第33話 陣地の最大活用
魔族が罠エリアを突破して陣地付近まで来たのはあれから3日後だった。
見えにくい罠、マリアのゴーレム兵、セレスティナ達による奇襲によって魔族軍は中々此処まで辿り着けなかった様だ。
ちなみに罠エリアを迂回しようとしたみたいだったが思いのほか罠が仕掛けられた範囲が広く正面突破した方が早いと判断したみたい。
魔族が防御陣地周辺にまで足を運んだ翌日の早朝。
まだ日が昇らぬ暗い中、俺達は入り口が魔族にバレないよう慎重に陣地から外へ出る。
これから行うのは付近の魔族への暗闇を利用した奇襲である。
先陣はティガー率いる獣人部隊、俺は後方から隣に居るフィアナやセレスティナを通じて指示を飛ばす。
本当は俺が先陣を切ろうと思っていたんだが両腕をそれぞれフィアナとセレスティナに掴まれて後方に引っ張られた。
また、まだ幼いとはいえ竜種であるリーゼロッテも俺の護衛として傍にいる。
ちなみに同じ幼いラニとラピスは危ないので陣地に待っててもらっている。
マリアに面倒を見てもらってるから大丈夫だろう。
なお、「リーゼロッテは良くて私達は駄目なのか」とラニとラピスが不機嫌になったので帰ったら機嫌を取らないとな。
「休息中の魔族部隊を見つけました、どうします?」
前方を歩く獣人部隊から連絡係がやってきてどうするか尋ねてきた。
「その部隊の他に別の部隊は居たか?」
「いえ、居ないです」
「そうか……良し、挟撃や不意打ちを受けないよう周囲を警戒しつつその部隊に攻撃を仕掛けるぞ」
「分かりました」
そう指示を出すと使者は戻って行った。
そのまま俺達はゆっくりと魔族に接近する。
休息中の魔族が灯す焚き火の明かりがチラチラと見える。
「掛かれ」
号令と共にティガー達先陣部隊が駆け出す。
「敵しゅ━━━」
敵襲を知らせようとした魔族に矢が突き刺さり倒れる。
今回は奇襲の為察知されやすい魔術は行使せずエルフ達が矢を射る。
角笛を吹こうとした奴も同様に矢で倒されていく。
程なくして敵部隊を一掃出来たので陣地へと引き返す。
他にも敵部隊はいるが襲撃はしない、1つずつゆっくりと倒していく。
葉っぱで隠した入り口を開けて陣地内へと入る。
勿論周囲に魔族が居ない事を念入りに確認して入り口がバレる事を防いで。
俺は一度ティガー達と別れて一人掘った横穴の通路を通り休息所へと赴く。
「ラニ、昇が帰ってきたよ」
休息所に赴けばそこで待っていたラピスがいち早く気付いてラニに俺の到着を教えた。
ラピスに言われ振り向いたラニは即座に立ち上がり此方に歩いて俺の所まで来たらそのまま抱き付いて来たので優しく抱きとめる。
「ただいま」
「……おかえり」
声音から分かる、やっぱりまだ少し不機嫌だ。
そのまま俺はラニとラピスを抱きしめ、頭を撫でながら少し休む事にした。
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休息を取った後、ラニとラピスの2人と手を繋ぎながら陣地内を歩いているとフィアナが覗き穴から外を眺めていた。
「お疲れ様フィアナ」
「昇様!それにラニとラピスもお疲れ様です」
互いに挨拶を交わす。
するとフィアナが手招きしてきたので近付く。
どうやら覗き穴から外を眺めて欲しいみたいなのでゆっくりと外を眺めてみる。
陣地内の覗き穴の向こうに魔族の姿が見えた。
「まだこちらには気付いてはいないみたいだな」
キョロキョロと何かを探している魔族、どうやらまだ陣地を見つけられていないようだ。
だがこのままでは見つかるのも時間の問題か。
今一度覗き穴から魔族を見る。
距離が遠く人数も少ない、今攻撃しても効果は薄いか……。
折角陣地を巧妙に隠したのだからその効果を最大限に活かしたい。
「誘い込むか……」
魔族を近くまで誘い込めれば効果を十分に発揮出来る。
問題はどうやって誘い込むか、罠エリアと違い陣地からの攻撃の為に誘い込むとなると味方からの誤射が怖い。
誘い込む役が陣地と魔族軍からの挟撃に合う形となる、余りにも危険だ……。
マリアのゴーレムを誘い込みに使うにも壊れる事を厭わないゴーレムが撤退するのも怪しまれる原因になるし……、あっそうだ。
(ミミティ)
『何かしら?』
ある事を思い付いてルナ様と一緒に憑依しているミミティに話し掛けると直ぐに返事が返ってきた。
(擬態って自分以外にも掛けれる?)
『あ~、出来るとは思うわよ。ただ出来たとしてもやったこと無いから自分に掛けるよりも粗さが出そうだけれど』
(1回試してもらっても良いか?これで。形は任せる)
『お任せね』
瞬間、持っていた瓦礫がナイフに変わった。
(出来たな、これなら問題無いよ、ありがとう)
『どういたしまして』
ナイフが瓦礫に戻った事を確認した後その辺に捨てる。
次はマリアだ。
すぐに俺は傍にて待機中のフィアナに声を掛ける。
「マリアと連絡取れる?」
「あら?何か用かしら?」
フィアナに声を掛けたらフィアナが答える前に俺の背後からマリアの声が聞こえた。
「丁度良かった、ゴーレム達の状況は?」
「こぞって戦闘中よ」
ゴーレムの製作者であるマリアはある程度の距離なら離れていてもどういう状況か把握出来ると言う。
マリアの負担を考えて空いているゴーレムを呼び戻して再生成してもらおうと思ったんだが空きが無いか……。
「申し訳ないんだが……ゴーレムを新たに製造って出来るか?」
「う〜ん……少数ならいけると思うわよ」
「問題無い、俺達と変わらん大きさのゴーレムを……そうだな、4体程作ってくれ」
『あ〜なるほど、そういう事ね』
『なにに私の擬態を使うかやっと分かったわ』
流石ルナ様と擬態の主であるミミティだ、俺のやりたい事が分かった様だ。
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それから準備を整え、魔族の迎撃に備える。
「来たっ!」
此方に向かってくる複数の人の姿、その背後にはそれらを追って来た魔族の姿が大勢居た。
「ギリギリまで引き付けろ」
「分かりましたっ!」
より多く相手の戦力を削る為、相手を深くまで誘い込む。
そして深くまで踏み込んできたタイミングで。
「撃て」
陣地の覗き穴から魔族に向けて攻撃魔術が次々と放たれる。
「がぁ!?」
「馬鹿な、何処からっ!?」
「や、奴等仲間ごとっ!」
「っ!よく見ろっ!獣人でもエルフでもねぇぞっ!」
魔族が追い掛けていたもの、それは攻撃魔術を受けて倒れ伏していた。
その姿を見て魔族達は更に困惑していた。
先程まで人の姿をしていた物がただの土塊に還っていたのだから。
そう、魔族が追い掛けていたのはミミティに頼んで獣人、エルフの姿に擬態させていた人型ゴーレムだ。
そのゴーレムを戦闘に向かわせ、その後撤退させて此処に誘い込んだという話。
誘い込まれて此方の集中砲火を浴びた魔族軍は壊滅、作戦は大成功に終わった。
「これで相手に此方の位置がバレた、当分立て籠もる事になるだろうな」
「食糧、水の備蓄に問題は無いです、暫くは持ちますね」
「食糧が尽きる前に魔族が撤収してくれれば良いが」
「そこまで簡単では無いでしょうね、昇様は勝手に抜け出さないで下さいよ?」
「分かってるから手を離してくれ」
フィアナとそんな風に談笑しながら他のエルフの娘と見張りを変わる。
これから魔族による陣地攻撃が本格的になり激しい戦いとなるだろう、気を引き締めよう。




