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元社畜は慎重さと準備を武器に、搾取する幼馴染や家族を切り捨て、ダンジョンで自立した平穏を勝ち取る  作者: 日富美信吾
第9部

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109/117

【アフターエピソード】:堕ちた正義の味方、その末路

本日更新の2本目です。

こちらは本編ではなく、【107話】のアフターエピソードになります。

楽しんでいだけましたら幸いです。


 ありもしない通報をでっち上げた南塚原。

 歪んだ正義感による思い込みで正規の探索者を不当に拘束しようとした彼を待っていたのは、単なる懲戒免職だけに留まらなかった。

 その不祥事は、瞬く間にネット上に実名と顔写真付きで拡散された。


『正義の暴走』

『冤罪をでっち上げた元警察官の末路』

『南塚原は上級国民ではなかった!』


 そんな見出しとともに、彼がかつて誇りに思っていた経歴は、格好のフリー素材として玩具にされた。

 さらに追い打ちをかけたのが、協会から請求された巨額の損害賠償だった。

 彼に対する不信が職員全体に対する不信へと変わり、探索者たちによる大規模な保安検査のボイコットが発生した。

 その結果、国家の戦略資源である魔石のサプライチェーンが一時的に停止するという、取り返しのつかない莫大な損失を生み出したのだ。

 その責任と損害の全額が、南塚原の肩にのしかかった。


「私は……皆が苦しんでいるから、あいつの不正を暴こうと……!」


 どれだけ叫んでも、誰も見向きもしない。

 警察官時代に法と規律を盾に犯罪者を追い詰めていた男が、今や自らが犯した愚行によって社会的に完全に抹殺されたのだ。

 そうして南塚原が辿り着いたのは、身元保証すら必要のない、街の最外れにある下級魔石廃棄物中間処理場の夜勤労働だった。




「おい南塚原! 手を動かせ! 突っ立ってる暇があったら、そのC品のクズ魔石を早く仕分けろ!」


 現場監督の罵声が、機械油と泥汚れが混ざり合った異臭の中に響く。

 南塚原は他人の汗と泥が染み付いた薄汚れた作業着に身を包み、ヒビ割れてひどく濁ったC品魔石を素手で仕分けていた。

 金銭的に余裕はなく、最低限の食事もおぼつかない状況のため、手には力が入らず、体も芯から冷え切っている。

 その時、隣で作業していた男がボソリと呟いた。


「……あんた、こんなのは自分がやるべき仕事じゃないとか思ってんだろ」


 その指摘が自分に向けられていると、南塚原はしばらくしてから気がついた。


「そ、それは……」

「あんたのこと、ネットで見たよ。元警察官。ああ、確かに経歴だけを考えれば、そうだろうさ。けど、あんたは自分勝手な思い込みで、社会に迷惑をかけた」

「あんたに何がわかる! 俺は——」

「知らないよ、あんたの気持ちなんて。どうでもいいことだ。けど、こんなところででも働けるだけありがたいと思った方がいいと、俺は思うけどね」


 男はそれっきり、自分の仕事に戻った。

 南塚原はなおも言い募ろうとしたが、結局、何も言わなかった。——いや、言えなかった。

 確かに、自分はこんな場所で働く人間ではないと思っている。

 だが、こんなところででも働かなければ、最低限の食事すら摂ることができなくなってしまう。

 我慢するしかない。

 我慢さえしていれば、いつか——いつかきっと。どうにかなる未来が、来るのだろうか?

 本当に?




 午前二時。

 休憩を告げるチャイムが鳴り、南塚原はプレハブの休憩室へ向かった。

 いつ掃除したのかもわからないカビ臭い部屋の隅で、値引きシールが貼られたカチカチの塩むすびを口に押し込む。米粒の冷たさが、胃袋を容赦なく冷やしていく。

 その時、休憩室で同じように休んでいた男が見ていたタブレット端末から、政府および管理協会による合同記者会見の音声が流れてきた。


『――続いて、国家管理体制の構築において、現場の安全基準を劇的に向上させる新仕様書を発表いたします。これは我々が独自に収集、解析した実測データに基づくものであり、今後のダンジョンにおける安全インフラの根幹となります』


 ちらりと横目で見た画面に映し出されていたのは、誇らしげに語る協会の上層部だった。

 彼らはそのデータを自分たちの手柄として発表していたが、南塚原は画面に大写しにされた新仕様書の項目を見て、息を呑んだ。

 それは、かつて南塚原が保安検査場で静河から提出され、彼自身が執拗にチェックした成分データシートや環境対策の運用手順そのものだったからだ。

 南塚原が、ルールを誤魔化す悪だと決めつけた静河のデータは、国すらもその手柄を横取りしてシステムの根幹に据えるほど、圧倒的で完璧な正解だったのだ。

 南塚原がその事実に呆然としていると、プレハブのドアが乱暴に開け放たれ、顔を真っ赤にして怒り狂う現場監督が現れた。


「おい南塚原! 処理前のB品の魔石が箱ごと無くなってるじゃねえか!」

「え……? 私は何も——」

「とぼけるな! この時間、帳簿の管理と見回りをしてたのはお前だけだろ! 冤罪でっち上げてクビになったような元警察官だ、手癖が悪くても不思議じゃねえ!」


 現場監督の発言に、タブレット端末を見ていた男が南塚原に向ける目が、


『……ああ、やっぱりそうなんだ』


 そう語っていた。

 南塚原はカッと頭に血が上った。


「っ、ち、違います! 私はやっていない! 具体的な事実が何一つ提示されない状況で、そんな言いがかりは——」


 南塚原は大声で弁明したが、現場監督は聞く耳を持たず、冷酷に吐き捨てた。


「証拠だぁ? 前科持ちのお前が言うな! お前でなけりゃ、誰がやるってんだ! とっとと出てけ!」


 客観的な証拠は何一つない。

 ただ状況的に怪しいからという理由だけで犯人と決めつけられ、圧倒的な権力差で弁明すら封殺される理不尽。

 その暴力性を自らが味わった瞬間、南塚原の脳裏に、かつて自分が保安検査場で静河を追い詰めたときの光景が、最悪のフラッシュバックとして蘇った。


『そうでしょうか。急激に環境が変わる中、あなただけが以前と同じ水準で結果を出している。何もないと考える方がむしろ不自然だ。書類の偽装、あるいは隠し持っていたという可能性もあるのではないですか?』


 かつて自分が正義を振りかざして放った証拠のない決めつけが、そのまま同じ論理で、何の権力も持たない今の自分に容赦なく突き刺さったのだ。


「南塚原、お前はクビだ!!」

 弁明の機会すら与えられず、南塚原は休憩室から夜の闇の中へ放り出された。


「わ、私は不正を行っていません……! ほ、本当にやっていないんです……!」


 やっと見つけた、最低限の食事を摂るための稼ぎを得られる職場を失ったら、自分はどうすればいい?

 だが、這いつくばり、土下座し、叫んだところで、誰も見向きもしなかった。

 かつて自分が静河の言葉を一切信じず、冤罪をでっち上げたように、今度は自分が冤罪をかけられ、最底辺の職すらも奪い去られたのだ。

 完璧な因果応報。

 南塚原の手の中に残ったのは、まだ食べきっていない冷え切った塩むすびだけ。


『……残念だよ、南塚原。お前はいい警官になると、ずっと思っていたのに』


 別れ際、北林が静かに漏らした言葉が脳裏よぎり、


「あ、ああああああぁぁぁああぁぁあぁぁぁああぁぁぁああああぁぁぁああ……!」


 南塚原は、何もかもを失った事実に気づき、慟哭することしかできなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

もし少しでも『面白い』『続きが気になる』と思っていただけましたら、

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