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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
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70キス


短時間しか眠らない生活をずっと続けてきたせいか、早めな時間に目が覚めた。


昨日、魔術師庁で夕方にお腹いっぱいに暖かい料理を食べてから、何も食べていない。


お腹がすいた。


無意識に脇腹に手をやって食べ物を取り出そうとして、マジックバッグがないことに気が付いて、苦笑する。

そうだ、もうダンジョンじゃないんだった。


今日は休日だし、朝市があるはずだということを思い出した。


昨日までの自分とのギャップに、平和だなあ、と思いながら簡単な服に着替えると、朝市で買い物をした。


どう見ても、家に食べるものはなさそうだったから。


昼か夜にはちゃんと作ってもいいけど、とりあえずは早く何か食べたい、と、行きつけの持ち帰りもやっている食堂に食事を注文して、配達も頼むと、朝市で買ったものをとりあえず持ち帰った。


玄関をあけたとたん、「カミーユ、どうしてマントだけ家に帰ってきてるの?あなたは一体どこにいるのよ」というロザリーの声が聞こえたので、僕に話しかけられたのかと思って返事をした。


「え?僕が帰ってきたからマントもあるだけだけど?」


「ほえ?」

ロザリーは真ん丸な目をして、僕と目が合うと、変な声を出した。


そして、その直後、ロザリーのお腹がぐう、と鳴った。

僕同様にお腹がすいているらしい。


どうみても痩せたし、顔色も悪いし、目の下はクマだし、食べることをおろそかにしたに違いない。


「っていうか、本物?」


ぱちぱちと目を瞬かせているので、僕は朝市で買ったものをキッチンに置くと、ソファーに座っているロザリーの隣に座った。


ようやく起きているロザリーに会えた。


僕は嬉しくて、ぎゅっと抱きしめた。

ロザリーは僕が本物か確かめようとでもいうのか、髪を摘まんだりほっぺを引っ張ったりしてたけど。


「うん、ただいま」


そう言って、こっそりと抱きしめているロザリーの匂いをかいだ。

ああ落ち着く。


僕の腕の中で、「お帰り」とくぐもった声で言ったロザリーは、ぎゅうっと抱き返してくれて、その直後に、声を上げて泣き始めた。


…まさか、泣くとは思わなかった…。


「うーん、なんか思ってたのと違う…」


生きて帰ってきたのだし、もっと軽い感じになるのかと想像していたのに、わあわあ泣いている。


「こんなに泣き虫だったっけ?」


よしよし、となだめるように頭を撫でてやっても泣き止まないし、シャツの胸元が涙で濡れてきたので、僕はハンカチで顔を拭いてやった。


ロザリーは僕に大人しく顔を拭かれた後、そのハンカチを奪い取って、思い切り鼻をかんだ。

あれだけ泣けば鼻水も出るよね。


まだぽろぽろと涙をこぼし、ときどきひくっとしゃくりあげながらも、少しだけ落ち着いたのか、僕の顔を見上げて目を見つめてきた。


鼻の頭と目の周りを赤くして、うるうると僕を見上げるロザリーなんて、初めて見た。


ああ、ダメだ。なんだこれ、可愛い。


ずっと離れていて僕はロザリー欠乏症を発症しているんだ。

ロザリーを摂取しないとね。


頭を撫でていた手で、後頭部を逃げられないように支えると、僕はロザリーのぽてっとおいしそうな唇にキスをした。

もちろん、僕にとっての初めてのキス。


「へ?」


僕がこんなことするなんて、初めてだし、ロザリーはまた目を真ん丸にしている。


「泣きすぎ。しょっぱくなってる」


僕はロザリーが呆然としている隙に、もう一度キスをした。


とてもじゃないけど、一度じゃ足りない。

涙でしょっぱくなってる唇をぺろりと舐めてやると、口を開けたので、舌をねじ込んだ。


僕もキスは初めてだけど、ロザリーも初めてのはず。

僕がいない間に誰かにとられていなければ、だけど。


でも、僕が舌を舐めてやったりすると、ハフハフしているし、キスの時の息の仕方も分かってないようだから、多分誰にもとられてない。

良かった。


ロザリーは匂いが甘いだけじゃなくて、味まで甘い気がする。

ロザリーの魔力を含んだ唾液を飲み込むと、酔ったみたいにくらくらする。


キスに夢中になってしまったけど、息苦しそうにしてるので、離れてやった。

すると、真っ赤な顔をして、くたり、と体をもたれかけさせてきた。


わあ、なんだろう、すごく可愛いんだけど…。

ロザリーは元々可愛いけど、こんな風に可愛いと思ったのは初めてかもしれない。もっと見たい。


ロザリーがこうして慣れない様子を見せてくれると、僕も初めてだけど、少し主導権を握っているという感じがする。

間違いなく誰にもとられてなかったと分かって、そしてこうして何でも僕が貰っていくからね、と考えただけで嬉しくなって、ちょっとだけ笑ってしまった。


落ち着いてきたロザリーが、何するのよ?という表情でキッと見上げてきたので、涙が止まったじゃないか、と瞼や目じりにキスをしてやった。


ああ、本当に可愛い。食べちゃいたい。

でもこれ以上は我慢しないと。


結婚するまでは手を出さない誓約もしてるし。


そのとき、玄関の呼び鈴がなったので、ああ、食事の配達かと受け取りに出た。


「食べ物が全然なかったから、市場にさっき行ってきたんだけど、注文しといたんだ、できあがったら届けてね、って」


何が届いたの?と首を傾げているロザリーに教えてやると、籠の中から漂う美味しそうな匂いに、またお腹をぐう、と鳴らしているので、抱きかかえて椅子に座らせてやった。


久しぶりのロザリーを堪能したいけど、僕らは二人ともお腹がすきすぎている。


幾つかを皿に取り分けておくようにお願いして、僕はコーヒーを淹れた。

コーヒーはダンジョンの中で一度も飲まなかったから久しぶりだ。


軽食ではあったけど、肉の挟まったパンやコーヒーなんかを食べてお腹が落ち着いたところで、ロザリーが知りたいであろうことをいろいろと教えてあげた。


だって僕達は行方不明になっていたことになっていて、それを聞いたロザリーが体調不良になって、ずっと医務室にいたというんだから。


ふんふん、と熱心に聞いていたり、目を丸くしたり、ジト目で睨んできたり、何か考えていたり、いろんな顔をしながら聞いていたロザリーは、最後に暗殺者集団も弱体化しているはずだから、近いうちに一網打尽にできそうだというホスキンさん達の予想を伝えてあげると「はー、良かったね、頑張った甲斐があったね」とテーブル越しに身を乗り出して、僕の頭を撫でてきた。


さっき不意打ちであんなことをしたから、内心機嫌を損ねたかとひやひやしていたけど、ご飯を食べたらもう忘れたのか、それとも全く気にしていないのか…。


どっちかわからないけど、どうやら僕とキスをすることは、ロザリーの中でダメなことではなかったようだと結論付ける。


嫌だったなら、こうして撫でてきたりしないだろう。


これはみんなの言う通りだと信じていいのかもしれない。

僕らが番だってこと。


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