第76話 魔眼の悪魔
ルナSide
やっぱり昇は私の下に帰ってきたわ。
それも良いタイミングで。
悪魔が私とアリシアに夢中の時に背後に現れたから反応する前に殴り飛ばす事に成功。
しかもちゃんと状況を瞬時に把握して人質の小娘まで解放してるんだもの。
流石私の昇ね♪
「昇!」
悪魔が殴り飛ばされた事で距離が開き、その隙にシャルルが昇の横に並び立ちアリシアの剣を構える。
「無事でっ!?」
シャルルの次に駆け付けたクロエ。
昇の生還に安堵した筈なのに息を呑んだ、何かしら……?
「怪我してるじゃないですか!」
クロエの言うようによく見ると身体の所々に切傷があるし血が服に滲んでるわね。
そうよね……転移先であの悪魔と戦闘してるでしょうし、流石の昇も怪我するわよね……。
そっと後ろから手を回して抱きしめる。
「ルナ様?」
「大丈夫よね……?」
「掠り傷です、死にませんよ」
そう苦笑いした昇。
死にはしない、けれど彼は異世界人であり私達女神の力も殆ど受け付けない。
昇に対する治療はほぼ自然回復しか無いに等しいのよね……。
最近になってようやく私の血とかを混ぜたものなら効果が出てくるようにはなったけれど。
「掠り傷です、じゃないんですよ!馬鹿!」
「待って、待って、首筋叩こうとしないで、流石にそれは痛いから!」
昇の発言が気に入らなかったのかしら、クロエが一番傷が酷い首筋を叩こうとして昇が両手を握って防ぐ。
「とにかく治療を!」
「後にしろ!今は目の前の悪魔に集中するんだ!ちゃんと後でクロエの手で治療してもらうから!!!」
「言質取りましたからね?!絶対ですから!!」
そこまで言ってようやくクロエから解放された昇は再び私へと向き直る。
「ルナ様、剣をお返し……あれ?」
「大丈夫よ、ちゃんと私の下に戻ってるから」
昇が帰ってきた時に昇の下にあった私の剣は自然に私の中へと戻ったわ。
思ってた通り私の剣は昇の危機に反応して彼の下へ現れたようね。
話も済み、改めて悪魔と向き合う。
黒い髪、捻れた2対の黒い角に黒い羽根、尻尾。
黒いジーンズの様なズボンに上半身裸。
そして初めて会ったラニ達の様に包帯で目を隠してる。
「ミミティ、あいつは?」
「イビルアイ、魔眼の悪魔よ」
昇が尋ね、ミミティから短く情報が告げられる。
イビルアイと呼ばれた悪魔は昇に殴られた痛みが引いたのか、ようやく立ち上がったわ。
「権能は」
イビルアイはそのまま目元の包帯に手を伸ばし、取り除く。
漆黒の瞳が現れた。
「魔眼による魔力の可視化」
「違うな」
ミミティの情報を否定しながら私達の方へと歩き始めるイビルアイ。
それに対してシャルル達が駆ける。
振るわれるシャルルの聖剣、フィアナの双剣、ローナの曲刀。
奴はその全てを躱した。
「このっ!」
「私の力は未来予知だ」
シャルルの放った一閃を指2本で挟んで止めながら奴はそう嗤った。
未来予知、私達の中ではノルンが扱える。
私はミミティへと視線を向ける、もし奴の言ってる事が本当なら苦戦を強いられる事になる。
ミミティの表情は驚きを露わにしている、分かってはいたけれど私達を裏切った訳では無いようね。
では奴の言葉はハッタリ?でもシャルル達の攻撃が何処に来るか分かっているような避け方だったわよね……。
未来予知というのが現実味を帯び始め、私達に緊張が走る中でノルンだけは平然としてるわ。
「私の未来予知と貴様の未来予知、どちらが上から試すか?ノルン」
「試す必要は無い」
「何……?」
静かに発せられた昇の言葉を聞き悪魔は眉を顰めた。
「俺の不意打ちを防げない時点でお前よりノルン様のが上だ」
「きっさまぁ……!」
無意識に煽ってるわね……。
「どうせ魔力の流れから動きを予測してるとかそんなんだろ」
「は━━?ごほっ?!」
昇の放った左拳がイビルアイの腹部を捉えた。
続く右ストレートが綺麗に顔面を捉え再び吹っ飛ばす。
魔力の無い昇の動きを予測出来ない、だから攻撃が当たっているのかしら?
顔を抑えるイビルアイ、その隙をシャルルが追撃を行うけれどやっぱり避けられ━━
嘘っ掠った?!
イビルアイは回避行動をした、それはさっきと一緒。
けれど今回はシャルルの剣が確かにイビルアイの肌を浅く斬り裂いた。
「当たった!?」
当てた本人であるシャルルもその事に驚いてるわね。
「奴の視界に入ってる時のみ未来予知が出来るって事か?ならミミティの言った魔力の可視化で間違いなさそうだな」
その様子を見て昇は冷静に情報を整理する。
「ふっ!」
シャルルやフィアナ達の攻撃を回避するイビルアイに近付き攻撃を仕掛ける昇。
「ぐぅ?!」
昇の攻撃に対してイビルアイはやはりというか、防げていないわね。
「ふん!」
「チッ……!」
舌打ちをしつつ放たれた膝蹴りを受け止めるイビルアイ。
けれど魔力が無い事から行動の予測が出来ずワンテンポ遅れてるわね。
それから数度交戦した昇は何か思いついたのでしょう、その場から少し離れたわ。
昇が離れた事でイビルアイはシャルル達への対応に力を入れれる様になるけれどその事に付いては誰も何も言わない。
他ならぬ昇の行動、絶対に理由がある。
そう信じてるからこそ私やアリシアは勿論、直接戦うシャルル達も困惑すること無くイビルアイを相手出来る。
ビュッ
離れた昇から放たれるナイフ。
それを驚愕の表情を浮かべながらイビルアイは躱した。
「お前……さては俺が見えてないな?」
その様子を見て昇は確信したようにそう言った。
「しかもどういう訳か、俺の持つ物すら見えなくなるようだな」
昇は何故見えないのか分かってるみたいだけれど私にはさっぱり分からないわね……。
動きが見えないのは魔力が無いからというのは分かるけれど……。
「恐らくだが魔眼を使うと俺が見えない、逆に魔眼を閉じれば俺を捉えられるがシャルル達の動きが読めなくなる……」
……まさか、この世界に定着していない昇の肉体を魔眼では見ることが出来ないって事?
私達女神の気配を隠す事の出来る特殊な肉体だから持つ物すらも見えなくなるというのなら分からなくもないし……。
でも同じ魔眼持ちのラピスは昇の姿が見えてるわよね……?
「まさか……魔眼を通してしか世界を見れない……?」
同じ魔眼持ちのラピスが呟いたその言葉にハッとした。
魔眼を閉じている間は盲目だとするなら昇の姿が見えないのも頷けるわ……!
イビルアイは目を閉じててもある程度戦える様だけれどシャルル達相手に先読みを捨てるのは厳しいでしょうし。
「魔眼を使うと俺が見えない、魔眼を閉じればシャルル達の動きが読めなくなる、さぁどうする?」
昇が拳を構える。
その傍にはシャルルがアリシアの剣を構えている。
対するイビルアイは何かに気付いた様にある一点を凝視する。
「小娘!貴様魔眼を持っているな!」
そう言ってイビルアイはラピスを視た。




