっただろうか――ゥ?」
「いくらマリアたちに恨みがあるからってそんな嘘を言っても無駄だ! 帰れ!」
「それでもあの騎士の誰かが手紙を差し出したという事実なのだ――ゥ”」
「そうやって仲間割れを誘ってるんだろ!」
「この予言は偽りではない」
「魔族め、嘘言うなさ!」
「――嘘ではない」
「嘘つきペテンの占いなんか誰が信用するかガル!」
「嘘ではないと言っておろうッ――ゥ#!!」
ボッキンは地面をぶったたいた。
「女神さまのために愛と誠意を尽くして得た呪術のお告げを伝えたまでだ――ゥ”! 吾輩個人の感情など一遍も含まれていない――ゥ”! 恣意や偏向など微塵も含まれていない――ゥ”! 神聖な呪術をくさすな――ゥ!」
ボッキンは俺をにらみつける。俺は信じていいものか確信が持てなかった。
「ぺぺ」
壁をすり抜けてペッキンコッキンが現われた。そしてボッキンに駆け寄る。
「……ゥ?」
「ぺぺ?」
「……ゥ!」
「ぺぺぺ!」
「アイツらはなんて話をしているんだ?」
「ガルにも聞き取れないガル、ペッキン族の言語だガル……」
2匹のやり取りを眺めていた俺は思い出してガルナビのしっぽを掴む。
「よし捕まえたぞぬいぐるみ」
「ギャル!? なんでガルを捕まえるガル!? ガルは脅迫手紙なんて書いてないガル!」
「コミンの写真盗んだだろ」
「……あ、そういえばそうだったガルね」
「お前がいると全てがややこしくなる。問題が解決するまでこの中でおとなしく反省してろ」
俺は魔族のお仕置き用の檻を取り出す。呪文を唱えると、生き物のように畳まれていた檻が組みあがって、ちょうどガルナビが収まる大きさに仕上がった。
以前、マリアから生徒会の武器としてもらったものだ。
「がるぅ? そんなことしていいガルか旦那ぁ? 騎士ちゃんに旦那が黒騎士だってこと――」
「よし、これから毎日お前にこれを朗読して聞かせるとしよう。まずは59ページ。タイトルは”思いやりの心”だ」
「ギャルるる! そそそれは、ど、道徳の教科書だガル! 気持ちわるいガル! 吐き気がするガル!」
ガルナビの耳元で読み聞かせる。
「ぎゃるるる、耳が腐るガル! 旦那! もうやらないって誓うからこんな恐ろしい呪文やめるガル!」
「なら、しばらく中でおとなしくするって約束しろ」
「がるぅ……」
しっぽを垂らし背中を丸くしたガルナビは檻に頭を突っ込み、不貞腐れる。
「ふん、おしゃべりなガーゴイルめ――ゥ」
「ボッキン、ここに座れ。……で、騎士が犯人ってどういうことだ?」
「吾輩の呪術を信頼するということでいいのだな――?」
俺はうなずき、隣の自動販売機からルアたちの飲み物、そしてぶどうジュースを買う。ぶどうジュースはボッキンが座る小石の前に置いた。
「……実は、お前が言う騎士に少し心当たりがあるんだ」
「やっぱりソォスィン騎士たちが先生を脅迫する犯人さ?」
「……考えたくはないが、俺をクーラーの手下、黒騎士って疑ってたからな」
「そうですね、若干の動機は認められます」
「でも……アクガリやスレイ、ボノ、うるさい女子たちだけど、そんな悪い奴らじゃないし……」
「それ思い込みが思いもよらぬ災禍を招く――ゥ。真実を手に入れたいならば概念を捨て、一度は疑うべき――ゥ」
「何か案があるのか?」
「次の予言を行うための素材がほしい――」「
ボッキンはぶどうジュースの紙パックを揺らして見せた。
「騎士たちのソーサリィを見れば真実により近づける――ゥ。ソーサリィを使った実戦の場を望む――ゥ」
「……騎士の戦いが見たいってことか?お前」
「いかにも――ゥ!」
ぶどうジュースにストローを乱暴に刺したボッキンはそう答えた。
「また妙なことをするつもりじゃないさ!?」
「この予言を実践すれば、ソゥスィン騎士たちの疑いも晴れよう」
「アクガリ、スレイ、ボノを戦闘スタイルに変身させて、魔法を使わせればいいんだな?」
「でも騎士ちゃんたち、安息日で面倒くさがって変身しないガルよ」
ガルナビが宙に浮かんだ檻の中から口をはさんだ。
「何か案でも?」
ルアの問いに対し、俺はみんなに小さく話す。
「せ、先生! それはいくらなんでも!」
「旦那、怖いもの知らずもほどほどだガルよ!」
「他にいい方法があるか?」
●
ルア、雄太、ボッキン、檻のガルナビを連れて生徒会室前に来た。
「もうすぐ、その時間だ――」
壁に耳を当てて中の声を聞く。
「え~、訓練なの~ぉ?」
「騎士に課せられた毎日の日課です。安息日でも規則通り行うです。魔空間に行く前に、みんな準備体操をするです」
「ウチはか弱いから、訓練すると安息日に遊ぶ前に眠くなっちゃうのー、パスなのー」
「ポポ、ちゃんと訓練して、お腹へって、パフェくぅ!」
「放課後のパフェッ!? ペコペコのパフェはそそるなの……!」
「それに、会長さんと行くといつでもなんでもタダになるです」
「まあ、それはうれしいですの!」
「ビグニティのスイーツは有名だって!」
生徒会室の中では何気ないおしゃべりがはずんでいる。
俺は生徒会室の扉を開ける。
俺は無言で立ち入る。ルアたちも続いた。
「……、ハロ」
「はろぅ!」
「何しにきたなの! ソッチはアッチ行くっつーの!」
「体育着も下着も、プレゼントも完売だって!」
「今更ごめんなさいしても……許さないんだゼ――!」
騎士たちは距離をおいて着席した俺に冷やかな視線を浴びせると輪を作り、男の入り込めない独特の空気でおしゃべりを始める。
「ごほん……」
俺は席をたち、咳払いで斬りこんでいく。
「あれ? いつもの訓練の時間なんだけどな……」
俺は腕時計を見る。
女子たちは時折俺に視線を移しながらひそひそと小言を続ける。俺は構わず続ける。
「ビグニティ教会が定める午後の日課なのに、おかしいなー」
「……知らないっつーのッ!」
ポポが背中で言い放った。
俺は雄太とガルナビに合図をだす。
俺はソファーがきしみ壊れるくらいに思いっきり腰を投げだす。
「あーあ、やんなっちゃうな、だろ雄太?」
「そ、そうさね、先生……!」
「なんて女子力の低いんだろうなぁ~!」
「金城さんを見習ってほしいなぁ!」
「暴力ばっかりで、ちっとも女の子らしい可愛げがないガル!」
「安息日だからって生徒会の仕事さぼって!」
「……なのッ! ちょ、まさかそれ、ウチらのこと言ってるの!?」
俺は無視して芝居を続ける。
「こんなんだからいつまでたってもヴァーサー・クーラーが見つからないんだ」
それを聞くと、騎士たちが勢いよく立ち上がる。
「な、なんだと、ヤロッ!」
「は~い! ウチ、戦闘訓練したいなのッ!」
「やるぅッ! ばとるぅッ!」
「ソォスィンの恐ろしさをみせるって!」
「あら、みなさんいきなりどうされたんですか!?」
騎士たちは興奮した様子で体を動かし始める。
やる気になった騎士たちを見て、マリアが無表情で事務的に戦闘空間を作る呪文を唱え始める。
「(ボッキン、これでいいんだな!?)」
「(無論。あとは吾輩に任せて欲しい――)」
「――ところで、女子力って、なんです?」
戦闘空間が生徒会室に広がり、荒野のような場所に早変わりした。
戦闘スタイルに変身したマリアたちが俺たちに対峙する。
「さっきの悪愚痴は事情があって言ったガル! 騎士ちゃんはカッカしないでほしいガル!」
「ハロ、そのチビにシャドー魔族を創造するよう命令を聞かせるです」
「そうなんだゼ! ヴァーサー卿の手下の人形をぶっ飛ばさせるんだゼ!」
「ガルナビ、檻から解放してやるから協力してくれ。頑固してたって終わらないぞ」
「旦那にはおもちゃのかりがあるから仕方ないガルね――。ちょっとだけつきあってやるガル」
騎士たちに対面したガルナビが指をくるりと回すと、遠方に生徒魔族たちの姿が現れた。
「と、突撃だガル……」
「――(ギロリ)」
サリスマリスはガルナビの作った魔族に斬りかかる。
そしてガルナビも騎士たちに一瞬でやられてしまった。
「い、痛いガル! ペ、ペッキンの番だガル!」
「ぺ~すか、ぺ~すか――」
ペッキンコッキンは岩陰で寝ている。
「あいつ、知らないぞ――」
「マリィ! クゥ! 手を取るの! やるなの!」
「せーの!」
ペッキンコッキンは3人の騎士が繰り出した衝撃波で宙高く吹き飛ばされた。ガルナビは飛んでいく仲間を見上げる。
「なんという虐待! 無防備なペッキンによく暴力できたガル! 生徒魔族をいじめて、もう怒ったガル!」
ガルナビは捕囚たちの人形を生み出す。
「や、やればできるじゃないか――!」
「ひねくれ魔族を誘導したです」
「ハロさんは魔族の心を動かせるのですね!」
「ぐぬぬ! 捕囚たちめ! あの日はよくもだゼ――ッ!」
マリアが天に手を伸ばすと、番兵たちの人形が出現する。
「神殿学園の番兵たちの擬態を創造したです」
「オレも!」
そう言ったアクガリも手を上げて、従魔族の偽物を作り出す。見慣れないソォスィン国の魔族を出現した。
「ソォスィンの魔族たちだゼ! ビグニティの魔族に負けないんだゼ!」
「ガルたち生徒魔族を監視する従魔族どもめ! 日ごろの恨みを清算するガル!」
ガルナビが黒騎士であるカースハロたち4人の偽物を作り出す。
「……なッ!」
「おや、これは懐かし……ごほん、黒騎士の方々ですね」
「今も逃走中の黒騎士を倒す訓練として最適です」
「(わなわなわな……だゼ!)」
「――(こくり)」




