第64話 出発まで
まだ日も昇らぬ早朝。
自然と目が覚め、ぼんやりとする意識の中で次第と顔を包む柔らかな感触を感じる。
そして自分の現状を思い出した。
俺は現在クロエに頭を抱かれている、その為この顔を包む柔らかな感触は彼女の胸である。
顔だけではない、クロエは俺を抱き枕にしているからか足も絡めている、その為身体が密着して全身でクロエの身体を感じてる訳だ。
何故こんな事になったのか、それはクロエの申し出で俺の怪我の治療の為だとか。
アリシア様の力を与えられたクロエは少なからず他人の自己治癒力を高められるそうでその為俺の怪我が治るまでこうして身体を密着させて寝ることとなった。
お陰で俺はクロエの良い香りと身体の柔らかさに包まれている訳だが。
なおこの行為では、と言うかクロエでは俺を癒せない為意味が無いのだがクロエの我儘を叶えてあげて欲しいとアリシア様にお願いされたので暫くはずっとこのままかな。
「おはよぅ……ございますぅ……」
「おはようクロエ、よく眠れた?」
俺を離し、床に敷いた敷布団から身体を起こして目を擦るクロエ。
起きたばかりだからかまだ眠そうだ。
「はい……不思議とよく眠れましたよ……ふぁ……」
「まずは顔を洗いに行こうか」
「はい……」
眠たそうなクロエを連れて顔を洗いに廊下へと出る。
俺が目覚めて2日。
俺達はそれぞれ、特にルミとルイナさんの準備が整ってから出発する事となった。
この2日間、いや眠っていた期間含めた4日間はルミとルイナさんのご厚意で2人の家と他の民家にて宿泊させてもらっていた。
ちなみに俺とクロエとシャルル、ラニとラピス、リーゼロッテがルミの家に泊めさせてもらった。
なお女神様達は全員俺に憑依している。
「すいません……私が支えなくてはいけないのに逆に支えられてしまって……」
「気にするなって」
顔を洗って目が覚めたクロエが謝罪をする。
俺としては気にしてないから良いんだがクロエからしたら怪我をしている俺を支えたいのに自分が手を引かれて歩いたのが気が引けるみたいだ。
なお今回で2回目である。
それに支えると言っても別に足を怪我して歩き辛い訳では無いからな。
「では行きましょうか」
「おう」
目が覚めて気を取り直したクロエと手を繋いで歩く。
支えると言うことでクロエが片腕を腰に回すからより身体が密着してクロエの良い香りが鼻腔をくすぐる。
シャルル、ラニ、ラピス、リーゼロッテの4人が寝ている部屋に入り起こす。
クロエに変わってシャルルに支えられながらリビングへ。
「「おはよう皆」」
「「「「「「おはよう」」」」」」
既にリビングに居た2人に挨拶をして皆が席に着く中、俺は台所に立つ。
「だ、大丈夫だよ昇?!私がやるから!」
すると同じく台所に立ったルミが慌ててそう言った。
「泊めさせて貰ってるんだからこのくらいはやるさ」
泊めさせて貰っているお礼と言うのもあるが暑さに弱いルミに料理を作ってもらうのは気が引けると言うのが大半の理由か。
「ここは私に任せて怪我人は大人しくしてなよ」
「シャルル料理出来るの?!」
「失礼だな〜?!私だって料理の1つや2つ出来るよ!?」
頬を膨らませて怒るシャルル。
でも実際シャルルがご飯作ってる所見たこと無いし……。
まぁ見とくとしようか……クロエが無言で肩を掴んでるから大人しくしてよ……。
さっきからなんかミシミシ言ってる気がするし……。
それからクロエに連れられて席に着いたんだが。
「よ〜し切るぞ〜」
「待って」
なんで包丁逆手持ちで握ってんだよ。
普通の料理ではまずそんな握り方しないだろ。
「……ちなみに何作る気?」
シャルルの包丁の握り方を矯正しつつ聞いてみる。
「卵焼きとベーコン焼き」
「お前は包丁を何に使う気だ?!」
卵は割るだけ、ベーコンも既に細かく切り分けられてる物を使うから包丁の使う所が無いが?!
なんかこのまま放置してると暗黒物質が生まれそうだからシャルルの傍で見守ることにした。
そんなこんなで出来上がった卵焼きとベーコンを皿に盛りつけ、パンを籐で編まれた皿に乗せて机に置く。
「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」
料理も出来たことなので全員で頂く。
「あーん」
「あむっ」
ラニから差し出されるパンを口に入れる。
……別に1人で食えるんだけどな……。
そうそう、ルイナさんの話で分かったのは結果として人質にされていたのはルミであり、ルミを人質にして他の人達を実験体にしていた様だ。
ルミ1人を人質にする事で残りの里の人達全員を実験体にしたという訳か。
この後は吸血鬼達の下へと向かうらしいが、ルミ達がこうなら吸血鬼達も何かしらありそうだな。
その後に訪れるリーゼロッテの故郷、竜の孤島も。
「でも行くしかないよなぁ」
訪れる事で敵対から味方に、悪くても中立になってくれればその分此方側が有利になるのだから。
「ルイナさん達は準備の方は?」
「荷物は纏めたから、後は家から運び出すだけよ」
「分かった」
朝食も食べ終えたので早速ルミとルイナさんの荷物を荷馬車に詰め込む。
2人だけだが母親の思い出の品も持っていくため量は多め。
なのでティガーに頼んで木を伐採して木材を調達して貰い馬車を1台作った。
ちなみに山の麓に置いていた荷馬車は俺が寝込んでいる間に運び込んでいたそうだ。
住んでいた家や他の家は俺達が来た時同様に板で封をする事にした。
誰も住んで居ない家で潰そうか悩んだらしいが、皆と過ごした大事な思い出と言う事で残す事にした。
ティガー達に他の家の封をやってもらい、俺はルミと一緒にルミの家の封を手伝う。
ルミに板を押さえてもらい俺が釘を打つ。
封が終わり、俺達は馬車に乗り込む。
「それじゃ行こうか」
馬車が動き出す、次なる目的地に向けて。




