第10話 丘の攻防戦
丘の麓の防衛線、その空堀から頭を出して目の前の平地を見る。
「とうとう来たわね……」
俺の隣で呟いたのは黒髪ロングの美少女、精霊のマリアだ。
彼女の綺麗な金色の瞳の前に魔術の術式が浮かんでいる、マリア曰く遠見の魔術だそうだ。
此処からでは見えないがマリアはその魔術を用いて魔族達の姿を捉えた様だ。
「いやマリアの配置ここじゃないよな?」
「別に良いじゃない少しくらい離れたって。と言うかそれを言うならジョンもここの配置じゃ無いじゃない」
それを言われたらご尤もなんだけどな。
魔族の迎撃戦は基本的に魔術による遠距離戦を展開する予定だが空堀内には接近戦に備えて獣人族が配置されている。
エルフ達魔術を得意とする者は見晴らしの良い所に配置している為、此処ではなく丘のもう少し上の空堀に待機してもらってる。
だから俺とマリアは本来こんな前線である麓の空堀に居ないのだ。
と言うか魔術の使えない俺は何処に居ても意味が無い気がする。
「旦那ぁ早く戻らねぇとフィアナが怒りますぜ?」
「そうだよ、この後ルナ様のお説教が控えてるんだからフィアナやセレスティナのお怒りは買わない方が良いよ?」
「皆こう言ってるんだから、そろそろ戻りましょう」
「おぉん……と言うかセレスティナは俺よりマリアを説教すると思うんだが?」
苦笑いしながら獣人達に言われたので本来の配置場所へとマリアと共に戻る事にした。
それはそれとしてルナ様と合流したら説教されるのは周知の事実みたいになってるのね。
マリアに抱えられて移動する事に十数分後、目的地に到着。
「やっと戻って来ましたねマリア」
「ジョン様も勝手に居なくなるのやめてもらえます?」
「「ごめんなさい……」」
丘の平場を少し削り広さを獲得した指揮所兼休憩所にて待ち構えていたセレスティナとフィアナがジト目で見つめてきたので俺とマリアは即座に謝罪した。
「平原の奥地に魔族軍を発見したわ」
「私達も観測済みよ」
謝罪後即座に情報交換を行えるのは流石だな。
今なお観測を続けているセレスティナ達の話によると魔族軍はそのまま此方に一直線に進軍中、このままの速度なら昼前に魔術の攻撃範囲に入る様だ。
「セレスティナ達は交代しながらそのまま観測を続けてくれ、魔族との交戦が予定と変わらないようならそれぞれ早めに昼食を摂れ」
「分かりました」
指示を伝えたらフィアナに抱えられてセレスティナ達と別れる。
「今更だけどなんか俺を抱えて移動することが当たり前になってない?」
「こちらの方が手っ取り早く、ジョン様に楽をして貰えますからね。ジョン様は何故か魔術を受け付けませんし……」
フィアナの言った通り俺は何故か魔術による身体強化等の効果を受け付けなかった。
キノコは効果があったり無かったり。
わざわざ嫌いなキノコを吐きそうになりながら水で無理やり飲み込みながら確認した。
それとは別にローナ達から貰った髪の囮が問題なく作用して良かった。
これで魔族を此処に釘付けに出来る。
俺はフィアナに抱えられながら皆の所を順に周り皆と今後の動きについて再確認し来たるべき戦いに備えた。
そしてその時は訪れる。
あれから魔族は止まることなく進軍を続け、セレスティナ達の予測到着時間とほぼ変わらない時間に此方の攻撃範囲に入った。
「まだ撃つな」
「……」
俺の目でも観測出来る程近付いた魔族軍、攻撃は届く範囲だがまだ引き付ける。
普段なら既に撃っているらしいが攻撃範囲ギリギリで攻撃すると後退すれば直ぐに射程距離外に出る為被害も抑えられてしまうと考えてのこと。
相手をギリギリまで引き付ければ進むか下がるかの二択に頭を悩ませるかもしれない、悩ませてくれたら御の字と言った所だ。
魔族は此方を甘く見ているのか止まることなく進む。
そうして射程範囲の中程まで来た所で。
「今だっ!」
「攻撃開始!」
俺の合図を隣に居るフィアナが魔術で各地の友軍に伝える。
数秒遅れて周囲から火、水、風、岩、光などなど様々な魔術が魔族へと放たれる。
遠見の魔術で着弾を確認するフィアナ。
「効果抜群です、やりましたねジョン様!」
喜ぶフィアナ。
今回の味方による魔術攻撃にも少し手を加えさせてもらった。
まず麓の空堀からも前方の魔族に向かって魔術攻撃を仕掛けてもらう。
そうする事で魔族は正面に視線が誘導される、そこに上の方に配置したセレスティナ達の魔術が降り注ぐ。
正面に気を取られ上空から降り注ぐ魔術に対処出来ずやられるという訳だ、セレスティナ達の配置場所は知られてないから始めはから警戒するのはほぼ不可能だろう、相手が此方を見くびっているというか、甘く見ていたのも大きい。
お陰で魔族軍を大きく消耗させれたし、残った魔族も逃げる奴も居れば突っ込んでくる奴も居る、中には進むべきか下がるべきか悩む奴も居る位だ。
セレスティナ達からの第二弾が放たれ魔族軍は壊滅、数少ない無事だった者も急いで退却した。
第一次攻防戦は一瞬にして魔族側の大敗に終わった訳だ。
暫くの間互いに射程距離の外からの睨み合いとなったが待てば待つほど勇者や女神達の回復に繋がると踏んだのか魔族が再び進軍を開始。
既に此方の手は知られているので射程距離に入ったら直ぐに攻撃を開始させた。
流石に一度食らっているので魔術で防壁を張ったりしている為最初より被害を与えられないがそれでも少しずつ脱落者を出している。
そして麓の防衛線に少しずつだが魔術攻撃を始めたが直ぐに異変に気付いた様でざわめきが広がったとフィアナから連絡が来た。
「塹壕がこれ程機能するなんて……」
フィアナも驚きを隠せずにいた。
俺も敵の魔術にもちゃんと機能してくれたようでホッとした。
「塹壕は敵弾から身を隠す為の物ではあるが魔術への効果は未知だったから上手く機能してくれて安心したよ」
麓に作った塹壕、その穴から顔だけを出す事で守る範囲がグッと狭まるから防壁を張るのも少ない魔力と小さな防壁で済むし防壁が小さい分普段と同じ魔力量でもより強固に張ることも出来る。
侵攻する魔族の様に剥き出しの全身を守るより遥かに楽だろう。
以前より強固に張られた防壁を崩す間にじわじわとセレスティナ達によって削られていく事から魔族は再び撤退した。
こうして第二次攻防戦も魔族側の敗北となった。
再び睨み合いになるのかと思ったが魔族側が直ぐに侵攻を再開した。
数的優位によるゴリ押しだ。
「爆発系魔術を魔族の足元に叩き込め」
「分かりました」
数で押されると流石に危険だ、だがこれまでの様に魔族を直接狙っても効果が薄いのは第二次攻防戦で分かりきっている。
攻撃してる間に塹壕に取りつかれるのは目に見えているので今回は敵の足元を狙う。
セレスティナ達から放たれた魔術が地面に当たり爆発し、その爆風に魔族が煽られ転倒したり膝を付いた。
その瞬間に他の魔術が当たる事で魔族達は再び瓦解し撤退した。
そのまま魔族の領域まで撤退してくれれば良いのだが奴らは撤退はせず射程距離に入らない様に陣を構えている。
日が沈む。
流石に夜間襲撃を仕掛けるつもりは無いのか未だに動く気配は無い。
フィアナ達に交代で見張りに立ってもらい俺は少し作業をする。
作業としてもちょっとした物作りだ。
作った物は飲み物と分けて瓶に詰めて、誤飲しないようロープを括り付けるなどして分けて保存。
ある程度作業を終え、フィアナの下へ戻る。
魔族は未だ攻撃してこない。
真っ暗闇にぽつりぽつりと明かりが見えることから魔族も焚き火をしてる様だ。
「様子は?」
「火を囲んで休んでいるだけです」
「闇夜に紛れて動く者は?」
「今の所は見当たりません」
フィアナと共にセレスティナから観測情報を聞く。
やはり動く気配は無さそうだ。
「交代で休みつつ見張り続けてくれ」
「分かりました、ジョン様」
セレスティナを通して友軍に伝え、先に俺とフィアナは休息を取らせてもらう事にした。
休息所にて複数人で身を寄せ合い外套を被り暖を取る。
「こっちよ、ジョン」
俺はいつの間にやら来ていたマリアに手を引かれその肢体に引き寄せられる。
マリアとフィアナの2人と身を寄せ合い外套を被って暖を取り休む。
この時代ではこうして暖を取るのは当たり前の様だ、勘違いしないよう気を付けないとな。
そうして夜間に争いが起こることなく二日目の朝を迎えた。




