第8話 撤退3
精霊マリアSide
女神アリシア様達を救うべく勇者の率いる強行軍に付いて行った私達。
アリシア様達の力を受けれず補給が届かない状況で無理な進軍を続けた私達は疲弊し、遂には負けて逃げ帰る始末。
そんな絶好の好機を敵が見逃す訳もなく次々と襲い来る追撃の手に私達は散り散りとなった。
勇者達と逸れた中、なんとかセレスティナ達と一緒に魔族の支配地域からの脱出を目指していたものの遂に囲まれてしまった。
そんな絶体絶命の中、怪我を負い地に座ったセレスティナに魔族の凶刃が迫った時に魔族は背後からの奇襲を受けた。
私達を救ってくれたのは継ぎ接ぎの外套を被った不思議な人族が率いる獣人と人間の混合部隊だった。
そしてその部隊に私達の救出目標でもあった聖女クロエの姿もあった。
始めは偽物なのではと思った。
だって私達は捕らわれている場所に辿り着くことすら出来なかったのだから。
けれど怪我をしたセレスティナを治した事から彼女が本物の聖女である事が分かった。
話を聞くにフィアナ達獣人を率いる人族、ジョン・ドゥは単独でクロエやアリシア様達が捕らわれていた場所まで潜入しアリシア様達は勿論クロエや他の奴隷まで解放してここまで来たと言う。
しかもこのジョン・ドゥと言う男、魔力を一切持っていないという。
そんな人族の子が一体どうやってアリシア様達を助けたのか、神々の最高戦力の一角である彼女には見張りも付いている筈だし、失礼だけど魔力を持ち得ない彼では到底魔族には勝てないと思った。
それどころか奴隷で見張りに駆り出されていたフィアナ達にも劣るだろう。
その答え合わせは直ぐに出来た。
フィアナ達を擦り抜けて魔族が3人がクロエ達の方へ駆け寄った。
クロエ達から息を呑むような音が聞こえた。
「くたばれぇ!」
「ふっ!」
けれど魔族はその前に立ち塞がったジョン・ドゥに成す術なく制圧された。
突っ込んできた魔族の男の拳避けてその腕を掴みその場で一回転したかと思えば他の魔族へと放り投げる。
すぐさまもう一人の魔族へ接近しその顎を殴り抜け背後へ回り込んで足を蹴りつけ膝を地面に付かせた後その側頭部に回し蹴りを放ち倒してしまった。
「凄い……」
流れる様な動作にそんな言葉が自然と零れた。
それを見た一人の男の号令と共に魔族達は気絶した仲間をそのまま放置して撤退を行った。
その後追撃を掛けようとしたフィアナ達をジョンは止めた。
その理由を聞いて私達も納得した、確かに疲労が溜まり補給がない状況下で無理をして相手を追撃しても良くないもの、それに追撃で削れる敵の戦力も微々たるもの、それらを即座に考た彼の聡明さには驚かされるばかりだ。
「不思議な人ね……」
『ほんと不思議だよね〜』
そして1番意味が分からないのがこれである。
何故ジョンは私は勿論のことこの女神様達を憑依させて平然としているのか。
あの聖女クロエですらアリシア様を憑依させると凄まじい疲労感に襲われて動きが鈍くなると聞く。
なのに彼は疲労感に襲われている様には見えないし動きが鈍くなる様子も見られない。
何より驚いたのはあの人族に興味を持たなかったルナ様が我が事の様に自慢気に胸を張っていること。
誰がどう見てもジョン・ドゥはルナ様のお気に入りだろう。
魔力を持たず、未知の戦闘術を駆使する人族の男。
ジョン・ドゥ、貴方は一体何者なの?
そんな風に思いながら私達は現在フィアナを先頭に魔族の支配地域を脱出する為に進行中。
「フィアナ、勇者の容姿を教えてくれ」
「長い金髪を三つ編みにした少女で白銀の鎧を身に纏っています、見れば直ぐに分かると思いますよ。仮に分からなくても我々が知っていますのでご心配なく」
あら、ジョンは勇者の姿を見たこと無かったのね。
まぁ戦場も一つではないし仕方ないわね。
ジョン曰く主目標は魔族の支配地域からの脱出だけれどその道中に勇者が居れば助けるつもりのようね。
それから数日間、敗走する味方を襲う魔族達を倒し味方と合流するのを繰り返し遂に私達は魔族の支配地域の終わりの目の前までやって来た。
この森を抜けた先、そこへ行ければ私達は魔族の支配地域から抜け出せる!
直ぐそこに迫る終わりに胸が高鳴るのが分かる。
そして森を抜けた先。
無数の魔族に取り囲まれた友軍。
その真ん中に倒れている勇者を私は見た。
「急ぐぞ」
「はい!」
「っ……待って!」
ジョンの言葉に我に返り直ぐに呼び止めた。
「あんな数を相手に戦うなんて正気!?」
今までの魔族の数とは大違い、それなのに進もうとするジョン達に私はつい声を上げてしまった。
「いや、まともに戦うつもりはない。ちゃんと説明するから落ち着いてくれ」
そしてジョンから聞かされた囲まれた勇者達を助ける為の作戦。
私達は一度大きく迂回してから奇襲攻撃を仕掛ける。
何故迂回するかと言うと勇者達の退路を確保する為であり、今私達のいる所から突っ込んだ場合魔族の支配地域を抜ける為にもう一度包囲網に穴を開けなければいけないからだそうだ。
倒れている勇者はアリシア様によると過労による物で命までは大丈夫との事。
また魔族との交戦は拮抗しており直ぐに直ぐやられるわけではない為迂回する事を選んだそうな。
私達は敵に気付かれないようゆっくりと回り込み退路を確保する。
幸い此方は撤退中にそれなりの数の友軍と合流出来た為退路を確保するには十分の戦士の数ね。
「良し……行くぞ」
「「「「「「「「おぉ!!!!」」」」」」」」
ジョンの合図と共に仲間達が鬨の声を上げて囲む魔族の背後に奇襲を仕掛けた。
突然の奇襲に魔族は対処出来ずに瓦解、簡単に勇者達の下までの道を確保したらエルフ達が魔術を用いて退路を維持する。
「シャルル!」
「クロ……エ……?」
直ぐに聖女が勇者に駆け寄り回復を施す。
そんな2人の下に駆け付けたジョンは素早く勇者を担ぎ。
「引けぇ!!!」
大声で指示を飛ばし駆け出す……いや待ちなさいよ貴方、何で魔術で身体強化とかしてないのに人一人担いでそんな猛スピードで走れるのよ……。
「勇者を逃が……いや早っ?!」
あまりの速さに敵である魔族も驚いてるわよ。
それもそうよね、だってジョンに魔術が掛けられた形跡が無いのは魔術に長けた魔族達なら直ぐ分かるものね、余計混乱するわよ。
「ジョン!どうやってそんなに早く走ってるのですか!?」
『私がシャルルに軽量の奇跡を掛けて軽くしたのよ』
身体強化の魔術を用いて追従するクロエにノルン様が説明してくれた様に実際はジョンの担いでいる勇者を奇跡で軽くしているだけなのよね。
……いや逆に素の速さがあれってこと?幾らなんでも速すぎない?
「フィアナ!」
「はい!」
かと思えば走る速度が下がり、フィアナを呼び出し勇者を預けた。
どうやら体力切れのようね。
「失礼します……!」
「おぉん……」
それを見て別の獣人が近付いてきたかと思えば今度ジョンが担がれる形となったわ。
たった数日でジョンの事をよく理解したわね……。
そのまま魔族に追われながら撤退を続け、やっとの思いで魔族の支配する領域から逃げ出せた。
「やった!帰ってこれたぞ……!」
「生きてる……!生きてるんだっ!」
命からがら逃げ出せた事で嬉しさに声を上げるのは良いけど大変なのはここからよね。
魔族達は自分達の支配地域から逃げ出された事で一度引き返したけれどこれで終わる筈が無いし。
きっと軍を整えて進軍して来るわ。
魔族達が攻めて来る前になんとか勇者やアリシア様達に力を蓄えてもらわなければならない。
とは言え疲弊しきった状態で尚且つ勇者達が居ない状況で進軍してくる魔族の相手も厳しいのだけれど。
「ジョン様」
「今は此処から遠くに離れるしか無いか」
今後の動きを尋ねたフィアナへの答えがそれであった。
少しでも遠くへ離れ勇者達が回復するまでの時間を稼ぐつもりなのだろう。
私達はフィアナの背に眠る金髪ロングの勇者を見ながら魔族の領域との境から離れるべく歩みだした。




