第60話 私の恩人
ルミSide
私は生まれてから雪以外を見たことが無い。
私達の能力で周囲が常に冷えて雪が降り積もるから。
けれど私は気にはならなかった。
お母様とお姉ちゃんが、皆が居るから。
寧ろ雪が好きだった。
お母様やお姉ちゃん、それに里の皆で雪で遊べるから。
凍った川で皆で釣りをして魚を獲ったり、氷の上を滑ったり。
雪玉を作って投げたり、雪像を作って遊んだりもした。
そのどれもが楽しかった。
けれど、そんな幸せは突如消えてなくなった。
里の人が1人、また1人と消えていく。
そして遂にはお姉ちゃんまで居なくなった。
そして取り乱した私の前に現れたのは母を連れ歩く火を操る悪魔。
彼は言った。
『家族の命が惜しければ、この里に誰一人として通すな』っと。
お母様は縋り付き、泣きじゃくる私に優しくこう囁いた。
『私が皆を連れて帰ってくるから、だから此処で待っていて』っと。
お母様の言葉に従い、また人質に手を出されない為に私は1人で里を守った。
まずは皆の家を守る為に鍵をしようと思った。
けれど鍵なんて良いものは無く、全て内側から閉めると私が外に出られなくなってしまう。
だから外に板を張り付けて釘で止める。
慣れない作業で手を打ち付けたりして痛くて泣いたのを覚えてる。
封が終われば今度は周囲の警戒。
と言っても魔物とかが襲ってくる事は無く、人族とかが来ることもなかった。
1人で凍った川に穴を空けて魚を釣って食料を調達したりして凌いだ。
初めて火を使った時は熱くて溶けるかと思った。
改めてお母様の凄さを知った。
そして1年が経った。
1人で雪像を作ったりして寂しさを紛らわせる日々を送る中、悪魔は何も連絡は寄越さず、お母様達が帰ってくる気配もない。
私は大好きだった雪が嫌いになった。
雪が私から全てを奪った様に思えてしまったから。
何より雪の降り積もる、雪に閉ざされた世界で1人孤独だったから。
そんな暗闇に閉ざされた私の前に現れたのは魔力を持たない変わった人間とそれに従う者達。
『此処から立ち去れ』
自宅に身を潜め、1人で練習してた風魔術で声を運ぶ。
聞こえた筈なのに人族達は気にせず里に入って来てあろう事が私が苦労して取り付けた板を剥がして家に侵入した。
そしてそいつらは遂に私の居る家にまで来た。
家を勝手に物色される中、私は怒りよりも恐怖が湧いた。
怖さから戦って追い出す事よりも息を潜めて隠れることを選んでしまった。
(どうしよう……このままじゃ約束が守れなくてお母様達が……そうだ!)
私の考え、それは人質だった。
悪魔が私にした様に、私もこいつらの1人を人質に取って此処から出て行って貰えば良いと思った。
幸いあいつらはバラバラに別れて家の中を物色し始めた。
私が目に付けたのはあの魔力の持たない人間。
そしてその人間の男は運よく私の潜む部屋に1人で来た。
いざ捕まえようとした時、その男がある箱を開けていた。
その箱は私が大事に保管していたお母様とお姉ちゃんの服が入った箱だった。
「人様の家を勝手に物色してんじゃないわよっ!」
取られたくない!
だから震える体を押さえて必死に能力で氷柱を生成して飛ばす。
「っ!?」
男が振り向く。
そして直ぐに飛び避けながら火魔術で私の氷柱を溶かした。
明らかに格上の魔術師、けれど奪われるわけにはいかない。
「この侵入者!」
能力では意味を成さないと思い私は男へ突撃を敢行、男はそれを受け止めるも勢いを殺せず壁にぶち当たった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ?!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
「「昇っ!!!」」
背中の壁が壊れて私は男と共に落下した。
それからその男、昇に胸を揉まれたりとか、上から双子に踏み潰されたり女神が出てきたりと色々とあった。
そして和解して私は彼らと行動を共にすることにした。
悪魔の言いつけを守れなかった今、皆が危険だから。
何より1人はもう嫌だった。
そして地下通路の先で出会った、氷の戦士達と氷狼に乗った下半身の無い氷の戦士。
それがお母様達と知ったのは。
『娘を……ルミ……を……よろシク……お願いします』
散り際に放たれたその声でようやく知った。
物言わぬ亡骸……亡骸ですらない、砕け散り粉々となって消えてしまったお母様。
私はその氷の山の前に膝を付いて震える両手でその氷を掬う。
「あ……あぁ……」
掬った端から両手を擦り抜ける細氷。
「お母ぁ……様……」
呟く声は自分でも驚く程小さかった。
掬う度に、そして時間が経つにつれてお母様だったものは散っていく。
「お母ぁ様……」
返事はない。
分かってる、既に亡くなっているって。
でも実感が湧かなくてずっと掬い続けていた。
そんな氷の中に一つ光るものがあった。
お母様がいつも身に付けていた指輪、私はそれを拾う。
微かに指輪からお母様を感じた。
女神アリシアがお母様の命の一部をこれに吹き込んでくれたと言った。
お母様はもう居ない。
でもこれで良かった、これ以上お母様達を苦しめたく無かったから。
だから昇には感謝している。
不思議と恨みは無かった、逆に必要以上に背負い込み、自分を責める昇が心配だったくらい。
そして昇達と先に進み皆を見つける事も出来た。
道中昇が何かを見つけたらしくて離れたけど。
その中で気になる発言があった。
それは女神ルナの命を預かっていると。
「……え、昇って女神ルナと魂を同化してるの……?」
「「「「「「「「うん」」」」」」」」
命を預かると言う言葉にまさかと思って聞いてみればその場の全員から肯定が返ってきた。
嘘……あの人嫌いで有名な女神ルナが人間のそれも男と魂の同化をしてるなんて。
そんな驚く出来事がありながらも私達は他の里の皆も見つけていく。
見つけた30名 全員亡くなっていた。
「1人……1人足りない」
数え間違いじゃない、確実に1人足りない。
「きっとまだ何処かに居る━━━」
「ルミ、何故此処に居る」
速く最後の1人を探そうとして、聞きたくない声が響いて足が止まった。
振り向いた先にその身から炎を纏う悪魔が居た。




