第72話 古城前の戦い
古城に入ろうとした所、それを邪魔するように上から降ってきた人型棺。
新個体ではない、ヒビの入った棺、欠けた左頭部の奥に見える鋼色の閉じた瞳、鋼色の剣から城門前で戦ったものである事が分かる。
「此処に来てコイツか!」
「っ!」
振るわれる鋼の剣を前に出たシャルルが剣で受け止める。
剥き出しとなったことで以前よりも遥かに斬れ味の上がった剣。
シャルルの剣と鋼の剣がぶつかり合った拍子に火花を散らす。
「援護するわシャルル!」
ゴーレムの使役を一時中断したマリアがシャルルの援護に回る。
なお2人で行う儀式魔術の都合上、ゴーレムは待機状態に移行している。
土塊に戻らないのは未だ儀式魔術を使用する片割れ、セレスティナが維持しているからだ。
「斬れ味は上がってるけど動き自体に変化はないよっ!」
シャルルが叫ぶ。
数回剣を交えて確信に変わったのだろう、その声は自信に満ちていた。
実際シャルルが言った様に棺の動きに大きな変化は見られない。
棺である以上動きが限られるのだろう。
幾ら人の姿を模していると言っても棺は棺、手足を動かす事は出来ないのだ。
だがそれも今だけだろう。
棺の奥に見えるあの鋼色、恐らくそこからが本番だ。
棺を破壊しても動かない可能性もあるが……最悪の場合を想定して動いていた方が良いだろう。
この場合の最悪の状況は棺の中身が動き出す及びそれが複数体現れると言った所か。
とはいえ幾ら想定したと言っても所詮は人の考えの範疇、それ以上に酷い状況が起こることもあるだろう。
結局、どこまでいっても人の考えである事に変わり無いし、イレギュラーは起こる時は起こる。
そのイレギュラーが起こった時にどれだけ冷静に対処出来るかが焦点になるだろう。
などと考えている間にもシャルルやフィアナ達が次々に棺へと攻撃を当てている。
城門前と違い攻撃手はシャルルだけじゃない、1対多数での戦闘だ。
他にも注意を払っているとはいえ皆腕利きだ、行動パターンが単純な相手に遅れは取らんだろう。
バキッ
音が響いた。
シャルルの一撃を受け、棺が更にヒビ割れたのだ。
バキ……バキ……バキバキバキッ
フィアナやティガー達の攻撃も当たりその度に棺が音を立ててヒビ割れがどんどん広がっていく。
そして遂に、その時が来た。
バキバキバキバキバキッ
すれ違いざまに叩き込まれたシャルルの横一閃。
それによって棺が完全に割れた。
全体に広がったヒビ割れはボロボロと剥がれ落ちていく。
そして露わとなった鋼の肉体。
『伏せ━━━』
ミミティの叫び声、それと同時に眼の前に迫った鋼色。
ミミティの指示よりも早く、俺は無意識に身を屈めていた。
屈んですぐ、振るわれる凶刃、鋼の刃は俺の頭のすぐ上を過ぎていった。
本当に咄嗟だった。
なんで自分でもそうしたか分からない。
けれどそのお陰で俺は下半身と泣き別れせずに済んだ。
振り下ろされる剣、俺は地面を押して身体を投げ飛ばす様に横に飛んで回避する。
直ぐにシャルルが俺と敵の間に身体を割り込ませたからか、追撃は来なかった。
「昇!怪我はないですか?!」
「かすり傷くらいだ」
直ぐにクロエが傍に来て傷を確認する。
飛んで地面を転がった時に少し擦り傷が出来たくらいで特に怪我はない。
鋼の肉体、瞳は未だ閉じられたままだが手足は自由に動いている。
奴は手に剣を持ったまま静かにその場で立っている。
にしてもやっぱり動いたな。
「見たこと無い敵だけど……誰か知ってる?」
シャルルは聖剣を構えたまま皆に尋ねる、だが返ってきたのは沈黙であり誰も知らない様だ。
『鋼の悪魔……消息不明だったのにこんな所に居たなんて……!』
その正体を知っていたのはミミティ。
まさかの悪魔だった。
「鋼の悪魔……見たまんまだな。名前は?」
『不明よ、誰もあいつの名前を知らないの』
仲間であるミミティ達悪魔すらも知らない鋼の悪魔。
奴は未だに剣を構えず、ただそこに立ち尽くしている。
喋ることは無く、瞳を開く様子も見られない。
だが強者である事だけは確かだ。
ただの立ち姿、それだけでも強いと確信を持てる。
「っ!」
ブレる悪魔の姿、ぶつかり合う鋼の剣と聖剣。
鍔迫り合いから互いに押しのけ距離が開く。
その瞬間を狙ってマリアが土の槍を悪魔に飛ばす。
悪魔は見向きもせず、ただ剣を振るって土の槍を破壊した。
瞳を閉じた顔は未だにシャルルの方に向いている。
「シャルルを主な攻撃手として立ち回れ!マリア達魔術師はその補佐を!ティガー達はシャルルとの交戦の隙を突くんだ!!!」
「了解!」
「応!」
「分かりましたっ!」
シャルルを中心とした攻撃手達、それをマリア達魔術師に援護させる。
「クロエッ!シャルルに治癒を!」
「はいっ!」
クロエの治癒の奇跡をシャルルに掛けさせる。
シャルルに正面から悪魔を抑え込ませている為どうしても傷が増えていく、故にクロエにその治療をさせて無理矢理にでも悪魔を抑え続ける。
マリア達も攻撃系よりも捕縛系の魔術を使わせる事でシャルルを攻撃魔術で巻き込む心配をさせずに済む。
腕や足への鎖とかの捕縛は直ぐに砕かれてしまうがその一瞬の隙をシャルルやティガー達が突いて確実に悪魔にダメージを負わせている。
「本当に効いてるんですか?!」
悪魔の様子を見てクロエから焦りが滲む声音で放たれる言葉。
ミミティや他の悪魔達と違い目の前の鋼の悪魔は斬られても血が噴き出す事は無い。
「よく見ろ!身体に亀裂が入ってる!」
だが変わりに奴の身体は棺の時と同様にヒビ割れ始めていた。
それに伴い動きも鈍くなりつつある。
確実にダメージは蓄積されている。
動きが鈍れば鈍るほどシャルルが悪魔の攻撃を見切り、回避率が上がる。
現にシャルルが怪我を負う事は次第に減っている。
そして相手はシャルルだけでは無い、対多数による数の暴力によって悪魔は追い詰められていく。
「もう少しだっ!」
徐々に広がる亀裂、鈍る悪魔の動き。
そして遂に。
「止めっ!!!」
シャルルが悪魔の胴体にその聖剣を横一閃に叩き込み、斬り抜ける。
ビキッ
バキバキバキバキッ
シャルルの一撃に悪魔は遂に膝を付いた。
棺の時と同様に大きくひび割れていく鋼の肉体。
俺達の勝ちだ。
━━━━━━━━━━━━━パリン
甲高い、割れる音が響いた。
その瞬間、奴の割れた肉体から眩い光が放たれ世界を包む。
「……は?」
そして俺は一人、荒れ果てた大地、夕日が照らすその丘に立っていた。




