64ダンジョン攻略~灼熱地獄
「ここのダンジョンを考えたのが誰か知らんが…根性悪だよな」
「アラン、やめなよー、ダンジョンの神が聞いてて怒るかもしれないじゃないー」
リュシーさんはどうやら信心深いようだ。
でも、僕も内心、アランさんに同意する。
今、僕らは25階層にいる。
23階層にボスが出て驚いたのに、24階層もボスがいて、そして、どう考えてもこの25階層にもいるとしか思えなかった。
23階層は、真っ暗で魔力無効。
24階層は、胸の辺りまで水に浸かった状態で、魔物はもちろん水生生物っぽいやつ。
体温が奪われていくし、まるまる三日水に浸かり続けたら、体調を崩しそうになった。
結界を6人分、三日間張り続けるのはちょっと難しかったのだ。
水牢っていう責め苦があるのをどこかで聞いたことあるけど、確かにこれはひどい拷問だな、と痛感した。
ロザリーが刺してくれた濡れない陣は、その階層の初日で効力が切れてしまっていた。
24階層のボス部屋にようやくついたときには、ボス戦のために温存していた魔力を使って、ボス部屋の水を全部集めて結界で包み、天井側で凍らせてやった。
もちろんボスも水生生物タイプだったので、床の上でびちびちはねることしかできなくなって。
そこからみんなで水責めの間のイライラをぶつけるように袋叩きにした。
リュシーさん曰く、僕みたいな結界の達人がいると、ダンジョン攻略の常識が変わってしまう、とのことだった。
まあ、確かに広間全部の水を集めて凍らせるのを一瞬でできるのなんて、あとは所長かジョルジュ先輩かロザリーくらいしか僕も知らない。
現れたときの素早い動きからして、普通なら僕らが水の中で緩慢な動きしかできない中を、泳ぎ回って攻撃されるのだったはずだ。
なんか明らかに触ったら毒をくらいそうな、ひれとか触手とかあったし。
そう考えたら、20階層のときも、結界で混乱にかからないようにしたし。
ずるをしているように見えなくもない…?
23階層と24階層の間の階段でも、23階層攻略中はほとんど休憩をとらなかったので、丸一日かけて休養したし、24階層の水責めのあとも、水責めでおかしくなりかけた体調を戻すのにまた一日かけた。
24階層では攻略に三日もかかったので、もちろん合間に休憩は取っていて、そのときはマルセルさんと僕とで交代で泡みたいな結界を作って休んではいたけど…とにかく疲れたのだ。
そして、今いる25階層。
ここはなんと灼熱地獄というやつだった。
極寒がちょっと前にあったけど、その逆だ。
ここは、何の前触れもなく、床や壁や天井からいきなり炎が噴き出す。
炎が噴き出した後の壁をじっくり見ても、そこに穴とか隙間とかがあるわけでなく、なので、本当にどこから噴き出すか予測がつかなかった。
24階層は、あっちやこっちにいろんな形のボタンがあって、それを、ヒントをもとに正しい順番に押して回るとボス部屋に入れた造りだった。
だからなおさら時間がかかったのだけど、この階層はまだどうすればいいのかも分かっていない。
なのに、あまりの熱さに身動きもとれずにいた。
熱を凌ぐための結界を張り、その中でどうするかを検討している。
とりあえず僕は皆さんのマントに、ロザリーが刺してくれた熱さ対策の陣を念写した。
念写なので、噴き出た炎の直撃を数度喰らったらだめになる程度だけど、熱い中を歩いているだけならしばらくはもつはずだ。
「カミーユのこの陣もそう何度もやってもらう訳にはいかない。今も相当消耗しただろう?」
「そうですね、かなり…」
結局、リュシーさんとマルセルさんの二人が、戦闘を避けつつこの周囲のマッピングと、この階層の熱さ以外の特徴を見てくることになった。
僕が水筒の中身をガチガチに凍らせてあげたけど…マジックバッグから出したらすぐに溶けてしまいそうだ。
残った僕らは、体力の温存に努める。
僕は魔力回復のために、ひたすら食べている。
結界の真下の床から炎が噴き出すこともあって、そうすると結界に沿って炎に包まれるので…気分は良くない。
「すごいよねーこんなに炎に包まれてても、暑くもないんだもん。でも、普通の冒険者には真似のできないことだからなあ。私もヴィリエの本家に一番近いけど、こんなのできないよ」
「え?でも、蘇生の術使えるじゃないですか」
「あー。これ大失敗だよねーギー?カミーユ君だったら蘇生術使えたと思わない?神殿に念のためでも行っとけばよかったよね。あ、蘇生術って、とある神殿でみそぎをして、『神様、蘇生術教えてください』って祈って、神様が認めたら…蘇生術が使えるようになるの。で、何故か蘇生術って私からカミーユ君に教える、みたいなことが出来ないのよねー」
神様って本当にいるんだ、ってのが、ますます実感してくるな…。
そして、オルガさんが僕に教えようとしてくれなかった理由もわかった。
実は一度教えてほしいと頼んで、無理!の一言で断られていたのだ。
「ああ、確かに使えただろうな。あのときはまさかマルセルとオルガを上回っているとは思わなかったからなぁ」
「ほんとよねー。でもま、ヴィリエ本家のロザリーちゃんの旦那さんだもん、普通なわけなかったんだよね。そのこと知ったのも出発直前だったしなぁ」
「ええと…旦那さんではないというか…」
僕はもぐもぐの合間に一応は訂正をしておく。
「いいのよ、まだ、なだけでしょー。ここから出たら、すぐに求婚した方がいいよー」
「きゅっ…」
求婚?と言おうとしてむせた。
「あらーうぶねーそんなに動揺しなくても。いや、あのにぶちんのロザリーちゃんでも、これだけ長い間カミーユ君と離れていたら、さすがにカミーユ君が番だってことに気が付いてると思うの。私も早くテランスに会いたくて仕方ないもの」
「ああ、ヴィリエは一途だからなぁ」
「アランは少しヴィリエの爪の垢を煎じて飲むといいと思うわ」
「んーまあそのうちにはね…」
アランさんみたいに強くてカッコよければ、モテモテだろう。
「カミーユ、お前、アランはモテるんだろうなって顔してるけど…お前の方がよっぽどモテそうなんだからな、分かってるのか?」
ギーさんにそんなことを言われても…。
「あー、その、怖い思いしかしてこなくて、モテるという感覚が分からないんです…僕生後五日目が人生初の誘拐で、その後何度誘拐されたり、誘拐未遂になったか分からないし、心中しようとされたこともあるし…」
「…こわっ」
「そういや、魔性の子って噂されてたっけか…あ、すまん、気を悪くしたか」
「いえいえ。昔、まだ子供だった頃に、ロザリーに『魔性の子ってかっこいい!魔術の申し子みたいなことでしょ』って言われたことがありまして。それまでは気になっていたのに、それからは魔術の申し子だからな、って思えるようになって、噂も気にならなくなったんです」
「おおおおーのろけ?のろけなの?」
「違いますよ!」
僕は膨れて干し肉をかじった。




