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セカンド・ワールド〜女神救出から始まる物語〜  作者: 唯ノ蒼月
第4章 吸血鬼の古城

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第78話 満月の夜

「終わったな〜」


魔眼の悪魔イビルアイの討伐を終え、皆が皆ホッと一息つく。

奴がラピスの魔眼を無理矢理解放させた時はどうなる事かと思ったけど何とかなって良かったわ。

そのラピスはどうやら戦いの最中にラニと魔眼を共有する方法を覚えたらしく、それによって本来一人で負担する物を2人で分け合って軽減した様だ。

その魔眼も今はエイア様が再び封印を施している最中。


それともう一つ驚いたのは儀式魔術だな。

まさかラニの膨大な魔力を共有して2人で魔術を構築、現れたのがあの水の九頭竜。

セレスティナとマリアの儀式魔術の練習を見てきたからと言って土壇場で、しかも初めてで出来る物ではないだろうに。

やっぱりかなり素質が高い様だ。

そんな風に物思いに耽っているとクロエが此方に駆けてきた。


「昇!手を見せてください!」


しまったぁ……ラピスを助ける為に手を斬ったのを見られていたようだ。

有無を言わさぬ勢いでクロエが俺の手首を掴む。


「っ……!直ぐ治療します!拒否権はありませんからね!」


「お、おぅ」


ま、まぁ後でしてもらうって約束したからな……。

戦いも終わったし取り敢えず傷の手当をしてもらおう。


互いにその辺に座り、クロエが血が流れている手のひらの治療を始める。


「染みますからね〜」


「っ……いた゛た゛た゛た゛た゛?!」


「染みるって言ったじゃないですか〜我慢してっ下っさいっねっ!!!!!!」


笑顔でそう言ってぎゅぅぅぅぅぅと消毒液が染み付いた布を押し当ててくるクロエ。

いや力強く押し付けるから痛いんだよ?!

もしかしなくても怒ってるよこの娘!!!!


あまりの痛さに手を引こうとしたら更に強く手首を掴まれ更には足まで絡めてくる始末。

絶対に逃さないという強い意志を感じる。


「楽しそうだね2人とも」


そんな様子を見てアリシア様が微笑ましそうに表情を緩めてそう呟いた。


「これの何処が楽しそうに見えんだよ?!」


「アリシア様になんって口の利き方してるんですかっ!!!!」


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!」


駄目だっ主導権は今っクロエに取られているっ!


そんな俺達の様子を見て皆が笑う。

そんな時だった。




ドォォォォォォン!!!!!!!


「は?」

「へ?」


何かが壊れる、バカでかい音が後ろから響く。

振り向けば其処には先程まで無かった土煙が舞い上がっていた。

俺とクロエからは呆けた声が漏れた。


え、なに?古すぎて天井が落ちた?


そう思ったのも束の間、土煙の中に見えた2つの赤い光。

それと目が合った(・・・・・)瞬間俺はクロエを抱きしめてその場から飛ぶ。


土煙を突っ切り、人が飛び出す。

手に赤い槍を持った、赤髪ロングに赤い瞳の少女だ。

その少女はついさっきまで俺とクロエのいた所に槍を突き立てた。

あのまま彼処に居たら今頃串刺しになってたな……。


「こいつは……?」


「私は知りませんが……」


クロエの他にシャルルやフィアナに視線を向けるも顔を横に振るだけ。

どうやら誰も知らない様だ。


「エ、エルトリーデ……?」


後ろに隠れていたオリヴィアが掠れた声で呟く。


「知り合いか?」


俺の言葉にオリヴィアは赤髪の少女をじっと見つめた後頷いた。


「間違い無いわ……彼女はエルトリーデ、吸血鬼の始祖で……私の親友……」


「この子が始祖ですか!?」


オリヴィアから告げられた真実に驚きの声を上げるクロエ。

クロエの他にも皆驚いている所から吸血鬼の始祖という存在は知っている様だ。

その容姿までは知らなかった様だが。


オリヴィアによると始祖エルトリーデは上階に幽閉されていた様だ。

先程の崩れてきた天井とかは恐らくエルトリーデが破壊しながら降りてきたからだろう。


「中立だった事と幽閉されていた事を考えるに何かしらの要因で暴走してんのかね?」


一番考えられるのはラピスがやられた様にイビルアイの魔眼で何かしらされていてそれが暴走したとかか。


「不味いね……」


「何が?」


剣を構えつつエルトリーデを刺激しないように俺の方までゆっくりとやって来たシャルルが呟いた。

不味いと言われても俺には何が不味いのか良く分からない。

まさか暴走状態が不味いとか?


「あれ見て」


シャルルがゆっくりと指を指した先を見る。

そこは先程エルトリーデが壊しながら降りてきた場所で壊れた壁や天井から空が見える。


「夜……しかもほら、満月だよ」


シャルルが言うように壊れた天井から見える空は既に真っ暗、そしてぽっかりと浮かぶ満月が此方を覗いていた。


「……満月だとやっぱりパワーアップとかする感じ?」


「うん、する」


始祖エルトリーデは満月の夜になるとより力が増すと言われているらしい。

その上、今の始祖エルトリーデは正気を失っている様で小さな身体をふらふらと揺すりながら俺達の方へとゆっくりと歩いて来ている。


「正気……じゃないよね」


「あの目で正気だったら逆に怖いんだが」


相対する彼女の赤い瞳は虚ろげで焦点も定まっていない。

そんな状態なのに正気だったらマジで怖いんだが。

覚束ない足取りなのも相まって雰囲気が凄く怖いし。


「他の吸血鬼の姿が見当たらないが……」


「始祖と同じく幽閉されてるんじゃないかな、あの娘は暴走した結果自力で出てきちゃっただけで」


「始祖が幽閉されてるなら他の吸血鬼も幽閉されるか……何にせよ周囲の警戒を怠らない様にな」


「分かってるよ」


全員が全員幽閉されているとは限らないし始祖と同じく今この瞬間暴走して此方に向かってるかも知れない。

もしかしたら雪の里みたいに実験体にされてる可能性だってある。

ルミとルイナさんに思い出させる訳にいかないから口には出さないがシャルル達もその可能性は思いついているだろう。


「一難去ってまた一難か」


「儘ならないものですね……」


クロエの言葉に俺とシャルルは頷く。

悪魔を倒せたと思ったのになぁ。


壊れた壁から風が吹き、室内を照らしていた蝋燭の火を消し去る。

満月の光だけが照らす室内をエルトリーデが歩く音だけが響く。

薄暗い中でぼんやりと浮かぶ2つの赤い瞳が、先程までと違ってしっかりと俺を捉えた。


こうして悪魔イビルアイを倒したのも束の間、吸血鬼の始祖エルトリーデとの戦闘が始まった。

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