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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
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73母の歓喜

カミーユの母のエマ視点。ついでにランドルは兄、セリーヌは妹です。念のため。


「あなた、ほ、本当に…?」

「ああ、ほら読んでみるといい」


数か月前、学生時代から特別な関係だったロザリー嬢との結婚を考え始めているから、協力してほしい、という手紙が来たときは、旦那様やランドルと、何度も何度も読み返してしまったものだった。


追って、婚約誓約書を準備してほしい、と来たときには、旦那様は自ら領都に馬を飛ばして、役所に誓約書をとりに行ったほどだ。

もちろん、何度も確認して…私達が書けるところは名前しかないのを本当に何度も確認して、それを早馬で王都に送った。なので、一日ちょっとで届いたはず。


でも…。そこからはこれといった進展がなかった。


たまに、どうなっているの?と手紙鳥を飛ばしたくなって仕方なかったのだけど、旦那様に止められて、我慢していた。


20年ちょっと前、あの子を産んだ時から…私はあの子が幸せになれるのか、とずっと不安で仕方がなかったのだ。


最初は、まだ私が産褥で床上げもしていない、たった五日目。

まだカミーユと名付けてすらいなかった私の赤ちゃんが、いない、と屋敷の中が騒然とした。


赤ちゃんだけでなく乳母までがいなくなっており、でも城の警備はちゃんとされていて、不審者を見たものすらいなくて…。


でも早朝に、乳母がこっそりと裏門を出ていったことが直ぐに分かった。


門番は、乳母が城内で勤めるものが休みの日に里帰りするときによく使うようなバスケットを持って出ていったので、不審に思わなかったらしい。


数時間経ってしまっていて、旦那様は大急ぎで足取りを調べさせた。


乳母は城下にでるとすぐにバスケットからカミーユを出して、大切そうに抱っこして歩いていたようで、乳母が攫っていったことはすぐに分かった。


そして、朝一番の長距離馬車に乗ってしまっていた。


カミーユを抱いて馬車に乗るところを乗合馬車の事務員が見ていたのだ。

やけにかわいい赤ちゃんだな…と思ったので記憶に残っていたのだという。


旦那様はためらわずに領軍を出した。


よく鍛えられた騎士たちとその馬は良く駆け、そして軍馬が引く馬車は、それに遅れなかった。


足取りを追いながらだったため、半日近く経ってからの追手となっていたせいで、長距離馬車に追いついたのは、国境で、でのことだったらしい。


国境をこえるときは、馬車に乗っている者達は一度全員降りて、馬車の中を空にし、人々は関所を歩いて超えて、もう一度馬車に乗り込む、ということになる。


そのため、国境の関所前には馬車の列ができてしまうものなのだ。


そして、次の馬車がまさに乳母の乗った馬車、というギリギリのタイミングで…旦那様率いる領軍は追いつき、国境をこえるために馬車から降りていた乳母を拘束し、カミーユを取り戻せたのだった。


私はまだ体力が戻っていない体で、ひたすらカミーユの無事を祈って、ベッドで震えながら祈っていることしかできなかった。


旦那様が腕にカミーユを抱いて戻ってきてくれた時には…安堵のあまりに、気を失った。


でも、それはただの始まりに過ぎなかった。


私達はカミーユに子供部屋を作らなかった。

毎晩、私と旦那様の間にカミーユを寝かせ、旦那様がお仕事でいらっしゃらないときは、私が常に抱いていた。


でも、そんな威嚇している猫みたいな状態は、私も体力的にも精神的にもいつまでもは続けられなかった。


旦那様は学院時代の先輩に相談する、と言い、そしてその来てくださった先輩というのはなんとヴィリエの方だった。


そして…カミーユを色々調べて…妖精の呪いがある、と教えてくださった。


私はどうして、どうして…と毎日のように泣き暮らした。


私に妖精姫などという二つ名がつけられていたせいなのか。

妖精姫という名に恥じぬよう、振る舞いには気を付けていたのに。


伝説とされている妖精だけれども、もしいたとしたら彼らの機嫌を損ねないように、と自分を律するように心がけていた。


だというのに。

やはり、妖精からすると不遜だと思われていたのだろうか…。


私のやつれぶりに、旦那様がヴィリエ氏からの手紙を読ませてくれた。


そこには、呪いと祝福について書かれていて…それらは本来同じものでしかなく、それを受けたものにとっていいことがあれば祝福であり、悪い結果になるなら呪い、なのだ、ということが書かれていた。


そして、恐らく妖精たちは祝福のつもりなのだ、ということも。


とりあえず、妖精たちを怒らせて呪われたわけではないと分かっても、だからと言って喜んだり安心できるわけもなかった。


夜は私達と寝るにしても、日中、常に私達がカミーユに目を光らせていられるとは限らない。


旦那様は侯爵で領主であり、私は侯爵夫人なのだ。


私も体が戻ってからは領主夫人としての公務もあったりして…そうなると、本当に当たり前のようにカミーユは攫われそうになった。


そのうち私は眠れなくなった。


眠っている間に、カミーユがまた攫われてしまうのではないか、と気が気ではなくなったのだ。


そして旦那様がまたヴィリエ氏に相談をして…カミーユのベビーベッドに、ヴィリエ氏が魔法を施してくださって、私か旦那様以外の人物が、カミーユをベビーベッドから出せないようにしてくださった。


そして、私は眠れるようになったのだけど…でもいつまでもベビーベッドで寝ていられる赤ちゃんではいてくれない。


子ども用ベッドで寝るようになると、警報装置のついたクマをヴィリエ氏が贈ってくださった。


そんな風に私はノイローゼ寸前だったのだけど…当のカミーユはおっとりとした子だった。


攫われそうになるとさすがに怖がって大泣きをするのだけど、助け出されて私に抱かれて泣き止むと、けろりとしてしまう。


大人が怖い、という風になることもなく…色々されることが怖いけれど、それをしてくる人を憎む、そういうことのない子だった。


私はこの子は神が遣わした特別な子なのだわ、と思うようになった。


3つしか違わない長男のランドルも、異常な目にあう弟を守らなくては、という意識を持つようになってくれ始め、そしてその頃、ブノアというカミーユを預けても大丈夫な侍従の青年を発見できた。


そして、ブノアと他の者を見比べているうちに、大丈夫なものたちの特徴が掴めてきて…それから数か月で、カミーユの周辺を大丈夫な者たちだけで囲うことができるようになった。


人数はそんなに多くなかったけれど、それでも私は社交に出ることもできるようになった。


事件をなくすことはできなかったけど、それでも私達と本人の努力で、カミーユは未遂はあっても誘拐されることは二度となく、心中を試みられても、害されることなく、育っていった。


旦那様とは魔術学院はどうするのか、と何度も何度も話し合った。


ギリギリになって、ヴィリエ氏が魔道具を開発してくれて、学院の教職員にそれを配布できたことと、寮は特別室が取れる見込みになったことで…学院に通わせることができた。


本当にギリギリまで迷っていたのだけど、今となっては、通わせていなかったらどうなっていただろうか、とゾッとする。


だって、カミーユはその入学式の日に、私たちの義娘となることになるロザリー嬢と出会ったのだから!


カミーユは学院に入ってから、みるみる変わっていった。

なかなか成長期が来ないことも心配ではあったけどそんなことより、内面が大きく変化していた。


長期休みのとき程度しか会えなくなっていたけれど、男の子らしく、ランドルとは違うタイプなりに成長していることがわかってホッとしたものだ。


セリーヌが学院に入ったころには、セリーヌがたまに寄こす手紙のカミーユの姿が、全く想像ができなくて。


夏休みにカミーユに会いに行く口実で、もちろんロザリー嬢のことを見てみたかったのもあるけど、二人が一緒のところを見に、カミーユに与えた別荘まで旦那様を引きずっていったこともあった。


卒業式での花渡しのときの、うれしそうな満面の笑みを見たときは…こんな顔もする子だったのね…と驚愕したことは忘れられない。


そして。

そのロザリー嬢がカミーユの求婚を受け入れた、というのだ。


ついさっき、結婚できるかもしれない、という内容の手紙鳥が来たので、侯爵家の総力を挙げて、ヴィリエの家の方たちが使う古代神殿で、結婚式ができる日を調べ、それを旦那様の既に決まっている公務でダメな日以外を書いて送ったところだったというのに。


追って届いた手紙鳥には、結婚を承諾してもらえた、とあったのだ。


つまり、間違いなく今日、ロザリー嬢はカミーユの求婚を受け入れてくれたのだ。


今日は私にとって記念すべき日になるだろう。


カミーユにとっての唯一を、あの子が無事に手に入れることができた日なのだから。


私はすぐに学院にいるセリーヌにも手紙鳥を出してこの慶事を知らせた。


旦那様の代わりに公務に行ったランドルが帰ってきたら、どんなに驚いて、そして喜ぶことだろうか。


おそらくロザリー嬢は知らないのだろう。


私達家族が…唯一カミーユを普通の少年に、普通の青年にしてくれるロザリー嬢を、カミーユのためにどれほど欲しているのかを。


その日の夜。


我が領地の夜空には、魔術で再現した花火、というものが夜空を彩った。


領民たちは何事かと驚いていたけれど…。

次の年からも、毎年夏の終わりのその日には夜空を彩ることになった花火は、いつの間にか我が領地での名物となり、観光客まで訪れるようになるのだけど。


観光客たちははその花火がどうしてその日に打ちあがるのか、正確な由来は知らないのだった。



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