【08】大陸統一歴元年
アルバート、四十七歳。
北側諸国を併合してから三年。
東部八か国の平定を終え、アルバートはルトニア王都へ戻った。
王宮の執務室には、三人の重臣が集まっていた。
「オスカー。
今回は、おぬしの補給部隊にせかされずに済んだな」
「それは、喜ばしいことでございます。
ルトニア王国に抵抗したのは、結局二か国のみでした。
その二か国との戦いでも、先に従った東部の国々から兵と兵糧を出してもらえました。
遠くから送り続けずに済んだのですから、私としても助かりましたな」
「ああ、その通りだ。
すべての国が戦わずに従ってくれることを望んでいたのだがな。
カール。
お前は、どう感じた」
「これまで、この大陸を統一した王はいませんでした。
だから、これからも現れない。
あの二か国は、そう考えていたのでしょう。
ですが、それはこれまでの話です。
これから何が起こるかは、王が成し遂げてきたことを見て、判断すべきでした」
「そうだな。
東部諸国の平定を終え、ついに大陸は我々の手で一つになった。
私がルトニア王国の王となってから、十七年。
初めの三年で周辺諸国を従え、その後は大陸統一のために戦ってきた。
この間、我々がゆっくりと過ごせた日はどれほどあっただろう。
ルトニア王国の安泰だけを望むのであれば、このような苦労をする必要もなかった。
それでも我々は、ここまで来た。
この大陸に生きる人々が、戦に追われず、豊かに暮らせる世を築く。
そのために、我々はここまで来たのだ」
エドガーは、王都で二人きりで語り合った日のことを思い返した。
「当時、王は私に尋ねられました。
手の届く範囲でできることをしたいと思うのは、強欲だろうか、と。
あのときより、王の手ははるか遠くまで届くようになりました。
今では、大陸全土の民に手を差し伸べることができます。
あのときの望みが強欲ではなかったことを、これからの統治で示していきましょう」
「そうだな。
これまでは大陸を一つにするために戦ってきた。
これからは、一つになった大陸に新しい世を築かなければならない。
形は変わるだろうが、これからもお前たちと苦楽を共にしたい。
大陸を統一して終わりではない。
我々にとっては、これからが始まりだ。
まずは、私の呼称を王から大王へと改めようと思う。
これから治めるのはルトニア王国だけではない。
私に従った各地の王たちをまとめ、大陸全土を治める立場となる。
その違いを、呼び名でも示しておきたい。
そして、もう一つ。
これまでは国や地域ごとに、年の数え方が異なっていた。
これでは、別の土地で起きた出来事が何年前のことなのか、すぐには分からない。
これからは、大陸が一つになった今年を元年とする。
これを大陸統一歴とし、大陸全土で用いる」
エドガーは、それまでの呼び方を改めた。
「アルバート大王。
よいと思います。
各地の王にも、大王に従って大陸を治める立場になったことが伝わるでしょう。
暦も同じになれば、異なる土地から届く報告を、いつの出来事か確かめる手間も減ります。
これから大陸全土を治めるうえで、必要なことだと思います」
「エドガー・ザルツ。
大陸を一つにしたとはいえ、王都から遠く離れた土地まで、私一人では目が届かぬ。
だからこそ、お前に大陸の東側の統治を任せたい。
広大な土地になるが、お前なら任せられる。
ただ領地を与えるという話ではない。
これまでは国ごとに王がいて、法も税の取り決めも異なっていた。
これからは、大陸全土を治める共通の法と仕組みに統一していく。
時間はかかるだろうが、必ず成し遂げなければならない。
お前には、東部の王や領主をまとめてもらいたい。
各国の交戦権を制限し、土地や権利を巡る争いは法に従って裁く。
徴税権は当面認めるものの、増税には私の許可を必要とし、税収と使途を報告させる。
これらの条件が守られているか、確かめてほしい。
私の代わりに、大陸の東側を治めてくれ」
エドガーはすぐには答えず、やがて深く頭を下げた。
「承知しました」
アルバートは、今度はオスカーへ顔を向けた。
六十六歳となった老臣の髪と顎髭には、白いものが増えていた。
「次に、オスカー・エイダンよ。
街道の整備は、これからの繁栄を支える仕事になる。
おぬしには、引き続き大陸全土の街道を任せたい。
既に商人たちも使い始めている街道を、さらに整え、各地を結んでほしい。
戦のために確保した進路だけでなく、人と物の行き来に必要な場所へ、新たな道を通すのだ。
北で採れたものが南へ届き、東で作られたものが西でも手に入る。
今まで見たこともなかった品物や、食べたことのなかった食材が、大陸の各地へ運ばれるようになるだろう。
そして街道があれば、新たな町も生まれる。
人の住める地域も、今より広がっていくはずだ。
戦のために兵糧と兵士を送り続けたおぬしだからこそ、今度は人と物が大陸中を行き交う街道を造ってほしい」
「これまで積み重ねてきたことを、存分に生かせる仕事でございます。
お任せください。
ご期待を超える働きをしてみせましょう」
最後に、アルバートはカールへ目を向けた。
「カール・ジェイデン。
お前には王都ルトニアに残ってもらう。
人を集めてほしい。
各地の学者や商人、法や税に詳しい者たちを、この王都へ集めるのだ。
法の整備、貨幣制度と度量衡の統一、共通語の普及。
お前が進めてきたこれらの取り組みを、大陸全土へ広げてほしい。
新たに従った土地には、まだ異なる決まりが数多く残っている。
国境がなくなっても、それらが異なったままでは、大陸が本当の意味で一つになったとは言えない。
だが、私たちだけですべてを決めるつもりはない。
それぞれの国には、それぞれが長い年月をかけて培ってきた知識と経験がある。
お前は、従えた土地の法や税を調べ、異なる決まりを整理してきた。
その経験と各地から集めた知恵を生かし、大陸全土で用いる法や制度を、よりよいものにしてほしい。
東部を治めるエドガーとも、よく話し合って進めるのだ」
「承知しました」
こうした取り組みは、年月をかけて大陸全土へ広がっていった。
街道を通じて人と物が行き交い、共通の貨幣や言葉が、土地を越えた商いを支えた。
各地の知識や技術が集まる王都ルトニアは、文化と経済の中心となった。
戦に備えていた土地にも、新たな町や市場が生まれ、大陸は繁栄の時代を迎えた。
そして、その繁栄は永遠に続くと思われた。




