第66話 シャルルの苦悩
谷間の陣地攻略は簡単に終わったようで俺達が眠りに付く前にシャルル達は戻ってきた。
此方の被害は軽傷者が数名で死人は無し、対して相手には数名の死者と多数の重軽傷者を出した末に投降したそうだ。
投降した魔族の手当てを終え戻ってきたクロエは少なからず疲れていたのか帰ってきて早々に眠りに付いた。
無論俺を抱きしめて。
翌朝。
ルミ達の里に続く山の麓に補給拠点を兼ねた陣地を作ることにした。
此処に陣地を設ければルミ達の里に魔族が押し入る事は難しくなるからだ。
ちなみに悪魔共が掘った穴は出入り口を全て塞いである程度埋めてあるから大丈夫だとの事。
ティガーやフィアナ達が陣地を構築している中、シャルルとクロエ等数名が組手を交わしている。
速く陣地を構築して先に向かった方が良いのではと言うのもあるが今は後方からの物資と陣地に配属される人員を待っている為結局先には進めない。
それにずっと陣地構築では気が滅入るからな、組手でリフレッシュするのも手だろう。
現にティガーやフィアナも休憩がてらにシャルル相手に組手をしている。
だが他と違ってシャルルだけはずっと組手に没頭している。
「……ルナ様、痛み止めを「はい」くだ……ありがとうございます」
「どういたしまして」
全て言う前にルナ様から痛み止めを頂く。
痛み止めを飲みながらシャルルの方へと向かいつつ上着を脱ぎ捨てる、脱ぎ捨てた瞬間周囲の息を呑む音が聞こえた気がした。
シャルルも俺に気付いて動きを止めた。
「ちと一戦付き合ってくれ」
「……分かった」
がむしゃらに組手をするシャルル。
その姿を見て過去の自分と姿がダブってしまった。
何かに夢中にならないとやってられないみたいな。
俺の場合は痛みの忘却だったが、恐らくシャルルの場合はルイナさんの足だな。
異形になりかけていたルイナさんの足を斬った、それが原因で歩けなくなったと思い込んでいるんじゃないだろうか。
何度も何度も地面に転がし、その都度起き上がって俺に向かってくる。
その後コテンパンに打ちのめされたシャルルは大の字で地面に転がる。
「その顔、少しも晴れてないみたいだな」
だがその顔からもやもやが晴れてないのは分かった。
まぁ組手だけで晴れるのも珍しいか。
「……」
「少し話すか、ついて来い」
顔を洗うついでに話を聞こうと思いシャルルを連れて近くの川へ向かう。
2人、川で顔を洗ってそのまま川辺に座り込む。
「シャルル、ルイナさんの足はお前のせいじゃない」
「私のせいだよ、私が……彼女の足を斬ったから」
やはりというべきか、ルイナさんの足を斬ったのを相当思い詰めてる。
「私が彼女から足を奪ったんだよ!もう2度と歩けない身体にしちゃったんだよ!?」
「ん?」
感情の吐露、それは良い。
だがその言葉の中に滅茶苦茶気になる文言があってつい固まってしまった。
「……なに?」
「いやちょっと待て」
(ルナ様達、シャルルに言ってないの?)
(言ったけれどシャルルが自分の為の優しい嘘って捉えちゃったみたいね)
「えっとなシャルル、ルイナさん別に2度と歩けない訳じゃないぞ?」
「もう良いんだよ、私の為にそんな嘘付かなくても」
思ったより重症や……。
まったくこっちの話聞き入れんし。
こういう時は言うよりやるに限る。
「見た方が速いな」
「ちょっ?!昇?!」
シャルルの手を掴んでルイナさんの下へ向かう。
「お邪魔します」
「あら昇、それにシャルルも」
俺達がやって来た事に気付き挨拶を返してくれるルイナさん。
当たり前だが車椅子に座ってるわけだ。
その姿を見たシャルルは顔を苦痛に歪めた。
「だから心配するなって、ルミ、ルイナさん、ちょっと」
「「?」」
首を傾げる2人に事情を説明。
そして2人の協力の下シャルルの苦悩を打ち払うことに。
「じゃあお姉ちゃん、行くよ」
「ええ」
ルミに手を引かれてゆっくりと歩くルイナさん。
「な?ゆっくりだが歩けるだろ?」
「……うん」
その姿を見たシャルルは静かに頷き、抱き着いてきた。
「……ありがとう」
そしてそっと呟いた。
俺は優しくその頭を撫でる。
それから少しして、シャルルも元気を取り戻し陣地の構築に参加したのを見届けた。
俺は例の如くクロエよりドクターストップが掛かっているので荷馬車に腰掛けてます。
そんな俺の隣にアリシア様が腰掛ける。
「ありがとうね、昇」
「気にしないで下さい、こういう時は助け合いが大事ですから」
「それにしてもよく分かったね、シャルルが思い詰めてるって」
私でも気付かなかったのにとアリシア様が続ける。
「似てたんです、過去の俺に」
過去、親しい人を守る為に左上半身に火傷を負った俺はその幻肢痛に長年悩まされた。
その時に痛みを誤魔化す為か、爺ちゃんとの組手にシャルルのように打ち込んだ事があるから。
組手をするシャルルがその時の俺と被って見えたんだ。
憑依を解いて俺の目の前に姿を現したルナ様がそっと俺の左頬を撫でる。
その柔らかな手が心地良く自然と目を瞑ってその手に顔を委ねてしまった。
「……大丈夫ですよ、今は痛みを感じてませんので」
「……君達なんか私の知らない内に以心伝心出来る様になってない?」
「そんな事ないわ」
「そんな事無いですよ」
「だってまだ互いを良く知ってないもの」
「だってまだ互いを良く知りませんから」
「今はそれを互いに探している段階よ」
「今はそれを互いに探している段階です」
「いやいや、息ぴったりにも程があるでしょ」
はぁぁぁと溜め息を付くアリシア様。
「にしてもシャルルの事に気付けなかった私は彼女の女神失格だなぁ」
「あれは仕方ないですよ、俺だって自分とダブらなければ気付きませんでしたもん。そもそもより大切なアリシア様に心配掛けまいと隠してたんですから気付かなくて当然です」
「でも、私はシャルル達の女神で、彼女達の為にも助けになってあげなきゃ━━━」
「今シャルルが頑張れている理由はアリシア様が居るからです、だから十分彼女の為になっています、十分彼女達の助けになっていますよ」
「……もぅ」
こてん、と右肩に頭を預けてきたアリシア様。
なんとなく撫でてって言われてる気がしてそっと右手を背中に回す様に動かす。
アリシア様の頭の位置が肩から胸前にズレるがこっちのが撫でやすいのでそのまま撫でる。
「……ふふっ」
小さく笑ったアリシア様。
どうやら正解の様だ。
その後嫉妬したルナ様も同じ様に撫でたのは言うまでもない。




