【03】オスカー・エイダン、大陸を結ぶ道を描く
カールとの話し合いから二日後。
「カールから、報告書は受け取ったか」
王宮の執務室にオスカー・エイダンを迎えると、アルバートは尋ねた。
「はい。
食料が足りぬ土地と、売れずに余っている土地のことですな。
商人から、道や川の様子も聞いております」
アルバートより十九歳年上のオスカーは、五十二歳。
背が高く、細身の男だった。
束ねた髪と長い顎髭には白いものが混じり、目元には皺が刻まれている。
「もう調べてくれたのか。
兵糧を運んできた仕組みを使って、食料の足りぬ土地へ届けられないかと思っている」
オスカーは机に地図を広げた。
街道や橋、倉庫や宿営地。
この三年、ルトニアの軍勢を支えてきた道と拠点が、各地に記されている。
「運ぶことはできます。
ただ、前線に届けるときと同じやり方では、長く続きません」
オスカーは、地図の二か所を指した。
「食料が余っているのはこちら、不足しているのはこちらです。
途中に川があり、舟への積み替えが必要です。
増水すれば、渡れぬ日もあります」
「戦の間と同じように、村から舟や人を集め続けるわけにはいかぬな」
「はい。
村の者が自分の仕事に戻れるよう、商人が使える渡し場か、橋を設ける必要があります」
「この先も荷が行き来する場所だ。
橋を架ける方向で調べよう。
荷車が通れるよう、前後の道も確かめてくれ」
「承知しました。
今の道は細く、雨が降れば荷車が埋まります。
回り道はできますが、日数と費用がかさむため、商人たちも運ぶのをためらっております」
「オスカー。
運ぶ費用を抑え、商人が利益を得られるようにしたい。
私の命令を待たずとも、必要な土地へ食料が届くようにな」
「はい。
高く売らねば利益が出ぬ道では、買う側も困ります。
無理のない値で売買が成り立つよう、輸送の負担を減らしましょう」
「ただし、食料の足りぬ土地を、道が整うまで待たせるわけにはいかぬ。
当面は補給部隊で届け、その間に工事を進めてくれ。
ほかの土地でも、戦のために整えた道を生かしたい。
一から造る場所と、補強すれば使える場所を分けてくれ」
「承知しました。
兵が歩ける道でも、重い荷車が繰り返し通るには補強が要ります。
まずは各地を調べ、少ない工事で輸送を改善できるところから進めましょう」
「人手と費用は用意する。
農作業を妨げぬよう、工事の時期も考えてほしい」
「はい。
職人や働く者を募り、賃金を払って進めます。
急ぐ工事と、時期を待てる工事を分けましょう。
維持や修繕を誰が担うかも、併せて決める必要があります」
オスカーは、地図に記された別の橋を指した。
「こちらの橋は、以前の領主が人を置いて管理させていました。
今は領主が代わり、修繕に使う金を誰が出すのか決まっていません。
傷んだ板を、そのままにしているそうです」
「領主が代わった際に、管理を引き継ぐ者と費用を定めていなかったのか」
「はい。
この橋だけでなく、ほかにも同じ問題がないか調べます。
修繕を担う者と費用の出どころを、明確にしておく必要があります」
「カールとも話してもらいたい。
街道や橋の修繕を、土地を治める者にどこまで任せるか。
おぬしが街道の状態を調べ、カールがそのための決まりを考える。
二人の力が必要になる」
「分かりました。
道を使う商人にも話を聞きます。
地図には道があっても、実際に積み荷を運ぶのに使えるとは限りませんからな」
アルバートは少し笑った。
「机の上では、線一本でつながっているのだがな」
「その線に沿って積み荷を運べるようにするには、なかなか手間がかかります」
ルトニアの領土の外にも、街道は続いていた。
その先には、まだ別の王が治める土地がある。
「オスカー。
大陸の統一を進める間に、従えた土地を街道で結んでいきたい。
カールが整える法や貨幣を、商人たちが生かせるようにな」
オスカーは、ルトニアから外へ延びる街道を指で押さえた。
「兵糧を送るために確保した道を、そのまま商いにも使えるよう整えていきましょう。
進んだ先で土地を知る者に話を聞き、人を送って、道や川、物資を蓄える場所を確かめます」
「王都へ通じる道だけに偏らぬようにしてほしい。
隣り合う土地同士で物を融通できれば、遠くから運ぶ負担も減らせる」
「はい。
食料や品物の集まる場所と、それを必要とする土地を結びます。
兵糧を送る進路とは別に、橋や道を整えるべき場所も出てきましょう」
「その判断を、おぬしに任せたい。
戦が終わるたびに造り直すのではなく、その後も使い続けられる街道にしてくれ」
「承知しました。
この三年で蓄えた各地の知識と、育てた者たちを生かせます。
新たな土地でも職人や道を管理する者を育て、整えた街道を維持できるようにしましょう。
まずは、先ほどの川へ人を送り、橋を架ける場所を調べさせます。
食料の輸送には、今ある舟で一度にどれだけ渡せるかを確かめ、必要な人員を手配しましょう」
オスカーは、食料についての報告書を手元へ引き寄せた。
アルバートは頷いた。
「エドガーとカールにも来てもらおう。
お前たち三人と、これからのことを話したい」
広げられた地図の北には、ルグルスの大森林が描かれていた。
街道を示す線は、その手前で途切れている。
オスカーは地図を片付ける前に、大森林の南端へ小さな印を付けた。




