第12話 悪夢の丘
魔族Side
脱走した女神と聖女、敗走した勇者達を追い我々は進軍した。
逃げられはしたものの幸い我々とは別の所の女神側の前線を突破する事に成功したと聞き我々も負けてられないと士気は高い。
逃げた勇者達はこの森を抜けた平原の更に先にある丘に留まっているとのこと。
どうやらあの丘で防衛戦を行う様だな。
今は朝、我々は昼前にはあの丘の麓には到着できるだろう。
相手は疲弊しきっている、このまま進軍し奴らに休息する暇を与えない事にする。
「敗走した敵の追撃なんて楽な作業だ」
「勇者は女らしいな、こりゃ楽しめるか?」
「勇者の他に弱った女神達も居るし当分は困らねぇな」
「馬鹿言うな、奴等を犯すのはまだ悪魔様達から許可が出ていないだろう」
「力が取れるからだろ?けどお楽しみもなくこうして逃げられてちゃこっちの士気も下がっちまうぜ」
そんな会話をしながら我々は進んでいた。
それ程までに敗走した勇者達に戦う戦力が無いと思っていた。
よくよく考えたらなぜそんな勇者達があの包囲網を抜け出せたんだとか疑問に思ってもう少し慎重に進むべきだったんだと思う。
麓までもう少しと言った所で麓の前方から魔術攻撃が仕掛けられた。
それに対応しようとした時、身体に衝撃を受けて倒れる。
おそらく魔術が直撃した、だがまだ辛うじて動ける。
痛む身体に鞭を打ち起き上がり周囲を見渡す。
倒れ呻く仲間達。
更に丘から様々な魔術の光が降り注いで来ていた。
「まずいっ引けっ!」
私は即座に倒れてる仲間を抱えて後退する、中にはどうすれば良いのか分からず立ち尽くす奴や前方に向かって突っ込む奴もいた。
敵の魔術の範囲外まで逃げ、傷を癒す。
様子見をしていたが、待てば待つほど勇者や女神達の回復に繋がる為に痺れを切らした指揮官の号令と共に再び進軍を開始。
先程の攻撃で上からも魔術が飛んでくるのは知っている、その対策として防壁を張りながら進む。
麓に近付き、目の前に敵が待ち構えている影が見え少しずつだが魔術攻撃を始めた。
だが奇妙な事に奴等、顔以外が地中に埋まっていた……いやあれはどうやら穴を掘ってその中に身体を隠しているようだ。
見たことない戦いに困惑する中、前方の敵の魔術の防壁が中々破れず逆に此方がじりじりと削られ撤退。
3度目の進軍は数的優位によるゴリ押しとなった。
防壁を張り敵の前線に張り付き強行突破するつもりだったのだが敵は爆発系魔術を至近の地面に撃ち込むことで地面に当たり爆発を起こし、その爆風に煽られ転倒したり膝を付いた。
その瞬間に他の魔術が我々に容赦なく撃ち込まれる。
我々は再び撤退する事になった。
丁度日が沈む頃になり今日の進軍は中止となり明日の朝再び進軍する事となった。
前線を突破した他の所からも援軍を呼び、尚且つ奴隷も呼び寄せる。
そして翌日、我々は奴隷部隊のみを突撃させた。
敵の仲間だけを突撃させれば奴らも攻撃出来無いだろう、その判断は正しく奴隷達は迎撃される事なく前線に雪崩込んだ。
そして我々も予め魔術を詠唱しておき、進軍しながら上の方にて待ち構えている敵や前線の敵に奴隷諸共魔術を撃ち込む。
作戦は成功し敵は防衛線を放棄し後退、我々は前線を突破し掘られた穴の通路を辿り丘を登る。
だが安堵したのもそこまで、後退を続ける敵の前線部隊を追いながら交戦していると背後から強襲を受けた。
前後を挟撃された我々はまたもや撤退。
撤退の最中、見覚えのない横穴があったことから恐らく此処に隠れていたのだろう。
撤退した我々は翌日から敵の前線に掘られていた穴に向けて魔術を放ちこの穴を破壊。
慎重に登り、横穴を見つけては魔術でその出入り口を破壊する。
そして敵の前線部隊と衝突し、背後の魔術師達に魔術攻撃をして前線の部隊を援護する。
それを何度も繰り返す事数日。
敵は敗走、散り散りとなって逃げた。
やっとの思いで手に入れた丘の頂上。
女神達の反応は未だここにある。
今夜はゆっくりと休み、明日見捨てられた女神達の捜索をすれば良い。
「思ったより苦戦したな」
「見知らぬ戦い方だったからな……」
「死人が出なかっただけ奇跡だな」
重傷者や行方不明者、恐らく捕まった者だろう。それらが多数出たが死人は居なかった。
敵は女神達を捨てて逃げ出し、我々は明日目的である女神達を探せば良い。
十分我々の勝利と言えるだろう。
焚き火に当たりながら葡萄酒を飲み、良い気分で私は眠りに就いた。
敵には感謝しなければな、こうして横穴を掘って眠る場所まで用意してくれたのだから。
「━━━━━━!」
「━━━!━━━━?!」
「何だ……?」
騒がしさに目を覚ました。
視線を横穴の入り口に向ける、その先は真っ暗でまだ日も昇らぬ真夜中である事が分かる。
そんな中で微かに漂う血の匂い。
身体を起こし、横穴から外の塹壕に向かう。
それは本当に悪夢だった。
魔族が魔族を襲っていたのだ。
そいつはこの戦いで行方不明になっていた者だった。
何度も呼び掛けても返事はなく、ただその手に握る刃を容赦なく振り回すのみ。
例えそれがそいつの親友であっても。
正気では無い。
止むなく斬り伏せた。
その遺体を調べたが魔術で操られた形跡も無ければ奴隷となって無理やり戦わされていた訳でもない。
仲間に遺体の処理を任せ、後味の悪い感覚に苛まれながら再び眠りに就く。
翌朝、我々は女神を探すついでに武器の回収を行った。
敵が落として行った剣などを回収するだけの簡単な事だ、事だったのだが。
「がっ!」
「またかっ!」
落ちている剣の幾つかが拾うと爆発を起こすのだ。
これでは迂闊に武具を拾えない……。
武具だけでなくどう見ても新品の食料品でさえ拾うと爆発するのだ。
此方は連日の戦いで武具と食料を大きく消耗している為に少しでも相手が残して行った物が欲しかったのだが……。
更には女神や勇者の反応は確かにこの丘からするのにその姿が見当たらない事だ。
「何処に隠れてやがるっ!」
横穴もくまなく探すが見つかる事は無い。
そうして1日を終え、またあの夜がやって来る。
「クソッ!またかよ!」
行方不明だった同胞が現れたかと思えばそいつはまた狂ったように剣を振り回す。
回復魔術を掛けても元に戻らず、致し方なく斬り伏せる。
「ひ、火が!」
これで終わりかと思えば次は火が付いた。
ただ放置してあった木材などに火が付いた、それだけなら良かったのだが火が付いたのは保管してあった食料の入った木箱だ。
「火を消せ!急げ!!」
急ぎ火を消したものの多くの食料が燃え、食べられなくなってしまった。
急いで後方部隊に食料の支援を要請した。
「不気味だ……」
仲間の1人が呟いた。
私もそう思う。
増える行方不明者に狂った仲間、見当たらない勇者達、仕掛けられた罠、そしてこの食料品の火など。行方不明者は戻ってくる奴も居るが……。
不気味さを覚えつつ寝床へと戻る。
「ん?」
寝床の様子に疑問を覚えた。
さっきまで静かに寝ていた筈の仲間に違和感を覚えた。
そっと仲間に近付く、違和感が確信に変わりつつある中、そっと手を伸ばす。
「……死んでいる……!?」
こっちもあっちもそっちも……私以外の全員が息を引き取っていた。
敵が掘った横穴の休息所にて静かに息を引き取っていた仲間達の遺体。
しかも争った形跡も無ければ刺されたような外傷すらない。
「ひっ……うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「お、おい!?どうした!?」
あまりの不気味さに私は恐怖を抱きその場から逃げ出した、仲間達が静止するがそれを振り切り丘を降りる。
悪夢だっ!此処は、この丘は悪夢だっ!
夢なんだきっと!私は夢を見ているんだっそうに決まってる!
帰ろう!家族の元にっ!
これは悪い夢なんだ!
「かは……」
突然の激痛、込み上げる物を吐き捨てれば口内には血の味が広がった。
朦朧とする意識の中、ゆっくりと下を見れば私の身体を貫き赤く濡れた剣がそこにあった━━━━
「はっ!?」
身体を起こし見てみるも傷跡は無い。
周囲を見てみる、直ぐ近くに暖を取る為の焚き火がある。
また天井は布が張られており、少し離れた所に丘がある事から此処は後方の陣地の様だ。
「気が付いたか」
「あ、ああ……私は……」
「進まぬ仕事に疲労が溜まって居たのだろう、お前さんの他にも何人か倒れてたからな。暫くはこの後方で休んでおけ、代わりの者を既に向かわせてある」
「ああ……ありがとう」
どうやら疲れが溜まっていた様だ。
やはり夢だったと、私は心の底から安堵した。




