【07】カール・ジェイデン、最後の交渉へ
アルバート、四十四歳。
ルグルスの大森林を抜けてから五年。
最後まで抵抗を続けていた国も、ついに降伏した。
ルトニア王都へ戻ったアルバートは、三人の重臣と今後の方針について話し合っていた。
「エドガー、カール、オスカー。
北側諸国の平定、ご苦労であった。
オスカー。
大森林を通る街道は、引き続き整備してくれ。
戦のために造った街道だが、これからは商人たちにも使ってもらいたい」
「承知しております。
既に、大森林の南端に造った村には商人が集まり、街道を整備する者たちへ食料や道具を売っております。
中には、ルグルスの大森林を越え、北側諸国との商いを始めた者もおりますな。
こうした往来を支えられるよう、整備を続けます」
「残すは、大陸東部の八か国のみだな。
さて、エドガー。
お前は、どう進める」
「これまでと同じく、軍勢を動かす準備を進めながら、交渉を行うのがよいかと存じます。
北側諸国を従えたことで、我が国の最大動員数は、既に三十万に達しております。
東部へは、ブレッテン平原から東へ延びる街道と、草原地帯を抜ける街道が使えます。
北側諸国を攻めたときのように、一つの進路を押さえられただけで、進軍を阻まれることもありません。
オスカー殿。
東部へ向かう街道の整備は、どこまで進んでおりますか」
「ルグルスの大森林に街道を通したことで、職人たちも経験を積みました。
地面を固め、水を逃がし、橋を補強する。
どこに手を加えるべきか、見極めも早くなっております。
今回は既存の街道を使えますが、大軍と補給部隊が続けて通るには、補強が必要です。
ルグルスの大森林で培った経験を生かし、整備を急ぎます。
東部の国々が、もうここまで軍勢を進められるのかと驚くほどの速さで、整えてみせますぞ。
ただ、アルバート王。
まずは、使者を送って交渉なさるのでしょう。
東部の国々が、我が国の軍勢を相手に戦い抜けるとは、考えておられぬようですな」
「ああ、その通りだ。
大軍を東部へ進めれば、相手も我が国との力の差を思い知るだろう。
だが、遠征が長引けば、我が国の民も、攻められる土地の民も疲弊する。
戦わずに済むのであれば、それに越したことはない。
もっとも、力の差を承知で抵抗する国もあろう。
そのときは兵力を集中し、長期戦になる前に決着をつける。
カール。
お前は先に使者として東部の国々へ赴き、我々の考えと従う条件を伝えよ。
戦わずに従うよう、説得してくれ。
それと並行して、私は十五万を率い、ブレッテン平原を通って東へ向かう。
エドガー。
お前は十万を率い、草原地帯を抜けて東へ向かえ。
カールからの報告を受け、抵抗する国を見定めて、攻撃先を決める。
オスカー。
おぬしには、今回も街道の整備と補給部隊の指揮を任せる。
ただし、我々より先に着くなよ。
先の戦では、我々が進軍する先へ、既に補給部隊が到着していた。
まるで、補給部隊にせかされて戦っているようだったぞ」
オスカーは笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。
「お褒めの言葉として、受け取っておきましょう。
それも、お三方が現地の状況を詳しく知らせてくださるからでございます。
報告書を読めば、軍勢がどこにおり、次にどこへ向かうのかが分かります。
遠く離れていても、まるでその場にいるかのようですな」
カールは、交渉で示す条件をアルバートに確かめた。
「アルバート王。
交渉では、相手に何を求め、どこまで譲歩してよろしいでしょうか」
「土地の治め方については、各地の事情と相手の意向を尊重する。
ただし、従った国が自らの判断で他国へ兵を向けることは認めぬ。
土地や権利を巡る争いは、定めた法に従って裁く。
街道を整え、貨幣や物を量る基準をそろえ、共通の言葉を広めることにも従ってもらう。
生まれた土地が違っても、互いに話ができ、物を売り買いできるようにしたい。
税の取り立ては、当面、これまで土地を治めてきた者に任せる。
ただし、勝手に税を増やすことは認めぬ。
何をどれだけ取り立て、何に使ったかは報告してもらう。
王都へ納める分については、その土地の事情を調べたうえで定めよう。
我々に従い、これらの条件を受け入れる王や領主には、引き続き土地を治めることを認め、その地位と領地を保障しよう」
カールは、アルバートの示した条件を整理した。
「各国の交戦権の制限、法の整備、街道の整備、貨幣制度と度量衡の統一、共通語の普及。
徴税権は当面認めるものの、増税には王の許可を必要とし、税収と使途を報告させる。
王都への納付額は、各地の事情に応じて定める。
これらを受け入れることを、地位と領地を保障する条件として示すのですね」
「ああ。
我々の目的は、ただ土地を奪うことではない。
そのことを理解し、戦わずに従う国が、どれほど現れるか。
返答を待つとしよう。
カール。
子供たちは、七歳と四歳になったのだな。
使者として、またお前を送り出すことになる。
だが、大陸統一に向けた最後の交渉だ。
お前にこそ任せたい。
すまんが、よろしく頼む」
「アルバート王。
この戦が終われば、子供たちに平和な世を見せられます。
最後まで、お手伝いさせてください。
それに、十四年もの間、散々こき使っておいて、今さら私を外すおつもりですか」
「そうだな。
これまでそうであったように、今回も無事に戻ってこい。
そして、大陸を統一した喜びを一緒にわかちあおう」




