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セカンド・ワールド〜女神救出から始まる物語〜  作者: 唯ノ蒼月
第2章 攻勢作戦

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第26話 悪夢再び

俺は単独、夜の闇に紛れて魔族軍の陣地へと向かう。

服装も闇に溶ける様に黒色の外套に身を包んでいる為そう簡単には見つからない筈だ。


『えぇ……味方とはいえエルフ達の見張りに見つからずに抜け出せてる……』


『敵の陣地から女神達を救出したのよ?昇ならこのくらい余裕よ♪』


驚くミミティにルナ様が誇らしげに言った。

若干ミミティが引いてる気がするんだけど気の所為だろうか。


『にしてもこうして昇に憑依してるけど私達の気配が完全に遮断されてるのも凄いわね』


(憑依って完全に遮断されるものじゃないのか?)


今までずっとそうだったから分からなかったがどうやらこの世界では本来憑依しても完全には気配を遮断出来ない様だ。

気配の完全遮断と言い、憑依時の疲労と言い、俺はその辺が該当しないから不思議だな。

異世界から転生してきたというのが一番原因がありそうだ。


(そう言えばルナ様達からはどう見えてるんです?)


憑依と聞いて気になっていた事をこの際聞いてみる事にした。


『憑依時の視点は結構自由よ、昇の視点で見える視点もあれば昇の後ろ少し上……昇に分かりやすく言うならえぇっと……三人称視点だったかしら?』


(あぁ、分かります)


俺に配慮して分かりやすく説明してくれるルナ様。


『後は視点とは違うけれど貴方の精神世界に入れるわね』


(精神世界?)


『そうよ、多分だけどこの世界、昇の居た世界じゃないかしら。見たことない建物ばかりだし』


ミミティの説明で判明した精神世界の存在。

どうやら憑依する事で憑依した相手の精神世界にも入れるようだ。


『ミミティ?私が説明してるんだけど?』


『別に説明はルナだけがしなきゃいけない訳でもないでしょ』


(ルナ様、ミミティ、話はその辺にしときましょう)


言い争う2人を静止する。

前に点々とする焚き火の明かりが見え、また談笑する人々の声が微かに聞こえる。

近くの岩陰から顔を覗かせてみれば魔族の戦士達を確認できた。

ようやく魔族陣地に到着した。


「じゃあ行こっか」


『いやいやいや待ちなさいよ?!』


早速侵入しようとした所でミミティから止められた。


(どうした?)


『どうしたじゃ無いわよ?!まさかこのまま見張りの目を誤魔化して侵入する気?!』


(あぁ、その辺はちゃんと手を打っておいたから大丈夫)


別に見張りに見つからない様に侵入するのは構わんが……リスクが高いし、もしもの際の撤収時の事を考えて予め仕掛けを施しておいた。

見張りに見つからない様に魔族陣地の外周をゆっくりと進む。

そしてとある魔族の見張りを見つける。


(お、居た居た)


『ちょ、ちょっと!?昇!?』


岩陰から姿を現し見張りへと近付く俺にミミティは慌てるが俺とルナ様は大丈夫と分かっているので慌てない。

そうして何処か虚ろげな魔族兵の前に立つ。


『えぇ……目の前に敵が居るのに何の反応も無いわ……』


先日偵察に来ていた者達を丘で行った様に暗示の類いを掛けて帰しておいたのだ。

だからこうして会っても相手は俺を仲間と捉えているので問題も起こらない。

そのまま魔族兵の数名と共に陣地内へと侵入していく。

見張りを数名残すのはガラ空きになると怪しまれるからだ。

また俺も魔族兵と一緒だが念には念を入れて兵たちの影に隠れながら進む。

陣地内は静かだった。

起きて話している奴もいるが殆どは眠りに付いているのだろう。


そうして眠りに就く魔族兵の下まで辿り着いたら1人見張りを立て、眠っている魔族兵に1人ずつ暗示を掛ける。

まずは声を出させない様に布を噛ませ、数名の魔族兵に四肢を押さえ込んでから行う。

それを此処で眠る者全員にやってまた他へ。

それを繰り返す事数回、かなりの数が此方の味方へと早変わり。

後はこの味方を残りの魔族にぶつけるだけだ。





夜の暗闇が支配し微かに松明の明かりが照らす魔族軍陣地。

血の匂いが強く蔓延する中で怒り、悲しみ、泣き叫ぶ阿鼻叫喚の地獄絵図。

俺の行った行動によって仲間の魔族が裏切る事で出来た光景。


勇者の様な勇ましく、誇らしい戦いとは逆の陰鬱とした暗い戦い。

だが勇ましい戦いとか誇らしい戦いとかそんな事は言ってられない。

あのままではアリシア様やシャルル達が劣勢の中で戦いを仕掛ける事になりうる。

だからこそ、どんな手を使ってでも彼女達が勝てる様に事を運びたかった。

その結果、考えれたのがこの作戦だ。


また各地で狂信者だのなんだの言われるだろう。

だが所詮はこの世界の住民ではない余所者である俺だ。

居場所だってルナ様の狂信者と言われている俺には無いようなもの。

そもそも皆と違い定住地を持たない俺だからこそ周りや後の事を気にせずこういう手を使える。


そうやって自分を肯定しなければ、目の前の惨状に心が折れそうだった。


静かだった陣地で突如夜の闇に紛れて奇襲を受け、その敵を倒せば味方で、味方が味方を襲う地獄。

言葉は通じず、ただ凶刃が振るわれる。

騒ぎに気付いた見張りが陣地に戻り、その様子に唖然とした所を後ろから味方に刺される。


「ひ、人族だっ!」


「仲間に紛れて人族が居っぐぁ!」


同士討ちで混乱する魔族陣地を駆け回る。

その手に血に濡れたショートソードを持って。

幸い此処に味方は誰一人としていない、気にせずショートソードを振り回せる。


「がっ」


「ぐっ」


ただひたすらに振るう、その身体が返り血に汚れる事も厭わずに。

何も考えずに、振るう。


ただ、罪悪感を払拭する為だけに振るう。


パキン━━━


俺の持つ剣が音を立てて折れた。


「奴の武器が折れたぞ!」


「しねっ!」


それに気付いた魔族が俺に向かって剣を振り下ろした。


『『昇っ!』』


迫る魔族の剣、響くルナ様とミミティの叫び声。

俺は振るう魔族の剣を身体を横にズラして避け、その首に折れた剣を突き刺す。


「が、はっ!」


首を刺された苦しみに敵が手離した剣を奪い取り返す刃で切り裂く。

切り裂いた敵を掴み、俺に斬り掛かろうとしていた他の敵に押し付ける事で攻撃を防ぎ、押し付けた敵ごと後ろの奴を突き刺す。

剣から手を放し、斬り掛かってきた他の敵の剣を躱して拳を顎に打ち込み剣と斧を奪う。

奪った斧を敵に投擲しつつ敵を切り裂き駆ける。


「ひ、引けっ引けぇ!!!」


そうやって敵の数を減らしていくと遂に撤退して行った。


「……」


「……あぁ良かった、生きてたか」


撤退して行く敵を眺めて居ると傍に暗示を掛けた1人の魔族兵が現れた。

少し違うのは他の魔族と違ってこいつだけ念入りに暗示を掛けておいた。

理由はこいつの使う魔術を利用する為だ。

早速その魔術を使う前に……。


「こいつ以外、全員自害しろ」


暗示が解けて刃を向けられたり、情報が取られると面倒だ。

だから必要な奴以外には此処で死んでもらう。

暗示に掛っている魔族兵は1人の例外も無く自刃しその命を絶った。


「始めろ」


「……」


準備も出来た為魔術の行使を始める。

魔術の発動から数秒後、亡骸となった魔族達が次々と起き上がる。

そう、こいつの使える魔術の中で利用しようと思ったのはこの屍兵を作れる物だ。


「よし、行ってこい」


「……」


コクリと頷いてそいつは屍兵を率いて撤退して行った魔族兵の追撃に向かった。

追撃が終われば他に駐留している魔族軍に攻撃を仕掛ける様に暗示を掛けておいた。

これで当分は楽できると良いが……。


「帰るか……」


東の空が明るみを帯びてきた、もうじき夜が明けるだろう。

皆が起きる前にさっさと帰って風呂に入りたい所だ。

そう考えながら俺は防御陣地へと帰るために足を進めた。

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