第49話 待機命令
イニッツィオを発って早数日。
俺達は森の中を進んでいた。
「見て昇君、あれが雪の里のある山だよ〜」
ようやく森を抜けた時、ヴィシー様が荷馬車から身を乗り出して指を指す先に見える山。
確かにその山は雪化粧で白くなっているのが確認出来た。
「となるとシャルルの合流まで待機か」
「そうだね、待ってないとアリシア姉様も怒るよ」
そう、俺達はヴィシー様を通じてアリシア様から雪の山が見えたら待機してと命を受けたのだ。
幾ら雪女達が中立に近いとは言え今は魔族側に与してるから俺達少人数だけでの接触を避けたいのだろう。
可愛い妹のヴィシー様も居るし尚更だ。
「ならさっき見つけた泉まで引き返しましょうか」
「そうしようか」
マリアの提案に同意。
直ぐに荷馬車が引き返し泉へと向かう。
泉の近くなら水の確保も出来るからな。
「ヴィシー様、シャルルってどのくらいで合流出来そうですかね?」
「アリシア姉様の話だと2日3日あれば合流出来るみたいだよ」
「思ったより速いですね」
俺達が此処に到達するまでかなりの日数が掛かっている。
ゆっくり進んでいたにしてもそれなりの距離を移動している訳でそんなに速く到着するとは思って無かったんだけどな。
「それはね、シャルルちゃん達が既に此方に向かっていたからだよ。数日前から私達の後を追ってたってアリシア姉様が言ってた」
となると魔族軍を既に打ち負かしていたと言う話だ、正直言うともう少し時間が掛かると思っていたから驚いた。
泉に到着。
荷馬車を停めるとラニ、ラピス、リーゼロッテの3名が一目散に湖の畔に向かい水遊びを始めた。
そんな3人の面倒をセレスティナとマリアが見てくれるので俺は寝床の設営を行う。
またティガーとローナには見張りをしてもらう。
「魔物避けの盛土と柵を用意しようか」
「そうですね」
寝床の設営、単純に木々の間に天幕張っただけの簡易的な奴だけど設営が終わったので此処を中心に魔物対策で盛土と柵を用意することにした。
俺とフィアナで周囲に空堀を掘りその掘った土で盛る。
空堀も盛土用の為で今までと違い浅めに掘っている。
今までが全身が入る深さに対して今回は膝ほどの高さまでしか掘らない。
ラニ達が水遊びに満足した事でお守りから解放されたマリア、セレスティナに見張りを変わってもらいティガーとローナが木材の調達を行う。
調達してくれた木材はラニとラピスが魔術で加工し、加工された物をリーゼロッテに運んでもらう。
「昇、お腹すいた〜」
「ならそろそろ昼にしようか」
ラピスが服の裾を引っ張ってきてそう主張したので作業を一時中止してご飯を作る事にした。
今日の昼ご飯は俺が焚き火の準備をしている間にリーゼロッテがそこの泉で獲ってきた魚だ。
無論食べれる魚かはヴィシー様に確認済みなので問題なし。
余った木材を成形し串を作りそれに突き刺して焚き火で焼く。
味付けはこの時代では貴重な塩、贅沢だがたまには良いだろう。
昼食を食べ終えたら再び作業。
今度はルナ様達も参加、流石に憑依して待機してるのが暇になったのだろうか。
そんな風に皆で動いて柵が完成。
日が沈み掛け、完全な暗闇が来る前に焚き火をして明かりを確保する。
「はぁ〜暖かいわね〜」
俺のすぐ隣にて、俺と同じ様に大木に腰掛けるミミティが呟いた。
暖かくなりつつあるが朝晩はまだ寒いからな。
「なぁミミティ」
「何かしら?」
「いやさ、ちょっと気になってさ、雪の里に悪魔って居るのかなぁって」
「居るわよ」
「躊躇なく言うのな……」
雪の里は魔族軍に与してる、だがら悪魔とかも居るのかと気になって聞いたらまさかの即答。
びっくりだわ。
「私の知ってる情報と変わってないなら名前はフラムマ、権能は火ね」
「フ、フラムマ?!」
ミミティから聞かされた情報にヴィシー様が驚いた様に声を上げる。
「どうされました?」
「フ、フラムマって悪魔側の主戦力だよ……」
あ、そうなの……。
えぇ……これからそんな奴が居るかも知れない所に行かないといけないのか……。
いやまぁ悪魔とは何処かで衝突はするだろうし遅かれ早かれって問題だけどもさ。
「なら尚更シャルルの到着を待った方が無難ね」
「そうですね」
「冷静だね、ルナと昇君は……」
目を丸くして俺とルナ様を見るヴィシー様。
ちなみにヴィシー様が対面でルナ様は後ろから抱き着いておられる。
「焦っても仕方ないですからね、それにいつかは戦う相手ですし」
逆に相手の能力が分かってる状態で挑めるならかなりチャンスでは……?
此方はアリシア様とシャルルと言う最高戦力が揃ってる状態で戦える訳だし。
それにこのまま勝ち進んでいくと悪魔が二人行動とかし始める可能性もあるし、主戦力と単騎で戦える今なら尚更チャンスでは?
勿論そのフラムマとか言う悪魔が雪の里に居るのか、はたまた単独で居るのかも不明ではある為甘く考えてはいけないが。
「考えてても仕方ないですし、取り敢えず今はシャルル達の到着まで体を休めましょう」
「そうだね……うん、そうしよっ」
夜も更けてきたので見張りを交代しながら眠りに就くことにした。
またマリアとセレスティナ両名による小型ゴーレムを周囲に放ち対魔物、魔族軍の早期警戒をさせたので奇襲をされる事は余程無いだろう。
「お休みなさい、昇君」
「お休み、昇」
「お休みなさい、ルナ様、ヴィシー様」
俺は荷馬車にてルナ様に前から、ヴィシー様に後ろから抱かれて眠る事となった。
前後からお二方の柔らかな胸が当たるが視線の先で互いに抱き合って眠るラニとラピスを見て平常心を保つ。
「……」
そう思ってたのにそれに気付いたのかルナ様が浮上、顔を抱き寄せる事で顔全体がルナ様の柔らかな胸に包まれてしまった。
前はルナ様の大きな胸、後頭部はその柔らかな指先が優しく撫でる。
次第に動きが遅くなるルナ様の指、そして完全に止まったと同時に寝息が聞こえた事でルナ様が眠りに就いた事が分かる。
なお俺は全く眠れなかった。
シャルルとの合流はそれから2日後だった。




