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元社畜は慎重さと準備を武器に、搾取する幼馴染や家族を切り捨て、ダンジョンで自立した平穏を勝ち取る  作者: 日富美信吾
第9部

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第97話:探索者だから


 赤い回転灯の光。


 耳をつんざく警報音。


 異常事態——スタンピードの発生を告げるそれらに、心拍数が跳ね上がる。


 普段であれば、この空間は安全だ。


 だが、スタンピードが発生した今、安全とは言い切れない。


 いつ、モンスターがダンジョンから溢れ出すかわからないからだ。


 そこを職員たちが血相を変えて走り回り、探索者たちが魔剣や魔道具を手に次々とダンジョンへと駆け出していく。


 そんな中で、何もしない——いや、床にへたり込み、頭を両手で抱えている探索者がいた。


 不自然なほど大量の魔石を換金していた、あの中堅探索者だ。


 彼は呻くように呟いていた。


「こんなはずじゃなかった」


 と。


 ならば、この事態を引き起こしたのは、彼なのだろう。


 なぜそんなことをしたのか。


 こうなるとわからなかったのか。


 ……いや、今は彼を追求する時ではない。


 防衛線が突破されれば、この場所は完全に破壊されるのだから。


 腹の底に重く濁ったものが渦巻くことを否定できない。


 だが、それでも私は短く息を吐き、意識を切り替える。


 明日もここで生きていくために、今、できることをやらなければ。




 中層の境界線、大竪穴(スパイラル・ピット)の上部に構築された絶対防衛線は、かつてフォートレス・アイソポッドの群れが押し寄せた時とは全く異なる様相を呈していた。


 文字通り、無秩序だったのだ。


 乾燥した岩場に生息するはずの装甲亀(アーマー・タートル)が、湿地帯の酸性粘体(アシッドスライム)と群れをなし、暗所に潜むはずの岩砕大百足(ロック・センチピード)が上空から降り注いでいる。


 本来であれば交わることのない別々のエリアのモンスターが、一切の法則を持たずに溢れ出し、暴れ回っていた。


「くそがッ! 何をやってもいい! 押せ! 押し返せ!」


「しかし、この数がッ……! 多すぎる……!!」


 最前線では、大剣を振るう颯真くんや、黒木氏の姿があった。


『赤き戦斧』や『蒼穹の翼』のメンバーたちも、持てる限りの武器と魔道具を使い、ただひたすらに数を減らすためだけに戦い続けている。


 上近少年の姿もそこにはあり、派手ではないが、確実にモンスターを処理していた。


 モンスターが倒されたことにより、光の粒となって次々と霧散していくが、倒した端から暗がりから新たな群れが湧き出してくる。


「チクショウがぁっ! 倒しても、倒しても、倒しても、次から次へと湧いて来やがって! キリがねえぞ、こんなの……!!」


 苛立つような颯真くんの声が聞こえてくる。


 防衛線は少しずつ、だが確実に削られていた。


 私も腰からサバイバルナイフを引き抜き、防衛線の薄い箇所へと身を滑り込ませた。


 迫り来る澱殻蟹(スタグナント・クラブ)の関節に刃を突き立て、処理していく。


 だが、数体処理した時だった。


 私は足元の凹みに足を取られ、体勢を大きく崩してしまった。


 左側から狂乱角獣(マッド・ホーン)が突進してくる。


 普段ならあり得ない、致命的なミスだ。


 颯真くんと二人、深層を探索していた時のように、万が一の装備を、なぜ今日はしていないのか。


 悔やんでいる暇はない。


 諦めるのではなく、思考しろ。


 私は一瞬の間に、いくつもの回避パターンを計算し、そのどれもが実現不可能である事実を認め、それでもなお諦めるつもりはなかった。


 だが、その瞬間はやってきた。


 狂乱角獣は私に向かって——こなかった。


「……!?」


 私の横を一直線に通り抜け、岩壁へ向かって走り去っていった。


「……な、ぜ」


 死の恐怖で全身から冷や汗が噴き出し、手足が震える。


 それでも何とか私は岩陰に身を寄せた。


 乱れたと呼吸と暴れる鼓動を感じながら、モンスターを観察する。


 洞窟猪鬼(ケイブ・オーク)岩隠擬蛙(ロック・フロッグ)たちが目の前を駆け抜けていく。


 モンスターの視線は、武器を構える探索者たちへ向いていなかった。


 モンスターが見据え、向かっているのは、私たち探索者ではなく、その奥にある壁や、別の通路だった。


「……もしかして」


 私は、岩壁の亀裂に発泡ウレタンを充填した時のことを思い出した。


 あの時、殺到した剛腕巨猿(グラナイト・エイプ)石像兵(ストーン・ゴーレム)たちは、ウレタンの塊を排除しようと狂乱状態だった。


 今回、スタンピードが発生した理由は何だ?


 前回と同じ、『アルゴス』がアイソポッドを狩りすぎたという理由からか?


 違う。


 彼らはもう、そのような間違いを起こさない。


 では?


 あの中堅探索者が、あり得ない量の魔石を換金した直後、スタンピードが発生したことを考えれば、化学物質が引き金になっているのはほぼ間違いないだろう。


 そして、化学物質を完全に排除できていれば、このような状態は続かない。


 実際、ウレタンの排除を終えた後、モンスターは発生していない。


 私はその事実を確認している。


 ならば、モンスターがこうして殺到し続けているのは、ダンジョンのどこかに、化学物質がまだ残っているということに違いない。


 そして、こうも考えられる。


 化学物質を排除するために殺到するモンスターたちを、探索者たちが躍起になって倒せば倒すほど、除去できない事実に、ダンジョンはさらに暴走する可能性もある。


 私たちが取るべき方法は一つだ。


 化学物質を、私たち自身の手で取り除く。


 モンスターを処理せず、彼らが除去するのを待つという方法もあるかもしれないが、モンスターを観察する限り、その方法は取るべきではないだろう。


 A地点の物質を除去したいモンスターと、B地点の物質を除去したいモンスターが衝突し、同士討ちが発生しているため、放置していても除去されない可能性が遥かに高い。


 やるべきことが明確になった途端、死の恐怖でこわばっていた体が少しだけ軽くなったように感じた。


 まだ何も解決していないが、それでも道筋が見えた事実は強い。


 私はナイフを鞘に戻し、乱戦の最前線から、そこへ向かった。




 私が向かったのは、ロビーである。


 あの中堅探索者は、まだ頭を抱えてへたり込んでいた。


「どこに化学物質を使用したのか、正確な場所を教えてください」


 私が問いかければ、彼は肩を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。


 その顔は土気色に染まり、目は虚ろだった。


「…………ない」


「はい?」


「お、俺は知らない! 俺は関係ない……!!」


 彼は叫ぶように、そう言った。


 彼自身、自分が引き起こした事態の深刻さを痛いほど理解しているのだろう。


 だからこそ、その事実を認めようとしない。


 苛立ちを通り越し、虚しさすら覚える。


 だが、彼を責めたところで事態はまったく好転しない。


 ……どうするべきか。


 思考を巡らせようとした時、背後から足音が近づいてきた。


「……あなたが急に戻るから、何があるのか気になって」


 桜色の防具を身に纏った、あの少女だった。


 彼女は息を切らしながら私の隣に立つと、うずくまる男を見下ろした。


「……ねえ、あなたが原因なんでしょ」


 忖度も何も無い、直截すぎる物言いだった。


 思わず呆気にとられるのは私だけでなく、彼も同じだったようだ。


 だが、彼はすぐに、


「お、俺は関係ない……!」


 私に告げたのと同じ言葉を口にした。


 その言葉に、彼女はただ、


「ふーん」


 と漏らした後、首を傾げた。


「なら、どうしてここにいるの?」


「え?」


「関係ないなら、最前線で戦わないといけないんじゃないの? だってあなた、探索者なんでしょ。探索者なら、さっきのアナウンスが聞こえなかったの? 全探索者に協会からの緊急防衛命令として、絶対防衛線を構築してって」


 違う? と言った少女は、彼を真っ直ぐに見つめた。


 彼は少女の眼差しから逃れるように俯いた。


 そして、何も言わなかった。


 今の彼には、何も届かない。


 きっと、どんな言葉を重ねたところで、彼が口を開くとは思えない。


 それなのに、私は気がつけば、彼に向かって言っていた。


 言わずにはいられなかったのだ。


「……変容するダンジョンに対応しようと、あなたが足掻いていたのを知っています。諦めて去っていく探索者がいる中、それでもあなたはここに残り、探索者を続けていた」


 大衆食堂で唐揚げ定食を食べながら、


「美味えなあ」


 と、そう呟いていた彼の姿を思い出す。


「……ですが、今のあなたは、自分が生きていこうとしていた場所を、自分の手で壊そうとしている」


 楽な方法に逃げて。


「……残念です」


 それは紛れもない本心だった。


 彼は、何も言わなかった。


 少女が、どうする? という感じで私を見上げてくる。


 総当りで探すしかない。


 私と少女は、彼に背中を向けた。




 最前線は疲労の色が濃くなっていた。


 大怪我を負ったのだろう、壁際に運ばれた探索者の姿もあった。


 ポーションで回復できるが、失った血や体力まで回復するわけではない。


 死者が出ていないのは、まだ出ていないだけで、ただ運がいいだけだ。


 限界は近い。


 私は最も前線で大剣を振るっていた颯真くんへ向かって、声を張り上げた。


「攻撃を止めてください!」


 その声に、周囲の探索者たちが一斉にこちらへ視線を向けた。


 私は全員に聞こえるよう、事実だけを端的に伝えた。


「モンスターは人間を狙っていません! 彼らはダンジョン内に仕掛けられた化学物質を除去しようと動いているだけです! 先程、私の目の前を素通りしました。私たちがその物質を除去すれば、この暴走は収まります……!」


 モンスターと戦っていた探索者たちの間に、ざわめきが広がる。


「そんな可能性に、命を預けられるかよ!」


 頭に血が上った探索者の一人が、モンスターを倒した直後、私を振り返って怒鳴りつけた。


「こっちは仲間を傷つけられたんだ……! お前の言うことが正しいなら、そんなことにはなっていないだろ!? 違うか……!!」


 そのとおりだ。


 だが、その時、


「俺は静河を信じるぜ……!」


 今にも大剣を振り下ろし、モンスターを倒そうとしていた颯真くんが、その手を止めた。


「静河は何の根拠もなく、そんな突拍子もねえことを言うようなやつじゃねえからな……!」


 モンスターは、颯真くんを無視して、通路の奥へと消えていった。


 颯真くんは笑顔を見せるが、引きつっていることを隠せていなかった。


 颯真くんに続くように、上近少年が深く頷き、『蒼穹の翼』の伊織くんたちが武器を下ろす。


『赤き戦斧』の皆も、黒木氏もだった。


 彼らが対峙していたモンスターたちは、彼らが自分たちと敵対しないと見ると、思い思いの場所へ殺到していく。


 それ以外の探索者たちの中にも、剣を引く者が現れ始めた。


 だが、先程怒鳴った男は頑として譲らず、魔剣を強く握り締め、目前の装甲亀に振り下ろそうとした。


 すべての探索者が、私の言葉を信じるとは思っていないし、それでいいと思っている。


 彼らには彼らの信じるものがあり、それに従えばいい。


 だが、そんな彼を止める声があった。


 壁際で手当てを受けていた探索者だ。


「なあ、やってみようぜ」


 彼の仲間なのだろう。


 腕に同じような模様のバンダナを巻いていた。


「俺たちが探索者になったのはさ、探索者がかっこよかったからだろ? 恐ろしいモンスターを倒す、ヒーローになりたかったからじゃないか」


 彼の仲間は、痛む脇腹を押さえながら笑った。


「ヒーローってのは、クールでかっこいいもんだ。モンスターを倒さずに事態を解決するなんて、最高にクールでかっこいいじゃないか」


 その言葉に男は顔をしかめ、


「俺が好きなヒーローは、熱血で敵を全部倒すやつなんだけどな」


 そう悪態をつきながらも、魔剣を装甲亀に振り下ろさなかった。


 装甲亀は、目的遂行を邪魔しようとしていた彼を排除しようとしていたが、彼に敵意がないと理解したのか、彼のことを無視して通路の奥へと消えていった。


 彼の肩を、仲間たちが叩く。


 その様子を見ていた少女が、


「……何あれ。あれが探索者……?」


 と呟いた。


 私がここにいるのは、ただ自分が生きていくためだった。


 しかし、彼らの理由は違う。


 探索者の数だけ、理想とする姿がある。


 だが今この瞬間だけは、私たちが見つめる方向は一致した。


 この現場を守るために。


 颯真くんが私を見た。


「取り除かなきゃならねえ化学物質がどこにあるか、わかるのか?」


「教えてもらいました」


「……最後の良心か、自責の念か」


 黒木氏が呟くのが聞こえた。


「どうでもいい。あいつが最低なことをやったことに変わりはない」


 最後まで頑なだった探索者が、吐き捨てるように言った。


 私はそれには何も反応せず、ただ、どこにあるのかをここにいる探索者たちに伝えた。


「じゃあ、俺たちはこっちに行く」


「わたしたちは向こうにするわ」


 そうやってどこに向かうかを話し合った後、私たちは互いに顔を見合わせ、そして静かにモンスターの群れが殺到する中へ向かっていった。


 モンスターは私たちを無視して、ただ奥の壁や特定の地点へと向かっていく。


 仮説が実証されたとしても、恐怖がないわけではない。


 彼らの邪魔をする存在だと認識されれば、排除されることは間違いない。


 進路上に立ち塞がり、彼らの障害物にならないようにしなければならない。


 私たちは最大限の注意を払いながら、彼らの流れを避け、該当の座標へと到達した。


 岩壁の亀裂深くに塗り込められた接着剤。


 床に乱雑に染み込ませた硬化剤。


 私はそれらを眺め、一つだけ、息を漏らした。


 モンスターたちはこれを排除したいのに、異なる生息域のモンスター同士が鉢合わせ、お互いがお互いを障害物だと認識し、激しい戦闘を繰り広げている。


 その余波をすぐ近くに感じながら、私はハンマーと楔を取り出すと、岩盤ごとそれを削っていった。




 他の探索者たちもそれぞれの道具を使って、ダンジョンにとっての異物を削り取り、袋に密封して環境から切り離すことに成功した。


 そうして、すべての作業が完了した。


 暴走していたモンスターたちの動きが、目に見えて鈍くなっていった。


 彼らは排除すべき異常を見失い、しばらくその場に留まっていたが、やがて静かに元のエリアへと帰っていった。


 誰も何も言わない。


 その静寂を破ったのは、誰かの深い安堵の息だった。


 それが引き金となり、あちこちから歓声が上がった。


 狂乱の波が完全に引いたという事実に、強張っていた筋肉が一気に弛緩する。


「……マジで襲われなかった」


「あんなに近くで酸性粘体(アシッドスライム)を見たの初めて。もう駄目って何回思ったか!」


「二度とごめんだな!」


 そう口々に語り合いながら、彼らの顔には満面の笑みが浮かんでいた。


 歓喜に沸く彼らの輪に混ざらず、ただ、この職場を守り切ったという確かな達成感を噛み締めていれば、


「お手柄だな、相棒」


 颯真くんがやってきて、拳を突き出してきた。


「……私だけの力ではありません」


 私がそれに応じれば、彼は笑った。


 その後ろから、上近少年が、『蒼穹の翼』、『赤き戦斧』のメンバーもやってきて、颯真くんと同じように拳を突き出してくる。


 私は苦笑いをして、彼らのそれに応じていった。


「……さすがだな」


 黒木氏が私の肩を叩き、そのまま立ち去った。


「……あたしもやるべき?」


 少女が腕を組んで真剣な表情でそう呟けば、颯真くんが盛大に吹き出した。




 私たちはロビーへと戻ってきた。


 受付ではなく、外へ出ていた井葉さんは私たちに気づき、その様子を見て、ほっとした表情を浮かべ、うなずいた。


 カウンターの向こうに指示を出せば、赤い回転灯と警報音が止まった。


「皆さん、無事で何よりでした!」


 井葉さんの言葉に、探索者たちは満足げな表情で応じた。


 その時、


「おい、あれ」


 誰かが呟いた。


 見れば、あの中堅探索者が、協会の職員に連行されていくところだった。


 彼は連行されながら、こちらに気づいた。


 そして、探索者たちの中に顔見知りを見つけたのだろう。


 すがるような声を上げた。


「な、なあ、お前も変容に対応できず苦しんでたよな!? なら、俺の気持ちがわかるよな!? こんなつもりじゃなかったんだ!」


 声をかけられた探索者は応えない。


「お、お前も言ってたじゃないか! 昔はよかったって! 変容が起こらなかったら、こんな苦労しなくて済んだのにって!」


 別の探索者も応えない。


「なあ、俺だけか!? こうすれば以前みたいに稼げるって思ったのは!? 違うだろ!? お前らだって考えただろ……!!」


 別の探索者も応えなかった。


 中堅探索者は血走った目で、必死の形相で、なおも言い募ろうとしたが、最初に声をかけられた探索者が言った。


「けど、やってない」


「え?」


「考えた。けど、俺たちはやってない。俺たちは探索者だからだ」


 声をかけられた探索者は中堅探索者から視線を外し、隣りにいた探索者に声をかけた。


「今日は最高に気分がいいから、このまま飲みに行こうぜ」


 と。


「今日のことを肴に、盛り上がろうぜ」


 と、そう続けて。


「よし、行くか!」


 彼の言葉に応じて、探索者たちが、中堅探索者に背中を向ける。


 しかし、最後に、声をかけられた探索者が立ち止まり、


「————」


 名前か何かを口にしようとして、だが、何も言わずに、すでに先へと進んでいた探索者たちを追いかけていった。


 残された中堅探索者は燃え尽きたように項垂れ、職員によって連行されていった。


 私はそれを、ただ見つめていた。


「……彼が危険行為を行ったことを自白したよ」


 私の横に、いつの間にか権藤さんが立っていた。


「探索者ライセンスは剥奪。さらに、今回の事件を引き起こした刑事責任と損害賠償が追及されることになるだろう」


 私は何も答えなかった。




 権藤さんも立ち去り、私は一人、そこに立っていた。


 記憶の底にある一つの光景を思い出していた。


 大衆食堂のカウンター。


 隣の席で唐揚げ定食を頬張り、「美味えなあ」とこぼしていたあの姿。


 あの時の彼は、この現場で生き残ろうと、必死に藻掻いていた一人の人間だった。


 だが、その彼はもう、どこにもいない。


「ねえ」


 誰もいないとそう思っていたのに、呼びかける声があった。


 振り返れば、あの少女だった。


「みんな、行っちゃったよ?」


「……そうですね。私たちも行きましょうか」


 私が一歩踏み出せば、少女も同じように一歩を踏み出した。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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