第11話 丘の攻防戦2
丘の攻防戦、二日目の早朝。
休息所にてホーンカップと呼ばれる獣の牙を加工した角の杯に水を満たしフィアナに手渡す。
「仕掛けてくるならそろそろか?」
「そうですね、もうじき日が昇りますし仕掛けるならそろそろかと」
昨日3度の攻勢に出た魔族はその全てが尽く失敗に終わってる。
また勇者や女神達に回復の時間を与えたく無いだろうから昨日よりもより苛烈に攻勢を掛けてくると思う。
「ジョン様、セレスティナより連絡がありました。敵がゆっくりと前進してきたそうです……」
「何か問題か?」
そう告げるフィアナの声音が暗かった事から何か問題が発生したのかと思い尋ねる。
普通に侵攻されたなら昨日までと同じ様に対処すれば良いだけだからな。
「侵攻してきたのは魔族ではなく……奴隷部隊です……」
4度目の攻撃にて、魔族は奴隷部隊のみを投入してきた様だ。
俺は即座にセレスティナ達の下へ向かう。
「ジョン!どうするのよ?!」
「ジョン様っ!」
俺が来たことに気付いたマリアが声を掛け、その声に気付いてセレスティナがマリアと一緒に寄ってきた。
「進軍してきたのは全員魔族に捕まり奴隷とされた者達で編成されてます……」
「進軍は奴隷達に任せ魔族達はその後ろで高みの見物よ!ほんっと信じられないっ!」
「ジョン様……どうすれば良いのでしょうか……」
怒るマリアを宥めながらセレスティナが尋ねてきた。
状況を判断するには情報が少ないか……。
「奴隷達の装備は?」
「武器も防具も何も無いです」
フィアナ達の情報から武器となる剣などは無く、また粗末な服だけで鎧なども装備してない様だ。
「奴隷達を受け入れさせて此方側の人数を増やして兵糧攻め?それとも奴隷達を保護した混乱に乗じて攻め入る?なんにせよナイフを隠し持ってる可能性もあるから奴隷達の保護は十分気を付けて行うんだ」
「分かりました」
指示を出し状況を見守る。
数こそ少ないがそれでも食料面ではかなり厳しくなるし兵糧攻めもあながち間違いないかも知れない。
見守る事数分、奴隷達が遂に防衛線に到着する。
「魔族が動き出しました!」
と同時に後続の魔族軍が侵攻を開始したようだ。
「ジョン様っ!塹壕内に入った奴隷達が次々と暴れてます!服の中にナイフを隠し持っているとの事!また魔族の後続は魔術の詠唱を開始しました!奴隷諸共撃つ気ですっ!」
どうやら奴隷達を囮に此方の防衛線を突破しようとする計算の様だ。
確かに奴隷達を塹壕内に押し込んで暴れさせてそちらの対処に集中させて自分達は塹壕へ魔術を撃ち込むことに集中出来るってわけか。
前線で奴隷達を暴れさせてればセレスティナ達の上からの魔術だけに対処すれば良いだけだし。
「前線の人達を後退させろ、奴隷の人達は気絶させて回収してくれ、解放は俺がやる」
「分かりましたっ!」
魔族側から幾つかの魔術弾が放たれ、幾つか前線の塹壕付近に着弾したのを確認。
恐らく予め詠唱しておいて何時でも撃てるように準備してたな。
セレスティナ達も負け時と敵の魔術に自分達の魔術をぶつけて相殺したりしてるし、早い所奴隷達を解放させてもらうとしようか。
「フィアナ!奴隷の解放が完了次第、前線部隊を後退させて奇襲攻撃へ移行するよう伝えてくれ」
「分かりましたっ!」
フィアナは味方に連絡を入れつつ俺と一緒に第2段階時の合流地点へ向かう。
「旦那ぁ!」
「無事かティガー!」
合流地点にやって来た虎獣人のティガー。
彼は人族の男性奴隷を担いでやって来ていた、少々怪我をしている様だがピンピンしているので安心したよ。
ティガーの後にも続く大勢の獣人達、軽傷者がそこそこ居るが重傷者や死者は出ておらずホッとしたのも束の間、急いで合流地点内に作られた休憩所に運ばれて来る気絶した奴隷達の首輪を例の針金を用いて外していく。
首輪を外した子達を順に隠し通路から横穴へと退避させる。
「ティガー達は魔族を引き付けつつ頂上付近まで後退してくれ」
「分かったぜ!」
「フィアナ!セレスティナ達の準備は!?」
「配置は完了してます!」
「良し!行くぞフィアナ!」
「はい!」
前線をティガー達に任せ一部の獣人達と共に横穴に入りその入り口を塞ぐ。
暗い横穴の中は敵に感知されないよう松明を持って移動する。
横穴の中で部隊を複数に分けそれぞれを出口に向かわせて待機、また獣人の子たちに味方の魔術の着弾音を聴いてもらいその音からある程度の位置を捕捉、待機する出口厳選する。
連絡のやり取りも位置バレ防止の為に控え、作戦決行の合図か失敗による撤退の合図のみとした。
獣人達の前線部隊が後退しながらではあるが必ず突破されないとも限らないからな。
合図は全てセレスティナに一任している。
それから暫くの間横穴の中でじっと待つ。
『今です!』
セレスティナからの合図が来た。
フィアナが横穴を塞ぐ壁を魔術で破壊し仲間達が外へ雪崩込む。
「ジョン様は私と一緒に上へ移動してください」
「分かってるさ」
フィアナは兎も角、人族でありまた戦闘に慣れていない俺で皆の足を引っ張るからな。
フィアナと共に頂上へ移動、休憩所に繋がる横穴から顔を出すとそこにセレスティナとマリアが居た。
「ジョン!大成功よ!」
「おっと……」
俺に気付いたマリアは黒髪を揺らしながら嬉しそうに抱き着いてきた。
と言う事は横穴を用いた奇襲攻撃は成功した様だ。
横穴によって辺り一帯から現れて前線部隊と争う敵の背後を攻撃する。
敵からしたら分けが分からんだろうな。
挟撃された事で敵は再び敗走、何人かを無力化し捕まえることに成功した。
捕まえた魔族は拘束して横穴に置いとく。
「旦那ぁ、この後どうするんでぇ?」
「ひとまずは今の防衛線で様子見だな」
下を見れば麓の塹壕から急いで此方の射程距離外に走って逃げる魔族の姿が見える。
今なら麓の塹壕を簡単に取り返せるが、相手に塹壕の正確の位置がバレている状況下では魔術で遠距離攻撃する可能性が高いから逆に危険だし。
この日、魔族が侵攻してくる事は無かった。
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フィアナSide
ジョン様考案の奇襲攻撃が成功した翌日から魔族による麓の塹壕に向けての魔術の遠距離攻撃が始まった。
「下に居なくて良かったな」
ジョン様の呟きに私達は頷いた。
塹壕の正確の位置を把握した魔族は徹底的に麓の塹壕を攻撃し潰した。
そして侵攻を開始して麓を制圧し上へと登り始めた。
「ゆっくりですね」
「それはそうだろう、先日登って背後から叩かれてるんだから」
そうこう話していると大きな爆発音が聞こえた、恐らくだけれど横穴の出入り口を見つけてその出入り口を破壊して潰したのかしら。
そうして侵攻する魔族とそれを防ぐ前線部隊が衝突し、その背後で魔術師達が援護する為に魔術を撃ち合う。
とはいえ、私達は時間稼ぎが目的であって此処を死守するのが目的ではない。
なので危なくなれば普通に前線を下げる。
時には横穴からの奇襲を行いながら、魔族と幾度となく交戦を続け、その物量に日に日に後退する私達は遂に最終防衛線を突破された。
「引けぇ!!!!」
「皆!引くわよ!」
戦場に響くジョン様の指示、私達もその指示に従い勇者様達の待つ村まで一気に後退する。
そしてこの時、私達は判断を誤った。
この時、ちゃんと確認するべきだったんだと。
散り散りになりながらも2日走り、村へと到着。
私達は全員無事に辿り着いた事を喜んだ。
出迎えてくれるルナ様達。
その姿を見て私達は時間稼ぎが成功したと、これで反撃出来ると更に喜ぶ。
「昇は……?」
ルナ様の震える声を聞くまで。
「し、昇は……何処なの……?」
ルナ様の言葉は私達から喜びを奪うには十分で、私達は勢いよく周囲を見渡す、あの死地で見知った顔の中にジョン様の顔だけが無かった。
「まさか……」
ルナ様が呟いた。
けど私達はその先を口にしたく無かった、聞きたくなかった。
「残ったの……?」
ルナ様のその言葉が、残酷な程までに私達に事実を突きつけた。




