第53話 門番
氷狼に乗った氷の戦士。
手には槍を持つ。
氷の戦士は顔がマスクの様な物に覆われて見えないがスタイルからして女性として造形されているな、胸もあるし。
どういう訳か……全て氷の筈だがマスクの目元からは赤い光が2つ見える。
「今此処でルナ様達の存在を知られる訳にはいかない、俺達だけでやるぞ」
「はい!」
「分かっています!」
「応!」
それぞれが応え構える。
雪の里への道を閉ざす門番との戦闘が今、始まった。
『━━━━━━━━!!!!』
「回避っ!」
氷狼の女戦士が先に仕掛けてきた。
シャルルからの回避命令、それと同時に俺を抱えてその場から飛び退くティガー。
フィアナ、ローナもそれぞれラニとラピスを抱えて回避行動を取る。
氷狼の女戦士は俺達が先程まで居た所に槍を突き出しながら突進。
回避されたと分かれば直ぐに方向転換して次の一手を繰り出そうとしていた。
ティガー「狙いはっ!」
「俺かっ!?」
氷狼の女戦士が方向転換し向かうは俺とティガーの方。
となると今現在狙いを付けているのは俺かティガーと言う事になる。
「鬱陶しいのぉ!」
竜の姿で俺の頭の上に乗っているリーゼロッテの口から火球が放たれる。
放たれた火球は氷狼の女戦士に当たり爆ぜる。
一瞬怯んだものの目立った外傷は見当たらない。
「え……効いとらん……?」
自慢の火球だったのだろうか、リーゼロッテは大したダメージを与えられず少しショックを受けているようだ。
「それでも全く効いてない訳ではないだろ!撃ち続けろ!」
「ひ、人使いが荒いのぉ!?」
そう言うものの俺の言う通りに火球を放ち続けてくれるリーゼロッテ。
対して氷狼の女戦士は火球を避けるように動いた。
やはりリーゼロッテの火球は脅威ではあるようだ。
「まずは奴の機動力を奪いたい!」
「ってことは狙いは下の氷狼ですかい!」
「そう言う事だ!ティガーは一度俺から離れて奴の隙を狙え!」
「死なないでくだせぇよ!」
「ああ!」
ティガーに降ろしてもらい二手に別れる。
「来とるぞお主っ!」
リーゼロッテの言うように氷狼の女戦士は此方に接近している。
やはり俺を狙って来ているか!
それにしてもリーゼロッテの放つ火球を全て躱して接近してくるとは、恐れ入るよ。
氷狼の女戦士の突進槍突きをギリギリまで引き付けてから横に飛んで躱す。
早すぎると槍の矛先を変えて貫かれるからな!
通り過ぎた氷狼の女戦士はそのまま離れた所で反転、俺に向かって再び突進を仕掛ける。
跳躍。
氷狼に突進させつつ氷の女戦士はその背中で跳躍した。
単独となった氷狼は気にせずそのまま俺へ突進してくる。
「隙ありですぜ!」
そこにティガーが割り込み両手で氷狼の口を押さえ込む。
氷狼が単独になったことで女戦士の攻撃を気にしなくて良くなったから力で氷狼を押さえ付けに来たか!
「はぁ!」
ティガーに抑えられた事で身動きが取れない氷狼の背にフィアナが乗り込みその頭部に双剣を突き刺す。
『━━━━━━━━━━━━!!!!!!』
「くっ!」
「くそっ!」
声にならない叫びを上げて氷狼が暴れ出す。
氷で出来てるから元から声は出せないとは思うけど。
暴れ出した事でティガーの拘束から逃れた氷狼。
暴れる氷狼から振り落とされない様にフィアナはより深く双剣を差し込みそれにしがみつく。
セレスティナとマリアが魔術で氷狼を光の鎖で拘束する。
氷狼はこれで良い、問題はっ!
ガンッ!!!!!!!!!
『━━━━━━━━━━━━━!!!!!』
「つ゛ぅ゛ぅ!!!」
跳躍した女戦士が俺の頭上から槍を振り降ろして落ちてきた、それを剣で受け止める。
空から降りて、なおかつ体重を乗せた一撃に剣を持つ両腕が悲鳴を上げる。
また素の身体能力も差がある様でこのままでは潰されて終わる。
「シャルルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「ハァ!!!!」
『━━━━━━━━━━━!!!!!』
潰される前にシャルルを呼び、それと同時にシャルルが女戦士の胴体を斬り払う。
シャルルの持つ剣が女戦士に当たる直前に戻された槍によって防がれ上半身と下半身が分断される事は防がれてしまった。
だがその勢いまでは殺せず数歩後退せた。
俺が呼ぶ前から既に動いていた様で助かった。
女戦士とシャルルが睨み合う。
ちなみにだが、シャルルが今持つ剣はアリシア様の剣と違う、俺達と同じ普通の剣だ。
再び動き出す女戦士。
槍を地面に叩き付けて雪を舞わせる事で擬似的な煙幕とし視界を奪ってきた。
「無駄だ」
ラニの声が響くと同時に俺を囲むように火柱が立ち登る。
「昇を狙ってくると分かっているなら昇を守る様に魔術を放てば対応出来る」
「ラニ、それにラピスも」
俺を助ける為に駆け付けてくれた様だ。
危ないから叱らないといけないか、はたまたこれ程の魔術が使えて凄いと褒めるべきか……。
善意で助けに来てくれたから叱るに叱れんな。
ドォンッ!!!
「また跳躍か」
「学が無いのかな」
鳴り響いた地響きから女戦士が飛んだと判断したラニとラピス。
2人の予想通り女戦士は跳躍で火柱を越えてきた。
それに対してラニとラピスが火球で迎撃、幾つもの火球が女戦士に当たっては爆ぜる。
「クロエ!!!」
ラニが叫ぶ、すると俺達の上に防壁が張られる。
カァァァァァァァン!!!
防壁と槍がぶつかり合い甲高い音を立てる。
そしてその瞬間を待っていたかの様に周囲の火柱から炎の縄が女戦士に巻き付き拘束する。
身体を氷で構築されている女戦士は炎の縄で拘束された事で溶け始める。
「終わりだ」
「やぁぁぁぁぁぁ!!!」
炎柱を突き抜け、剣を構えたシャルルが現れる。
その剣に炎柱の炎が巻き付き炎の剣と化し。
一閃。
拘束されて身動きの取れない女戦士はシャルルの炎の剣によって両断、炎による拘束が解かれ女戦士はゴトリと音を立てて地面に落ちる。
「昇様!」
瞬間、フィアナの叫び声が聞こえたと同時に目の前を何かが掠めた。
「氷狼っ!?」
目の前を掠めたのはフィアナ達の方から抜け出してきた氷狼だった。
氷狼は倒れている女戦士を咥え、此方を一瞥した後その場から跳躍し姿を消した。
「なんとか退けたみたいだな……」
「ふぅ……よし、少し休憩してから行こっか!」
門番との戦いを終えその場で休息を取る。
ラニとラピスが傍に来て腕に抱き着く中俺はクロエから怪我が無いかあちこち触られながら調べられる。
そうして休息を終えて再び歩き出し、ようやく雪の里に辿り着いた。
雪の積もりった幾つもの木造建築の家。
だが人は見当たらず、生活している様に見えない。
試しに望遠鏡を取り出して一軒一軒見てみるが……やはり人はいなさそうである。
『何かが、起こってるようだね……』
どうやらアリシア様も異常に気付いたようだ。
「人の匂いも薄くなるくらい使われてなさそうだよ」
鼻の良いローナがそう言うなら、間違いなく人は住んでないのでは?
『━━━此処から立ち去れ』
人の気配が全くしない雪の里に突如、冷たい女の声が響いた。




