【09】ラムダス・ルトニア、大王に即位する
大陸を統一してから二十年。
アルバート大王は、突然の病によって六十七歳でこの世を去った。
その報は、大陸全土を悲しみに包んだ。
エドガー、カール、オスカーは、葬儀に参列するためルトニア王都に集まった。
アルバートより十九歳年上のオスカーは、八十六歳。
白くなった長い顎髭を垂らし、肩を落としていた。
「私より先に、アルバート大王が亡くなるとはな。
看取っていただくのは、私の方だと思っておりました。
天は、なんと残酷なことをなさるのか」
東部から駆けつけたエドガーは、亡きアルバートと同じ六十七歳だった。
王になる前からの友を失い、うなだれていた。
「私にとっては、王になる前からの友でした。
最後まで、この大陸のことを考えていたのでしょうな。
オスカー殿。
どうか、もうしばらく我々と共にいてください。
ラムダス殿下が、父君の築いた世をどう継いでいくのか。
それを見届ける務めが、我々には残っています」
オスカーは、力なく答えた。
「少々、長生きしすぎたのかもしれませんな。
その務めは、エドガー殿とカール殿にお任せします」
カールも既に政務を退き、後進に仕事を引き継いでいた。
三十歳と二十七歳になる二人の息子は、ラムダス殿下の側近として仕えている。
「オスカー殿。
ずいぶんと気の弱いことをおっしゃいますね。
私も、もう政務を退いた身です。
お一人だけ、先に役目を終えようとなさらないでください」
「そうですな。
私も東部から、ラムダス殿下がどのような統治をなさるのか、楽しみにしております」
エドガーは、オスカーからカールへ向き直った。
「私が王都を離れたとき、ラムダス殿下は二十歳だった。
目を輝かせた、立派な青年に育っていたな。
カール。
近頃は、どのようなご様子なのだ」
「二人の息子が、ラムダス殿下に仕えております。
アルバート大王が亡くなられる前から、政務の大半を引き継いでおられたと聞いています。
父君を深く尊敬し、手本としておられるようです」
「そうか。
それを聞いて安堵した」
アルバート大王の葬儀は、しめやかに執り行われた。
その後を継いだのは、四十歳の息子ラムダス・ルトニアであった。
その翌年、オスカーも八十七歳で息を引き取った。
ラムダスもまた、即位当初は父の政策を受け継ぎ、善政を敷いた。
アルバート大王が築いた統治の仕組みは機能し、大陸の繁栄は続いていた。
だが、ラムダスの治世が十年を超えた頃から、少しずつ変化が現れ始める。
カールのもとを、二人の息子がそろって訪れた。
「母上。
近頃、ラムダス大王の独断が目に余ります。
我々が法に反すると申し上げても、意見を退け、王妃やその親族に有利な裁定を下されるのです」
「以前は、お前たちの意見にも耳を傾けておられたはずですが」
「初めのうちは、意見が退けられることが増えた程度でした。
ですが、今は異を唱えることさえ、お気に召さないようです。
父君の代から仕える者が諫めても、ご自分の判断が正しいと譲られません」
もう一人の息子が続けた。
「大陸を治めるご自分より上に立つ者はいない。
誰にも指図は受けぬと、おっしゃるのです。
それに、以前なら思いとどまられたことも、今は望むままに進められます。
我々が費用や民の負担を申し上げても、お聞き入れくださいません」
「私から、エドガー殿に相談してみます」
カールは二人の息子を帰した後、東部を治めるエドガー・ザルツへ書状を送った。
その書状が届いた頃、七十七歳のエドガーは居城の窓辺から、眼下に広がる街並みを眺めていた。
髪は白くなり、顔には深い皺が刻まれている。
アルバートと共に大陸を駆け巡った頃の鋭い眼光は、今も失われていなかった。
エドガーは三人の息子を呼び寄せ、カールからの書状を机に置いた。
「ラムダス大王は、諫める者の言葉にも耳を貸さなくなっておられるらしい。
私が王都へ赴き、直接お諫めするしかなかろう」
「父上。
王都までの長旅は、今のお身体には負担が大きすぎます。
今はまだ、カール殿からの書状で事情を知っただけです。
私どもからも人を送り、王都の状況を確かめさせましょう。
父上が赴かれるかどうかは、その報告を待ってからお決めください。
必要であれば、まず私が父上の書状を携え、ラムダス大王のもとへ伺います。
どうか、ご自身で向かうことはお考え直しください」
「お前の心配は分かる。
だが、カールが私に相談してくるほどの事態だ。
容易なことではあるまい。
報告を待つ間にも、取り返しのつかぬ裁定が下されるかもしれん。
その遅れが命取りになるとは考えぬのか」
「王都にも、この事態を案じる者はおりましょう。
父上が直接お諫めになるのが、最もよいことも分かっております。
ですが、今は戦場で一刻を争っているわけではありません。
まず私が先に王都へ向かい、カール殿と話をしてまいります。
父上のお身体を案じる私どもの気持ちも、どうかお汲み取りください」
翌日、エドガーの息子は、父の書状を携えて王都へ向かった。
エドガーは窓辺に立ち、街から遠くへ延びる街道を見つめていた。
その道を整えたのは、共にアルバートを支えたオスカー・エイダンだった。
四人で大陸統一を成し遂げた日々も、今では遠い。
この道は、故郷のルトニア王都へと続いている。
かつては軍勢を率いて駆けた道を、今は息子が自分の書状を携えて進んでいる。




