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セカンド・ワールド〜女神救出から始まる物語〜  作者: 唯ノ蒼月
第4章 吸血鬼の古城

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第73話 その名は……

夕日に照らされた丘。


その丘の上に月光昇は立っていた。

周囲にシャルル達の姿はない。

ただ一人、月光昇とは別の者が居る。


表情を見ることの出来ない鋼色の兜を被り、手甲、足甲、そして薄汚れた赤い色のサーコートを着た者。


鋼色の剣を持った、騎士の様な姿となった悪魔が昇の前に立っている。


此処は言わば領域である。

死の間際に鋼の悪魔は悪魔で初めて自身の領域世界を生成した。

そしてこの領域に招待されたのは月光昇ただ一人。


望みは一対一の決闘。

悪魔のその強い願いにより女神達の憑依すらも強制的に解除された。


故に他に邪魔者はいない。


しかし、昇には不安があった。

自身に武器が無い事を。

周囲を見渡しても剣は無い。

無手でもやってやれない事は無い、だが相手は剣を持つ強き者。

まず無事ではいられない。


身構えながら考えを巡らせる昇、生きてルナの下へ帰るために。


騎士は動かない。


何かを待つように、ただそこで立ち尽くすのみ。


その時。

剣の無い昇を助けるように右前に蒼い光が集まりはじめた。

そしてそれはルナの持っていた蒼色の剣となった。


「……お借りします」


その剣の持ち主は今は亡き女神リューヌ。

故に昇はそう呟いて剣に手を伸ばした。


剣を手に取る、驚く程しっくりと手に馴染んだ。

居ないはずのルナが、傍に居るように感じて昇に安心感を与える。


ルナの剣を構えた昇、そうしてようやく騎士が剣を構える。


「我が名はグラディウス、参る」


静かにそう告げ、グラディウスは大地を蹴った。


何故グラディウスが勇者であり己を一番追い詰めていたシャルルでは無く、直接戦闘に参加していない月光昇をこの世界に招いたのか。

それはグラディウス本人にも良く分かっていない。


ただ残り少ない命、死の間際に願った一対一の決闘の相手に月光昇こそが相応しいとグラディウスは思えたのだ。


そしてその考えは正しかったと、グラディウスは思った。


人嫌いで有名な月女神ルナ。

そんなルナが唯一心を許し、寄る辺となった人族。

その手にはルナの妹であるリューヌだけが使えたルナの剣を持つ。


相手にとって不足なし。


蒼の剣と鋼の剣が交差し、ぶつかり合う。


甲高い金属音が鳴り響き火花を散らす。


「ぬぅ……!」


「っ……!」


鍔迫り合い、そこからグラディウスは更に力を入れ剣を振り抜く。

昇は即座に押されると判断し飛び退いた。


開く距離、グラディウスが駆ける。


「おぉっ!」


グラディウスが攻撃に移るよりも早く、昇が薙ぎ払いを放つ。

身体を半回転さて遠心力を得ることでより威力を高めた薙ぎ払い。


「ぬっ!」


剣を受け止めたグラディウスの肉体が少し後退する。


昇が詰める。


2度、3度と交差する剣。


拮抗する状況でグラディウスが動いた。


「ぬぅん!!!」


大きく振り上げた剣を勢いよく振り下ろす。

それに対して昇は受けず、最小限の動きで躱して反撃に移る。


躱されてなお、止まることのない刃は大地へと向かう。

昇の振り上げる刃がグラディウスの兜に迫る。


兜にルナの剣が触れる、その直前。


ドォォォォォォン!!!


「ぐっ!?」


地面に叩き付けられた鋼の刃から衝撃波が周囲に撒き散らされた。

その衝撃に怯む昇、その隙をグラディウスが剣を薙ぐ。


「っ、ぐっ……!」


ふっ飛ばされる昇。

間一髪でルナの剣を肉体と鋼の刃の間に割り込ませ致命傷を避けた。


直ぐに体勢を立て直し、グラディウスを見る。


グラディウスが大きく剣を振る。


放たれる鋼色の三日月状の光波。


(頼むっ……!)


それを見た昇は、一か八か。

願いを込め、ルナの剣を薙ぐ。


その願いに応えルナの剣は蒼く発光し、三日月の光波を放った。


女神アリシアの剣と同じ様に女神であるルナの剣なら出来ると昇は考えた。

事前にシャルルの光波を見ていたからこそ出来た判断だ。


交差する鋼色と蒼色の光波。


ドォォォォォォン!!!!!!!!!!!


引き起こされる大爆発、それにより互いの姿が見えなくなる。


ドンッ!


瞬間、響く音。


光波の爆発による爆煙は未だに漂っている。

互いの姿は見えない。

下がって距離を取るべきか悩む。


━━━━━━━━ゾクリ


悪寒が走る。

頭が警鐘を鳴らす。

勢い良く頭を上げて空を見る。


(居たっ!)


グラディウスは空中に居た。

先程の響いた音はグラディウスが地面を蹴った音だったのだ。


グルンッ!


落下するグラディウスが空中で一回転した。


縦回転斬り。


グラディウスの動きを見切り、ギリギリで回避をする昇。

受け止めていたら剣は折れずとも力に負けて脳天を割られていただろう。


地面に叩き付けられる鋼の剣、衝撃波は無い。

剣を振り抜いたグラディウス、その一瞬の隙を逃すこと無く昇が剣を振るう。


グラディウスが飛び退き距離を取る。


大きく開く距離。


昇、グラディウス、双方が同時に駆ける。


互いの間合いに入る数瞬。


昇の姿がグラディウスの視界から消える。


歩かず、走らず、跳ばずに、地面を蹴る力を極力使い進行方向に対して体の重心を預け、膝の力を抜くことで自然に生まれる「落下と前進の力」を利用し一瞬で相手との距離を詰める古武術。




【縮地】




見たことも聞いたことも無い技術。

それによりグラディウスの攻撃のタイミングがずらされる。


昇の先手。


防御に回らざるを得なくなったグラディウス。




否。



彼は【剣の悪魔】


その程度のズレ、間に合わせる。




先手・グラディウス。



その時、グラディウスは気付いた。


昇の右手に握られていたルナの剣が┃無い《・・》事に。



ルナの剣が形を変える。


昇に相応しい形に。



腰に吊るされる蒼色の剣。


(貰った!)


女神の剣が持ち主に相応しい姿に形を変えるのは驚くことでは無い。

見たこと無い形、だがその状態では確実に自分の方が先に当たるとグラディウスは勝利を確信した。





鞘に収められた┃日本刀《・・・》。






抜刀術。






放たれる神速の居合。


(見え━━━)


その速さは剣の悪魔グラディウスであっても、見えなかった。




すれ違う。



「……」


無言で剣を振り、鞘に収める昇。


その後ろで、グラディウスの肉体が再びヒビ割れていく。


「満足だ」


グラディウスがそう呟くと肉体が完全にひび割れ、眩い光が世界を包んだ。

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