第74話 信じてる
ルナSide
吸血鬼達の根城である古城、その前の広場で交戦していた悪魔、その割れた肉体から放たれた眩い光が世界を包んだ。
そして光が収まった時、悪魔の姿は無くなっていた。
「え……」
声が響いた。
私の声だったかしら……はたまたアリシアか、それともその場の全員か。
【世界から昇が消えた】
昇に憑依していた筈の私やアリシア達をその場に残し、まるで今まで居たのが嘘みたいに何の痕跡も残さず消えてしまった。
昇を探す為に皆が周囲を見渡す。
けれど昇の姿は何処にも無くて。
ただ私達のこの反応と昇の髪や血が編み込まれた外套だけが昇がそこに居たと言う証拠で。
「しょ……昇……」
ラニが呟く。
泣きそうで、消え入りそうな声で。
気の強いラニが普段絶対に見せない弱々しい姿が余りにも痛々しくて。
妹であるラピスがそっと抱きしめるけれどそのラピスも泣きそうで、双子が互いに抱き合う姿はより一層弱々しくて。
その姿を皮切りに。
シャルルがその場に茫然と立ち尽くす。
アリシアの剣を持つその手が力無くだらりと垂れる。
クロエはただ無言で立ち、手から血が出るのではないかと言う程ギュッと握りしめる。
フィアナやローナ、ティガー達はその獣耳や尻尾がぺたりと力無く垂れる。
リーゼロッテやミミティも気丈に振るまっていたり表情には出してないけれど尻尾が力無く垂れている所からかなり堪えているわ。
つい最近知り合ったルミは泣きルイナはそんなルミを抱きしめ頭を撫でて落ち着かせようとしているけれど本人もその瞳に涙を溜めている。
普段鬱陶しい程元気なフォティアは嘘みたいに静まり返っている。
精霊のマリアもエルフのセレスティナも運命を司り未来視も出来るノルンも昇を弟と呼び可愛がっているエイアも昇が初めてのを信者であるヴェシーナも。
そして、神々の最高戦力であり、妹達の前では決して弱気な姿を見せないアリシアも。
皆が皆、その表情に暗い影を落とす。
私達の中で昇がどれほど大きい存在なのか、痛いほど知らしめられる。
勇者も聖女も精霊も魔術師達も。
そして女神達でさえも悪魔のあの光によって転移した昇を捕捉できていない。
そう、昇はまだ生きてこの世界に存在している。
イニッツィオ要塞攻略の時に結んだ私との魂の繋がりが昇の存在と生存を教えてくれる。
けれどそれだけ。
昇が1人である事、そして瀕死とはいえ悪魔と2人、1対1という危機的状況である事に変わりはない。
昇は強い。
けれど今の彼は怪我を負っているし、武器も携行していないわ。
対する悪魔は鋼の剣を所持していた、無手であれ程の強者の相手をするのは危険。
けれど、私には不思議と不安は無かった。
全く無いと言うと嘘だけれど。
なぜ不安を感じないのか。
それは私の力の一部が昇の傍に居る、そう感じるから。
その力の一部、それはリューヌに与えた私が作った剣だと直ぐに分かった。
きっと昇の危機に反応したのね。
つまり昇は無手ではなくなったと言うこと。
私の剣はリューヌしか触れない?
冗談じゃ無いわ、昇なら私の剣に触れられるし扱えるわ。
だって私の昇だもの、触れられない筈が無いわ。
「昇……」
あら、いけない。
アリシアの呟きに我に返る。
私はこうやって知る術があるから良い、けれど他の皆には知る術が無いものね。
もしかしたら元の世界に戻ったと思ってる娘もいるかも知れないわね。
「昇は大丈夫、生きているわ」
だから私が皆に教えなきゃいけない。
昇の生存を。
何故昇だけが選ばれたのか、恐らく昇がこの中で一番の脅威と見られたからでしょう。
その見立ては正解。
勇者シャルルなんて私の昇の足元にも及ばないわ。
悪魔のくせに中々見る目はあるようね。
「昇は大丈夫、だから先へ進むわよ」
……本当の事を言えば直ぐに昇の下へ駆け付けたい。
幾ら昇が強く、私の剣があるとか言っても相手は悪魔で昇自身も負傷してる。
それに1対1とは言ったけれど絶対と言う保証は何処にも無い。
転移した先が魔族の陣地内だったら?
複数の悪魔達が待機していたら?
流石の昇でも複数の相手をするのは無理よ……。
これまでの陣地攻略だって夜の闇に紛れての侵入や魔族の戦士を使った奇襲によるもの。
単騎で正面から力ずくで戦って勝ち取ったものはない。
アリシアの様に単騎で敵を蹴散らせるほど強い訳では無いと自分で分かっているからこそ昇はああいった搦手を使う。
だから助けに行きたい。
私が行った所で足手まといになるだけだけれど、それでも傍に居たい。
私だけじゃない、アリシア達もそうよ。
アリシアやシャルルなら腕が立つし、ノルンも未来視がある、他の皆も昇の足手まといにはならない。
けれど私達は昇と悪魔の位置を特定出来ない。
いくら実力があろうと私達は昇の手助けに行けないの。
出来るのはただ信じる事だけ。
昇が勝って帰ってくる事を信じ、待つだけ。
それだけしか出来ない。
「さぁ行きましょう」
昇を信じ、私達は古城へと足を踏み入れた。
空は……既に夕暮れに染まっていた。




