第35話 激しさを増す防衛戦
陣地防衛戦の初日は恐ろしいほど一方的な勝利で幕を閉じた。
というのも魔族は進軍してきたは良いがどうやら此方が此処で待ち構えているのは分かっていてもどの辺りから攻撃しているのかと言う細部まで分からなかったらしく全然的外れな所を狙って攻撃していた隙をセレスティナ達に徹底的に叩かれていた。
戦闘を終えた夜、俺は休息所にてフィアナ達と話し合いを開いた。
参加するのは主に魔術による迎撃戦を行ったセレスティナ達エルフと獣人の中でも比較的魔術を得意とするフィアナ、ローナ達。
攻撃魔術が得意でないティガー達は見張りをしてもらっている。
獣人のティガー達の中には夜目が効く者もいる為夜間の見張りも難なく任せれる。
「気を緩めない様にな」
「分かっています、恐らくですが相手は様子見ですよね?」
俺の言葉にセレスティナが応える。
そう、恐らく様子見である。
防御陣地は葉っぱを被せて周囲の風景に溶け込ませて見えづらく、また攻撃する為の穴も最小限に小さい訳だ。
加えて今までとは全く違う戦闘状況な訳で馬鹿正直に突っ込んできた訳では無いと思う。
「にしては数が多かった気もするけれど?」
「戦士の数が多ければ自然と様子見の戦士も増えるんじゃない?」
可愛らしく首を傾げながら告げたマリアの言葉にローナが反応した。
「様子見じゃ無く本気で向かって来てた可能性も無くはないが……今回は様子見で次から本気で攻撃を仕掛けてくると思って構えていた方が良いだろう」
今回は様子見で次回から本格的に攻勢を仕掛けてくると思っていた方が間違い無い。
ここで油断して足元を掬われたら堪ったもんじゃないからな。
「では明日に備えて眠りましょうか」
「そうしよう」
セレスティナの言った通りに話し合いを早めに切り上げ、明日の魔族の攻撃に備えて眠りに就く事にした。
そして陣地防衛戦2日目の今日。
「マリアの考えの方が当たったか……」
魔族は昨日と変わらぬ様子で此方に攻撃を仕掛けてきた。
唯一違う点と言えば此方の攻撃箇所を把握しているくらいだろう。
昨日よりは一方的では無いにしても隠れながら攻撃出来る俺達に対して隠れる事の出来ない魔族側が依然不利な状況。
しかし相手は魔術に長けた魔族、油断、慢心はいけない。
「3人とも、ついてきてくれ」
「「分かった」」
「分かったのじゃ」
相手の情報を探る為、俺は傍を離れないラニ達を引き連れてマリアの居る所を目指す。
そして少ししてマリアの居る所に到着した。
「マリア」
「あら?昇じゃない」
覗き穴から魔族の迎撃をしていたマリアは俺の呼び声に気付いた後、迎撃を他の子に変わってもらい此方へとやって来た。
「迎撃中に呼び出して悪い」
「気にしないで良いわよ、それで何の用かしら?」
「奴等の情報を知りたくてな、また風魔術で相手の話し声を盗み聞きたいんだ」
「分かったわ、ちょっと来て」
やって欲しい事を理解したマリアに手を引かれ少しは離れた場所に連れて行かれる。
相手の話し声を聞くために今居る所よりももう少しだけ静かな所に行くのだろう、此処は魔族の迎撃で放つ魔術や魔族から放たれて着弾した魔術の音で少し騒がしいからな。
「この辺なら大丈夫そうね、始めるわ」
覗き穴から後方へと下がり、問題無いと判断したマリアが風魔術を行使する。
確かに此処なら聞き逃す事は無さそうだ。
ちなみに視認していないので範囲が広域となるが此方の位置は既にバレている事から前回の様に隠れる必要性も無いから問題は無い。
なお消費魔力の効率については今回は考えない事とする。
[━━━入り口は何処なんだっ!]
マリアの風魔術によって運ばれてきた魔族の声が陣地内に響く。
その声音からかなり緊迫感を感じ取れた。
[━━━入り口はっ!]
[駄目だ!入り口を探す暇がないっ!]
[クソッ!なら何とかして足元に取り付けっ!]
[こんな激しい抵抗の中壁へ行けってのか?!]
[此処で止まってても始まらねぇだろ!]
魔族がどの様に行動しようとしているのかが風魔術で聞こえてくる。
それによって相手の動きが少し分かる。
「揉めてるわね」
「誰だって狙い撃ちされる中進みたくないわな」
進めば魔術によって狙い撃ちされる、しかし進まなければ何時まで経っても陣地の攻略は不可能。
それはそれとして一つ気になる事がある。
「マリアみたいにゴーレムとか使わねぇんだな」
「人を相手にするなら分かるけれどこんな防衛戦じゃあ使えないわよ?」
「陣地の防壁を破壊するのとかに使えそうだが……?」
「無理よ、土塊の戦士とは言うけれどそんなに耐久性高くないもの。陣地の防壁を壊すどころか近付く前に壊れて終わり、無駄に魔力を消費するだけよ」
精霊であり、俺達の中でも魔術に対してかなりの熟練度を誇るマリアが言うのだからそうなのだろうが、それにしたって弱すぎないだろうか。
《まだまだ発展途上で脆いんだよね〜、弟くんの世界で出回ってる話のゴーレムとかより普通に弱いよ?》
憑依しているエイア様がそう告げた。
どうやら魔術の黎明期であるこの世界のゴーレムは未だ練度が低く脆いらしい。
言われてみれば確かにマリアの生成したゴーレムとかも脆かったな。
「相手がゴーレムを使わないなら有難い」
ゴーレムによる物量作戦で壁付近まで近付かれる事も無いしわけだし。
[川を渡って背後から攻撃すれば━━]
[既にやりましたっ!しかし渡っている最中がどうしても無防備となり敵に狙い撃ちされて全滅してしまいますっ!また上流側は罠が待ち受けている為迂回しなければならず時間を要しますし、下流は水の流れが早く此方も時間が掛かってしまいます!]
[クソッ運は敵にあるのかっ……!]
川を渡るという発想は既にあったので川沿いにまで陣地を構築し渡ろうとする魔族を一方的に狙い打てる様にしてある。
また戦場から離れた上流側にはそれなりの範囲で罠を仕掛けてある為川辺に辿り着くのもそうだし罠の無い範囲外へと行くのも時間を要する。
下流側は川の流れが早い為此方も回り込むのに時間が掛かるだろう。
「今の所問題はなさそうだな、このまま油断せずに防衛に徹しよう」
「分かったわ」
風魔術の行使を止め、マリアは迎撃の為に俺達と別れ覗き穴へと戻って行った。




