第62話 異形
月光昇Side
フラムマを刺した鋭利なナニカ。
それはそのまま息絶えたフラムマを持ち上げ、俺達の方へと投げつけた。
俺はフラムマが持っていたルナ様の蒼色の剣を回収しつつ飛び退き、シャルル達と合流する。
「ルナ様これを」
「ありがとう」
前方を警戒しつつルナ様に布を解いた剣をお返しする。
悪魔の汚い手が触れた布ごと渡すなんて事はしない。
「なんだ……あれ」
隣に来て共に警戒するシャルルが呟く。
未だ全容は暗くて見えない。
見えているのは刃物の様に鋭い何かが地面に刺さっている。
「あれ……まさか氷か?」
ガン……ガン……
音が響いた後、同じ刃物の様な鋭い物が更に2本暗がりから出現し地面を叩く。
思った通り、どうやら氷で出来ている様だ。
「氷の……足だ」
「足?!」
シャルルが驚く。
まさかあの形状で足だとは思わなかったのだろう。
分かりやすく言うなら蜘蛛の足、その先がナイフのように鋭くなっている。
足であり武器でもあるのだろう。
異形な複数の足を使いゆっくりと此方へと近付いて来る。
動き方が少しぎこちなく見える所から生まれたての魔物だろうか?
一歩、一歩此方へと近付き、そしてようやくその全貌が見えた。
氷で出来た異形の下半身、人と変わらぬ上半身を持ったルミに似た儚げな少女。
「お、お姉……ちゃん……?」
「ル……ミ……」
世界とは━━━━━━━残酷だ。
暗がりから姿を現したのは異形の氷の戦士へと変わり果ててしまったルミの姉。
「いやだっいや、嫌ぁぁぁぁぁ!お姉ちゃんっお姉ちゃぁん!」
「だ、だめ!危ないわ!」
自身の姉に泣きながら駆け寄ろうとするルミをマリアが慌てて抱きしめて止める。
マリアの判断は正しい。
ノルン様曰く彼女は既に意識が無くなり掛けてるらしく近付く者全てを容赦なくあの異形の下半身が貫くそうであのままルミが近付いていたらその足で貫かれていたそうだ。
自身の攻撃によって命を落とす妹、それによって彼女は暴走する。
どちらも救われない未来だ、阻止できて良かった。
「お姉ちゃん!お姉ちゃんっ!」
「駄目よルミちゃん!」
今なおマリアがルミを抱きしめて抑えている、速い所どうにかしなければ。
だが……どうする?
変化の悪魔は確かに言った。
【い、一度形を変えた者はその姿から元の姿に戻る事はないっ】
彼女を元に戻す方法は無い。
「マ、マ、マケタ、マケタ」
異形の少女が此方に近付きながら言葉を紡ぐ。
負けた?
彼女は負けたと言ったのか?
もし負けたなら何に……いや分かりきった事か。
十中八九悪魔にだろう。
彼女達は無抵抗では無く、抵抗して負けた果てに身体を変えられたのだろう。
「クソッ」
「っ、止せシャルルっ!」
剣を片手に駆けるシャルル、突き刺そうと大きく足を上げた異形の少女はそのままシャルル目掛けて足を振り下ろす。
シャルルはそれを容易く避けて剣を振るいその足を切断した。
敵である以上その行動は正しい……だが俺の予想が正しければ……!
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!」
足を切断された痛みに異形の少女は悶え苦しみ、暴れ出す。
やっぱり!
付け加えられたのでは無く、変化した足である為斬れば痛みに襲われるっ!
厄介なのはそれだけでは無い。
「う、嘘……足がっ!」
シャルルの驚く声が響く。
そう、切断した足がその先からゆっくりと再生を始めていた。
「もう一度……!」
「駄目だシャルルっ無駄に痛みを与えるだけだっ!」
「っ……!クソッ!!!」
無駄に痛みを与えるのは彼女にもシャルルにも苦痛を与えてしまう。
それにそれを見せ付けられるルミの精神的にもよろしくはない。
「ゴ、ゴ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ、生きテ。ル……ミ……」
「嫌ぁぁぁぁぁ!お姉ちゃぁん!」
泣き叫ぶルミ。
異形の少女の攻撃を弾くシャルルの剣が鈍る。
「お願いシまス……見知らぬ方ヨ、わ、ワワ、ワタ、タタ、シをコロコロコロ、コロ、シテ」
「コ、コ、コロ、シテ……」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
死を望む姉と望まない妹。
そんな事、誰だって望まない。
けれど生きたその先で殺戮を行う事も彼女は望まない。
生かすか殺すか。
生かせば異形の少女が望まぬ殺戮者となって苦しむ。
殺せば手に掛けたシャルル達やその少女の妹であるルミが苦しむ。
最悪な二者択一……。
そんな物、認めない。
二者択一ではない、他の手を。
迫るタイムリミット、焦る思考の中、一つ思い付いた物がある。
それが確実に機能するかは分からない、成功する保証は何処にも無い。
けれど何もしないまま最悪な選択肢を取る事など、俺にはどうしても出来ない。
「昇?!」
「昇様?!何をっ!」
突然異形の少女に駆け出す俺にシャルル達から困惑の声が上がる。
「っ……待ちなさいっ!昇!それじゃ貴方がっ!」
ノルン様からも悲鳴じみた声が上がる。
どうやら未来を視た様だ。
「生きてるならまだ助かるはずだ!」
悪魔は言った。
一度形を変えた者はその姿から元の姿に戻る事はないと。
それが完全に変わった者に限るのなら、恐らくだがまだ変化途中である彼女なら戻せる可能性があるっ!
俺の身体が特殊なら!彼女に俺の一部を与えれば!
俺が魔術を受け付けないように俺の力を持った彼女も変化を無効化出来るかも知れないっ!
「っ!」
「昇っ!!!」
有難い事に少女は俺を足で貫く事はせず、まだ人の形を保つ両手で俺を抱き上げる。
上半身裸の少女と身体が密着すると言う男なら嬉しい事だが状況が状況で喜べない心境の中、少女は焦点の定まらない瞳で俺を見て、大きく口を空けて。
「アァァァァァァァ!!!」
「がぁぁぁぁ!!!!!!!」
「昇?!」
狙い通りに俺の首筋に噛みついた。
彼女達の仲間を殺したのだ、せめてっ!
俺の身体が特殊だと言うならルミの姉を救ってみせろよ!
「ア゛ア゛……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?!?!?!?!?」
「ぐっ……!」
俺の肉を食い千切った彼女は突如苦しみだし、俺を投げ捨てる。
俺の肉を食らい飲み込んだ異形の少女、その足が変化を始めた。
「賭けに……勝った、ぞ……!」
「弟君っ!」
首筋を抑える俺にエイア様が駆け寄り奇跡による治療を開始したが俺はその手を取って邪魔をする。
「俺よりも彼女をっ!」
「っ……!」
一瞬の逡巡、エイア様は俺から離れ少女の下へと向かった。
遠ざかる意識の中、アリシア様やノルン様達も苦しむ彼女の下へと向かっていくのを最後に俺は意識を手放した。




