第9話 防御陣地作成
異世界に転生してから数日間。
爺さんを助け、ルナ様を助け、アリシア様達を助けた俺は今度はシャルルと言う勇者を助けた。
なんとか包囲されたシャルル達を救出し、魔族の追撃を躱して魔族の支配地域から脱出した後、俺達は廃村に身を潜めていた。
勇者シャルル、まさか勇者が女の子だったとはな。
シャルルは今、三つ編みの髪は解いてストレートに、身に纏っていた白銀の鎧も外しぴっちりとした黒いインナー姿で簡易ベッドに寝かせられている。
規則正しい呼吸に合わせ豊満な胸が上下する、気になってしまうが視線を逸らす。
部屋の中には憑依を解いたアリシア様達やフィアナ、クロエが居るがその空気は重い。
その理由は現在の俺達の置かれた状況が最悪だからである。
廃村に身を潜めた後、アリシア様が他の女神に連絡を取って得た情報、それで判明した情報は女神側の前線を幾つか突破され軍が瓦解したとの事。
女神側は再起に必要な勇者のシャルルはこの通り倒れ、聖女のクロエも先日まで捕らわれていて疲労が溜まっているしアリシア様達も力の大半を吸われて回復までもう少し掛かる。
「大丈夫、何とかするから」
不安げなノルン様含む妹達を安心させる為に笑顔で告げるアリシア様。
その言葉にノルン様達は安心した様子を見せた。
見た感じこの時代は戦略と言うか戦術が発達してなさそうだ、魔族達も数でごり押す形が多かったし。
戦術や戦術に詳しいわけではないから実際何処まで巻き返せるかは分からんが、やれるだけやってみよう。
さっきぱっと見た地図で魔族軍を迎え撃つ地点の目星は付けたし取り敢えず移動して見てこよう。
と言うことでノルン様達には此処で少し待っててもらい俺はルナ様とアリシア様を憑依させフィアナに抱えて貰って目星を付けた場所まで走って見に行く事にした。
見に行った場所は丘。
丘の頂上まで登り辺りを見渡す。
見晴らしも良く此処なら魔族の動きを見やすい、しかも片方が絶壁だから此処から侵攻するのは不可能、お陰で少しは防衛しやすくなるだろう。
俺はアリシア様や勇者達と別れこの丘にて時間を稼ぐつもりだ。
勇者達を追う魔族を此処に引き付ける方法も既に考えてあるし、それが可能かはルナ様に確認済みだ。
「これでアリシア様も安心できますよね」
『へ?』
『やっぱりジョンは気付いてたようね』
「ノルン様達を不安にさせない為にアリシア様が無理してるのは何となく感じたので、此処で魔族を足止めしてる間に勇者達に回復してもらえればまだ巻き返せるんじゃないかなと」
『気付いてたんだ……そっか……うん、ありがとうジョンっ!』
『なぁに〜?誰にも気付かれない事を気付いて貰えて嬉しくて泣いちゃった〜?』
『茶化さないでよルナァ……!』
からかうルナ様に反論するアリシア様、だがそれは確かに泣き声だった。
あのままでは一人で不安に押し潰されてたかも知れないからな、良かった。
『ありがとうね、ジョン』
「気にしないで下さい、ルナ様」
迎撃地点とアリシア様の件も片付いたので俺は周囲の警戒を頼んでいたフィアナを呼び、再び抱えて貰ってノルン様達の下へ帰還し直ぐに準備をして丘へと向かう。
丘の頂上に到着して直ぐにシャルルを休ませ、皆に指示を出してこの頂上に簡易陣地を作る。
と言ってもシャルルを寝かせる為のと俺達が身体を休ませる為の物だからそこまで凝った物では無い。
風除けの為に地盤を掘り下げて念の為の雨除けの屋根を作るだけと言う簡単な物だ。
視察と移動で時間が掛かった事もあり既に日が沈み掛けているので本格的な作業は明日にして今日は交代しながら見張りを立てて休む事にした。
「雨の匂い……」
「念の為屋根を作っておいて良かったな」
嗅覚が人族より優れている獣人のフィアナが呟いた数分後雨が降り出した。
幸い運んで来ていた木材で屋根を作っておいたので濡れることは無いしちゃんと排水も考えて溝を掘り外に流れる様にしてある。
ただ雨が降って空気が冷えた為肌寒く感じるので焚き火をする事にした。
一瞬敵の偵察に気付かれると思ったが魔族には居場所が筒抜けなので気にはせず火を付ける。
どうも魔族側は女神達の気配を探る手段を持っているらしくその女神から力を与えられた勇者と聖女の居場所も分かるだとか。
まぁ今回はそれを逆手に取って此処に引き寄せるんだがな。
「ジョン様、お身体が冷えてしまいますので此方に」
フィアナはそう言って俺の身体を抱き締め一緒にローブを被る。
焚き火の近くという事もあり身体が冷える事は無さそうだ。
「見張りもおりますゆえ、どうぞ安心してお眠り下さい」
『明日から本格的に作業を始めるのでしょう?フィアナの言う通り、今は身体を休めなさい』
ルナ様もそう仰られた事だし、フィアナに身体を預けて眠る事にした。
フィアナの柔らかな肢体と良い匂いに包まれ直ぐに眠気に襲われた。
「お休みなさいませ」
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心地の良い暖かさを感じながら目を覚ます。
焚き火の火は消えていたがフィアナに抱き締められた上ローブを被っていたから暖かかったようだ。
周囲はまだ暗い、時計が無いから時間が分からないのは不便だな。
『日が昇るまでまだ時間あるし、もう少し寝てなよ』
「そうさせてもらいます……」
アリシア様に言われた通り再びフィアナに凭れ目を瞑る。
二度寝出来るか分からなかったがここ数日忙しく疲れていたからか直ぐに眠る事が出来た。
そして二度寝から目覚めれば既に日が昇っていた。
俺は素早く朝食を済ませ、フィアナ達に指示を出す。
今日、これから行う作業はこの丘に無数の横穴を掘り、繋げる事だ。
とは言っても掘るのに魔術を用いるからそこまで時間は掛からないと思う、早ければ早いほどなお良い。
またそれとは別に数名には廃村から持ってきたキノコ類等の仕分けをお願いした。
どのキノコも食べれば何かしらの効果がある、眠らなくなるキノコとか疲れが吹き飛んで元気になるキノコとか。
掘った横穴の入り口は土を被せて偽装して隠しておく。
穴を掘った理由は侵攻してきた魔族への奇襲の為に用いるからその入口も隠しておけば効果はそれなりに期待できるだろう。
横穴を用いた奇襲攻撃の成功を寄り確実な物にする為に丘の麓に防衛線を設けるつもりだ。
防衛線にてある程度相手し、頃合いを見て丘へと退却、横穴を用いた奇襲攻撃を繰り返す手筈だ。
ただしこれは人数が多くなければ上手く作動しないだろう。
また勇者達の反撃はその人数が多ければ多い方が良い。
だから俺は幾つかの区分に分けて防衛線を設置し、最終防衛線まで魔族が来たら一斉に撤退し後方の勇者達と合流する事にした。
これなら勇者の回復までの時間稼ぎも出来るし勇者の反撃の際の人数も確保できるから。
ちなみに最初は俺だけ残るつもりだったが流石に1人じゃ無理だなと思いフィアナ達に時間稼ぎを手伝ってもらえないか頼んだ所快く了承された。
穴を掘り続けて数日、今日は麓の防衛線を構築する。
「急いで!魔族共は待ってはくれないわよ!」
「「「「「おぉ!!!」」」」」
フィアナの号令と共にパワーのある獣人やエルフの魔術師が空堀を掘っていく。
『なんで指揮官である筈の貴方まで混ざってるのよ……』
「ルナ様、俺は指揮官じゃなくてただの一般人です、村人です」
「ジョン様?村人は普通この様な所でこの様な作業をしないと思うのですが……」
フィアナのツッコミももっともなんだけどね、しかも俺より周りの皆のが明らかに作業早いしなんなら俺足引っ張ってるし、これ俺要らないね。
そんなこんなで何とか魔族の襲来までに空堀やら横穴は完成した。
欲を言えば麓の空堀の前方に侵入防止用の有刺鉄線とか欲しかったけどこの世界には無さそうだったのと時間が無かった事から掘り起こした土を盛るだけで終わった。
後は勇者であるシャルル達が後方に移動するだけ。
俺はシャルルと聖女であるクロエ、アリシア様達から髪の一部を拝借した。
この髪に力を強く掛けることで擬似的な囮となり勇者達の気配を辿る魔族は此処に勇者が居ると思い無視出来ない筈だ。
アリシア様達の気配は自らで抑えられる様だし、シャルル達の力も抑えてくれる事でほぼ気付かれる事は無いだろう。
「それではアリシア様、お願いします」
「ああ……行くぞルナっ!」
「なっ!?」
頑なに俺から離れたがらず憑依し続けていたルナ様をアリシア様が引き摺り出し連れて行く。
実はアリシア様とタイミングを見計らって2人っきりで話して連れてってもらうよう頼んだのだ。
「ちょっ!?聞いてないわよ昇!、離してアリシア!私は昇とっ!昇っ!昇ーーー!!!」
ごめんなさいルナ様。
この世界にとって、なにより勇者達を勝利に導くにはきっと貴女様の力も必要なんです。
それに此処でルナ様がアリシア様達と活躍すれば貴女は裏切り者の汚名を返上し勝利の女神として更に慕われる。
今より更に生きやすくなりますから。
「しれっと知らない名前で呼んでますけど多分そちらが本名ですよね……?ジョン様?」
「……」
「はぁ……何時か教えて下さいよ、待ってますから」
「……気が向いたらな」
今は皆生き残る事だけを考えよう。




