第13話 悪魔襲来
月光昇Side
騙して悪いが、何て言ったら怒られるだろう。
けど今からする戦い方は余りにも酷いと自覚してる、だからフィアナ達の前では出来なかった。
生きて帰るのは難しくなるけど、確実に足止め出来るから許して欲しい。
板に粘土を張り付けて擬態させた土の扉を開けて入ることの出来る、俺とフィアナとセレスティナのみが知る秘密の横穴。
此処で捕まえた魔族を味方にするある実験をしていた。
やることは単純に暗示の類いである。
結果は大成功。
暗示だからか回復の魔術も効かないというのは助かった。
魔族が眠りに就いたのを確認し、魔族を1人、また1人と攫い拘束し声を出されないよう猿轡も噛ませる。
それが終わったら今度はフィアナ達が撤退した方に武器や食料等を散りばめる。
その幾つかにロープを絡ませておきロープの先端を液体の入った瓶に詰める。
また瓶の先端にはフィアナ達から聞いた特殊金属の針金を設置、瓶の蓋変わりにその特殊金属と触れると熱を即座に発する特殊な綿を詰める。
これにより剣を取ればロープが引っ張られ特殊金属と綿が触れ合い熱を発し綿に火が着き、火の付いた綿が落ちて液体に触れれば爆発する。
本来は焚き火を起こす際の火付けの道具らしいが今回はこの仕掛けに使わせてもらう。
こちらも結果は大成功。
しかも目的の女神達の姿が幾ら探しても見当たらないから魔族達の不満が良く溜まるだろう。
ちなみにアリシア様達の髪は隠し部屋に置いてある。
何故か俺が持っていると気配が薄まるとルナ様達に言われて気付いたので。
今日もこのまま眠らず細工を施す。
幸い活力ダケと不眠ダケはある。
効能は言わずもがな一時的に元気になるのと眠らなくなる物だ。
キノコを手に取り口に放り込む。
「う゛っ!」
口に入れた瞬間不快感と吐き気が込み上げてくる、飲み込めない、素早く水を取り出して無理やり流し込む。
「お゛え゛!!!」
何とか飲み込むも迫り上がってくる吐き気、嗚咽を上げるけど吐くことは無かった。
キノコも食べた事だし、早速動こう。
暗示を掛けた魔族を1人連れて隠し扉へ向かう。
扉をゆっくり開けて近くに居ないことを確認し魔族を放つ。
魔族を放った後、周囲に気を付けながら俺は魔族の食糧庫を目指す。
外で暗示を掛けた魔族が暴れ、そちらに気が向いている間に食糧庫に忍び込み昼間に使った特殊金属と特殊綿を用いて火を起こし食料を保存している木箱に火を付けて撤収。
食糧庫での火事を囮に休憩所に侵入。
1人居ないがまぁ良いだろう。
あれだけ騒いでいるのに未だ眠る魔族に懐から液体の入った瓶を取り出してゆっくりと飲み込ませて回る。
「……」
飲み込ませて少しすれば心臓が止まる。
飲ませたのは安楽ダケと呼ばれる猛毒キノコのエキスを抽出した液体。
文字通り楽に逝けるキノコだ。
再び隠し部屋に戻り2人暗示を掛けて連れて行く。
騒ぎを聞くに食糧庫の破壊活動は成功したようだな。
丘を降りる際に1人の魔族が走っているのが目に入った。
どうやら恐慌状態に陥っている様だ。
逃走を図った1人を刺した所でこいつも利用しようと思い直ぐに回復の魔術を掛けさせる。
気絶しているそいつに暗示を掛け、他の魔族達も暗示を一時的に解いてこの場に気絶させて放置。
下準備はこんな所か。
さぁ……
死にたいやつから掛かってこい。
・
・
・
・
・
女神側の撤退から二日目の夜。
女神アリシア達がジョン・ドゥこと月光昇の救出の為の部隊を編成し出撃した頃、丘は阿鼻叫喚となっていた。
暗示を掛けた魔族を丘を占拠する魔族軍にぶつけた。
横穴からの奇襲や魔術による攻撃などそれは今までの様な優しい物では無かった。
狂った仲間が全力で自分達を屠りに来ている、だからこそ彼らも全力で相手するしか無かった。
「人族にしては随分酷い事をする……」
魔族の亡骸と血に染まった丘をゆっくりと進む人影が一つ。
漆黒の翼に赤い瞳、頭部には捻れた一対の角。
「あ、悪魔様だっ!悪魔様が来て下さったぞ!」
「これで安心だっ!」
その男を見た魔族達の士気が上がる。
彼こそ、魔族達を束ね女神達との戦争を起こした悪魔達の1人。
悪魔の襲来である。
悪魔の男は丘を進み、その頂上にて魔族の死体の山に腰掛けた昇を見つけた。
(血だらけ……ふっこれだけの魔族を相手にしたのだ、虫の息なのも当然か)
多数の魔族を相手に致命傷を負ったのだと悪魔は内心ほくそ笑む。
だが悪魔は知らない、その血の全てが魔族の返り血である事を。
「良くここまで来た、君は紛うことなき傑物だろう」
暗示を掛けた魔族の数は決して少なくない。
その数を捌き無傷でここまで来た彼に昇はそう告げた。
「勇者と女神達は何処だ?」
だが彼にはそんな事は当然であり褒め言葉にもならない。
相手は格下の魔族、いくら束になったとしても決して勝てはしないのだから。
だから何ということもなく話を続ける。
「何の話だ?」
「誤魔化すな、此処に居る事は分かっている」
「あぁ……これの事か」
投げられる勇者達の髪の一部。
それを見た悪魔は一瞬で考えを巡らせた。
「貴様っ!まさかルナの為だけに勇者達を殺したというのか?!ルナを頂点へ君臨させる為だけにっ!」
切り取られた髪を見て悪魔は女神達を殺したと勘違いを起こした。
だが昇としてはそんな事はどうでも良く、どうにかしてこの傑物を始末したいだけだった。
それが思いもよらぬ所で動揺を誘えたのだ。
「……ここまで来た君に」
昇が右手を上げる。
「がっ……がぁ!?」
悪魔を囲むようにあった魔族の死体の山の中から4名の魔族が起き上がり悪魔をその手に持った剣で貫いた。
貫かれ動けない悪魔に昇は腰を上げ刺さっている剣を抜き近付く。
「貴様っなぜ動け……」
「手向けよう」
そしてその心臓目掛け剣を突き入れた。
そして抜かれる5つの剣、悪魔は抵抗無く地べたに倒れ伏した。
「悪魔様が……!」
「狩れ」
その言葉とともに4名の魔族は目の前の魔族達を襲った。
「ケニー!俺だ止せ━━━」
「ぞ、増援を送ってください!」
『増援は送れぬ』
『裏切り者共が!』
丘だけではない、丘より離れた後方でも仲間同士の争いが勃発した。
それも全て暗示を用いた昇の策ではあるのだが、その事を知らぬ魔族達は裏切りまたは狂ったと判断し交戦する。
しかし裏切りによる疑心暗鬼が徐々に伝播し、魔族は恐ろしさから散り散りに撤退を始めた。
悪魔が討たれ、魔族が撤退してから1日半。
丘にルナ達が姿を現した。
ルナ達は昇を助ける為に馬を駆り、強行軍を行って早く到着したのだ。
「なに……これ……?」
勇者シャルルはその光景に驚いた。
魔族の乱戦により周囲には血の匂いが強く漂い、大地には無数の窪みが出来、そしてその周辺に無数の魔族の亡骸が転がっていた。
「昇ーー!昇ーー!!」
ルナは服が汚れる事も厭わず走り、丘の頂上を目指す。
そこから微かにアリシア達が残した気配を感じるから。
「っ!昇!」
そしてその丘の上、塹壕内にて血に染まり土壁に身体を預けて眠る昇の姿を見つけた。
ルナは直ぐに近寄り生存を確認する。
息もある、脈も正常、無事に生きている。
「良かった……」
昇が生きていてくれた、それだけで良かった。
ルナは優しく、眠る昇を抱き上げアリシア達とその丘を去った。




