71求婚
「そういえば、マント以外の装備品はどうしたの?」
マントは僕の体格に合わせて作られているので僕専用だから私物扱いだけど、他の装備は僕にとっては借り物だ。あのロッドの扱いもどうなるのかよくわかっていない。
でも、ロザリーは出発した時の装備のまま帰ってきたのかと思っているらしい。
「ああ、結構穢れをうけてたから、王宮に入る前に魔術師庁に預けてきた。マントは何ともなかったからそのまま、っていうか、誰にも渡せなかったって言うか…」
昨日、僕のマントだけは穢れを受けていないから、とすぐに返されたので着て帰ってきたのだけど、それを渡してきた職員さん含め、その場にいた大勢の生暖かい視線の居心地の悪さと言ったら…。
もし穢れが残っていても、自分たちで浄化しますから、と必死に持ち帰ってきただろう。
この刺繍を見られながら僕のいないところでどんな会話がなされていたか、ダンジョンの中で十分経験済みなので想像がつく。
うん、そうだ。
僕らがこうして微妙な関係だから生暖かい目で見られるんだよね。
ちゃんとロザリーは僕のものだということにしてしまえば、当たり前になるんじゃないか?
夫婦がお互いを心配し合うのは、当たり前だからね。
僕は、帰ったらすぐ求婚した方が良いという先輩たちからの助言も思い出したし、実行することにした。
ご飯を食べていた小さいテーブル越しに、ロザリーの両手を僕の両手で包み込む。
何?っていう顔をしてこっちをみているロザリーに、思い切って言う。
「ねえ、ロザリー結婚して?」
ぽかんとした顔をして、ようやく出た返事は「…は?」だった。
「ダメ?」
「え?」
「僕と結婚してって言ってるんだけど…」
どうにも理解が追いついていないという感じなので、畳みかけてみたけど、だんだん自信がなくなる。
僕の中ではロザリーは『唯一無二』だけど、ロザリーにとって僕は『唯一無二の友人』の可能性がある。
「…僕じゃダメ?」
お願いだからうんと言ってよ、という気持ちを込めて、両手で包み込んだままの手をぎゅっと握りしめると、ロザリーは動揺して視線をウロウロとさせて。
「あ、いや、ダメじゃない…?ん?いや…でも…」
と口走った。
今、ダメじゃない、って言ったよね!!
「ほんと?もう、やっぱりやめた、はきかないよ?いいんだね?」
「え?う…あ、まって、そもそもカミーユの家って高位貴族もいいところじゃない?貴族院の承認ないと婚姻は無理でしょ?だって私、男爵家だし通らないと思うけど」
ようやくまともなことを口にしたと思ったら、その内容は、こちらが困惑するものだった。
「え?逆に何で通らないと思ってるの?ロザリーってヴィリエじゃないか」
「へ?」
「ヴィリエなら、王族にだって嫁げるのに。知らなかったの?」
「えーと?」
嘘だろう!
この国で唯一のヴィリエを名乗れる本家の娘が、自分の血族のことを知らない…???
確認していくと、本当に知らないようだったので、教えてあげた。
いや、でも、なんで知らないんだ?
建国史にヴィリエ出てくるじゃないか!自分の先祖だろ!
呆れが先に立ってしまい、ヴィリエが困った家系であると認識されていることまで教えてしまった。
ヴィリエが公爵でいてくれたら、みんなどれだけ困らずに済むことか…。
へえ、と他人事のように聞いているので、僕も最近になってハーレ伯爵としての行動の中でようやく分かってきた、ヴィリエの娘は、嫁として垂涎の的で、嫁にとれたなら資金援助くらい、なんてことないんだということまで教えてあげた。
ロザリーとアルセーヌ君の学費を援助した、二人のお姉さんのルイーズさんの旦那さんは、社交界でも鼻高々なのだ。
そこまで教えてやっても、へえ、そうなの、という顔をしている。
うん、これこそがヴィリエなんだろう。
そういうことに誇りをもって、というような考えが出来るなら、男爵にまでならないだろうし、ここまでお金に困窮もしないだろう。
そもそもの、国譲りもしないに違いない。
ついでだから、番という言葉を使わずに、ヴィリエの番のことも教えてあげたら、やっぱり知らなかったようだ。
ほんとなの?と目をすがめているけど、まあ、これは僕も所長に聞くまで知らないことだったし。
でもなあ。
自分たち一族のことなのにな…。
ご両親はこういう話を一切しないんだろうか…。
「なるほど、それでセクシー美女なお姉さまをめぐる恋のさや当てが大変なことになっていたのね」
ぽつり、と呟いたのを聞いて、ついでにアルセーヌ君も実はひっそりとモテていたことを教えてやると、びっくりしていた。
ロザリーもすごくモテていたことは、教えてやらない。
だってあれだけ苦労して僕が蹴散らしていたんだから。
「だってさ、アルセーヌ君が昼休みに女の子に追い回されて中庭を顔色悪くして逃げてたとき、ロザリーは図書室で僕と魔術書読んでたじゃないか。多分ね、君が知らないことはこの世にたくさんあると思うよ」
ロザリーは生きるか死ぬか。興味があることかどうか。
かなりはっきりしているので、本当に知らないことは多そうだ。
それに、さっきのキスの時の様子から言ってもこういうことは全く知らないだろうな…。
思わずニヤリとしてしまう。
全部僕が教えるから。
「知らなくていいことは知らないまま一生を終わりたいと思います!今のままで十分です!」
慌てたように言うロザリーに、これだけは言っておこうかと思いつく。
「んー、でも、今、一つだけ教えていい?」
「なに?」
「あのマント、すっごくからかわれた。でも、お陰で生きて帰れた。ありがとう」
感謝の気持ちを込めて、握ったままだった手の甲に、キスを落とす。
ロザリーは真っ赤になっていた。
ご飯の後、片付けはロザリーがしてくれるというので、そこはお言葉に甘え、親に顔を見せに帰るべきじゃないのかというロザリーの言葉に、そうだった、と気が付いた。
ロザリーのことしか考えていなかったから、ブノアとフレデリクに無事に帰ってきたことを伝えるのを忘れていた。
実家は、フレデリクからもしかしたら知らせがいっているかもしれないけど、基本的に極秘任務だったし、知らせていない可能性の方が高い。
だから、顔を見せに行く必要もない。
急いで、ブノアとフレデリクに、極秘任務が終了して、無事に帰ってきたこと、落ち着いたらタウンハウスに行くことをしたため、手紙鳥にして飛ばす。
実家にも、近いうちにロザリーと結婚できるかも、という内容で飛ばす。
手紙鳥を飛ばし終えると、ロザリーも食器を片付け終えていたので…とりあえず家事をすることにした。




