第25話 動き出した歯車
あれから更に数日。
冬の寒さに晒されながらも俺達は陣地を補強していった。
伐採した木々を加工して壁を作ったり、雨風凌げる屋根付きの防護陣地を設けたりもした。
屋根付きの防護陣地は丸太を積み上げ、銃眼と呼ばれる最小限の開口部を設置したもの。
これは内部からの攻撃に必要な最小限の大きさにし、敵が狙いにくいようにしてある。
まぁ簡単に言うと木製のトーチカか。
そしてマリア達に頼みその全てに耐性魔術も施した。
防護陣地は良い、問題は正面の魔族軍だ。
これについては「勇者が居るのだから突っ込めば良いだろう」と言う奴と「幾ら勇者が居るからと言っても多勢に無勢、もっと慎重に動くべきだ」と言う奴とバラバラで意見が纏まらない。
ちなみに突っ込めば良いと言ってる奴等はアリシア様の護衛部隊で常に後方に居た奴等で、慎重派は勇者達と共に女神奪還に赴いた戦士達である。
一度自分達は敗北に喫した経験があるからこそ慎重なのだろう。
シャルルも敗北した事から慎重だし、クロエについても捕まった事から不利な戦いは行いたくない考えなのだろう。
ちなみにフィアナ達獣人族やエルフ達は「昇様の命令のままに」とか言ってシャルル達の話には参加してない。
ラニとラピスはまだ分からんでもないがお前らは参加くらいしろよとは思った。
ルナ様は「昇に付いていくだけよ」と言って憑依してる。
他の三女神様は良い策がないかシャルル達と一緒に考えてるがアリシア様とノルン様は一度捕まり力を吸われた事からやはり慎重の様だ。
「人族も大変ね〜」
「打つ手が無いというのと長い事此処で立ち止まっている事でみんな気が滅入ってるんだろ」
シャルル達の会議を少し離れた所で見守る俺の隣にやって来たミミティ。
以前の様に露出の多い服ではなく村人の冬用の服を着用していた、これがまた中々似合っている。
「魔術で遠距離攻撃すれば良いのではないのか?」
ミミティと同じく村人の服を着用したリーゼロッテがそう言う。
「遠距離攻撃による不意打ち、悪くは無いが最初の一撃であの魔族軍の大半を蹴散らせる程、魔術師の人数が居なく、その後に数で押されて敗北する可能性が高いから却下」
「むぅ……」
実際案としては悪くは無いのだが如何せん此方と向こうとで戦士達の数に差があり過ぎる。
それに最初の不意打ちは効いても続く2撃、3撃目は防壁を張ることで軽減されるだろう。
そうなれば後は魔族軍の数の多さで圧倒されてしまうだろう。
「ミミティ、ちょっと手伝ってくれ」
「良いわよ〜」
このままいても仕方ないし、ちょっと作業に移ろうとした時だった。
「ま、待って、何処に行くんだい?」
どこか焦った様なアリシア様が俺の手を握って引き止めた。
《あ〜、アリシアったら昇に見捨てられるんじゃないかと思って焦ってるわね》
(見捨てませんって……と言うかなんで俺に見捨てられるからってこんなに焦るんですか)
《それは昇がアリシア達を助けて勇者達が此処まで盛り返す土台を作った事で頼りにしてるからでしょうね、後は昇と会えなくなるとかかしら……取り敢えず安心させてあげなさい》
ルナ様に言われた通りアリシア様を安心させる為に話をする。
「いえ、気が滅入ってるまま考えても良い案は出ないと思いましたので気分転換出来るものを作ろうと思っただけです……」
「だから安心して下さい、見捨てたりしませんから」
「━━━ッ……そ、そっか、分かった、ありがとう!」
そっと手を引っ張り耳元でそう囁いたらアリシア様は勢い良く離れてそう言った後ノルン様達の下へと戻って行った。
顔が赤くなってたけど寒いのかな、なんか暖かくなる物作れないかな。
後ろでジーと此方を見つめるシャルルやクロエ達に小さく手を振りその場を後にする。
「それで何を作るのかしら?」
「風呂作ります」
憑依を解いたルナ様にそう答える。
お風呂に入って心身共に癒されれば気持ちに余裕も出てくるだろうからな。
風呂は男女別と女神様達用の3つを作る。
「と言うことで頼むぞティガー」
「任されやした」
ティガー達に敷き詰める為の石を採集してきてもらい、その間に俺は風呂場の製作に移る。
今回はルナ様の他にミミティやリーゼロッテ、ラニやラピス達も手伝ってくれるので前回より早めに作れる。
「昇、出来た」
「ありがとうな、ラニ」
「ん……」
ラニが魔術で木々を加工してくれた物を受け取り、ご褒美に頭を撫でる。
最近ご褒美とかで頭を撫でることを請求される。
ラピスも浴槽の穴掘りを頑張ったのでご褒美で頭を撫でてあげる。
男女の浴槽の間に衝立を立てて分けて作る。
後は身体を洗う為の場所を作れば終了。
今回は露天風呂ではなく室内風呂にした。
露天風呂も良いがそれだけだと流石に寒い。
魔族軍も近くに居ることだし、室内風呂なら周囲を気にせずルナ様達も湯船に入れるだろう。
穴を掘り終え建物の建設に取り掛かる時に丁度ティガー達も帰ってきた。
帰ってきたティガー達に一度どうやるか見本を見せてから石を敷き詰めていってもらう。
建物と石の敷き詰めが終わったので今日はこの辺にして残りの作業は明日にする。
翌日。
今日は湯船に使う水を確保する為に川から水を引っ張る。
水道などという良いものは無いし作れないので取り敢えず水路を陣地に向かって掘り進める。
とはいえ陣地まで伸ばすのは流石に遠すぎるので川と陣地の中間辺りで貯水場を設け、そこから馬車などで水を運ぶ事にした。
獣人達にエルフ達が魔術を掛けてくれているので凄い勢いで水路が掘られていく。
水路が崩れて潰れるのは困るので後ろから石を敷き詰めてもらう。
水路はティガー達に任せて俺は貯水場の様子を見に行く。
此方はラニ達が作業中でやはり魔術を使っているから凄い早く出来上がっていく。
……俺要らなくない?
「ねぇ昇」
「おん?」
倒木に腰掛けてラニ達を見守る俺の横に腰掛けて話し掛けてきたミミティ。
その表情はどこか心配そうに見えた。
「貴方昨日の夜に魔族の偵察者と接触したけれど……何も無かったとは言え、控えた方が良いわよ?あらぬ誤解を招くし」
「なんだ、心配してくれてんのか、ありがとうよ」
憑依しているルナ様以外誰にも見られて無かったと思ったがミミティに見られていたか、気を付けないとな。
俺が接触したのは此方に気付いた魔族軍が寄越した偵察の者。
まさか見張りのエルフ達に見つかること無く陣地付近にまで近付いて来るとは思わなかった。
俺もルナ様が教えてくれなかったら気付かなかっただろう。
何をやってたかは後数日も経てば分かるしここでは言わない。
「昇〜!出来たよ〜!」
「良し、じゃあフィアナ達に連絡して水を流して貰おうか」
ラピスから作業完了の報せを受けたのでエルフの娘に魔術でフィアナ達に連絡してもらい水を流して貰った。
程なくして水が流れてきた。
「良し、それじゃ水汲んで帰るぞ」
「分かった」
ラニとラピスが手に桶を持って水を汲みに行きその後ろをマリアとセレスティナが付いていく。
こうして見ると保護者みたいに見えるな……。
汲んだ水を馬車に乗せて陣地へ帰還、貯水槽に入れれば後は温めて水で温度調整すれば良し。
早速湯を張り入浴する。
ルナ「はぁぁぁっ、ほんっとうにいい湯ねぇ」
アリシア「うん、疲れが取れるよ」
エイア「これも弟くんのお陰だね!」
ノルン「昇には感謝してもしきれないわね〜」
なんでこの女神様達は当たり前の様に俺と一緒に入浴したがるのかよく分からん……。
ルナ様に至っては背後から抱き締めるのがデフォルトになってません?
女神様達以外からも風呂は好評だった、お陰であの陰鬱とした空気も吹き飛んだ。
風呂上がりの良い匂いを漂わせるラニとラピスに挟まれながら眠りに就く。
そして皆が寝静まった頃に俺は抱き着いて眠るラニとラピスを起こさないように起き上がる。
そしてフィアナ達が起きないよう一人で家を抜け出す。
さて……下準備も出来たことだし、始めようか。
《本当にやるのね?》
(はい、準備は出来てますから)
「何処行くのよ、こんな夜更けに」
いざ行こうとした時、後ろから声を掛けられる。
振り返れば其処には初めて会った時に身に着けていた露出の高い服を身に纏ったミミティが居た。
「ミミティか、ちょっと用事があってな」
「こんな夜更けに一人で?」
「ああ」
「……私言ったわよね?あらぬ誤解を招くって、分かってんの?あんたこのままだと居場所が━━」
「だからこそ行くんだ」
「━━━━はぁ……分かったわよ頑固者、でも私も憑依して付いて行くから!どうせルナも居るんでしょ!?」
そう言うや否やミミティは俺に憑依した。
《やっぱり居た》
《何よ、別に私が昇に憑依してても貴女には関係ないでしょ?》
《ええ、関係無いわよ、だから私がこうやって昇にくっついて行くのもあんたには関係無いわよね?》
なんか喧嘩してない……?大丈夫か……?
《全く、なんで一人で行くのよ……》
心配そうに呟くミミティ。
「一人の方が気が楽だからな」
《ばっかじゃないの!?》
突然の罵倒、だが実際大人数で動くよりも一人とかで動いた方が見つかりにくいからなぁ……。
俺はエルフの見張り達から見つからない様に森を抜け出し平原へと向かった。




