表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
88/101

63ダンジョン攻略~破れ鍋に綴じ蓋


「はあ、はあ…」


僕は滴り落ちる汗を手の甲で拭って、それから「僕はここです」と声を上げた。


この階層は久しぶりの魔力無効だ。

さらに、面倒くさいことに、暗闇でもある。


ライトの魔法すら使うことが出来ないし、怪我をしても回復魔法が使えない、休憩の時の結界を張ることもできない。

そして、マジックバッグに魔力も流せないので食料の補充ができない。


既に一度魔力無効の階層はあったのだけど、そのときは暗闇ではなかったのでもう少し楽だった。


念のためにそれぞれがたいまつや回復薬を持っているので、それで対応しているのだけど。


たいまつの灯りの届く範囲は狭いので、気が付いたときには魔物が近くにいることが多く、さらに僕は物理的な戦闘に不慣れなために、戦闘中にうっかりトラップを発動させてしまうことも多い。


この階層では、床の敷石が平らではなく、微妙な凹凸がある。その出っ張っている石を踏んでしまうと、いかにも何かのスイッチを踏んだという感触があり、天井から鋭利なものが降ってくる。


踏んだ、と思ってすぐに飛びのけば避けられるのだけど、飛びのいた先でまた罠のスイッチを踏んでしまうことも多い。


アランさんやギーさんが近くにいて、戦闘中でもないときは、降ってきたものを剣や斧で弾き飛ばしてくれることもあるのだけど、基本的には自分の身を自分で守らないといけない。


で…今も、魔物の群れに遭遇して戦闘中、僕はたいまつを取り落とし、さらに罠のスイッチを踏んでしまって、飛びのいた先で転んでしまい、転んだところにも罠のスイッチがあって、降ってきたものをぎりぎりで転がって避け、何とか立ち上がってみたら、どうやら戦闘は終わっていたらしく、他のメンバーのたいまつの灯りが思ったより遠くて焦った、という状況だ。


僕の声に気が付いたリュシーさんが、僕のたいまつを拾って僕のところまで迎えに来てくれた。


「焦って追いかけてこないところが、偉いぞ!」


よしよし、と褒められても複雑な気持ちだ。


やはり、力の劣る僕のために、戻ってきてもらうなどというのは少々気が引けてはいるのだ。

でも、真っ暗な中で、罠のスイッチだらけの道を歩いていく勇気なんてなかった。


「ほんとにカミーユ君は冒険者の素質ばっちりなんだけどなあ、領主にしとくの勿体ないよ」


「はあ…そうですかね…領主に向いてるのかすらも分かってないですし、普段は研究所の所員だと思ってますしね」


「そこなんだよねー。オルガやマルセルがどうしてカミーユ君は魔術師の塔に来なかったんだって歯噛みしてたよ」


「ああ、研究所にした理由は話すと長いんですけどね。でもやっぱり研究所が性に合ってたような気がします」


皆に追いついたところで、その場で小休憩になった。


結界が張れないので、ゆっくり眠ったりはできないから、こういう階層は一気に抜けることを最優先にするのだ。

幸いにして、前回の魔力無効の階層は、他の階層よりも狭かった。


「前回の魔力無効に比べると…どうも広いんだよな」


マルセルさんがマッピング中のマップを広げて見せてくれた。だいぶ進んだ感覚だったのに、まだ三分の一くらいが空白になっているように見える。


「私達魔術師にはこのありとあらゆるところから魔力を打ち消す感じがもう息苦しくてたまんない。早く次の階層に行きたいよー」


オルガさんが口を尖らせている。

僕達魔術師三人は、この階層ではあまり役に立てないし、僕に至っては戦闘経験が少なすぎてはっきりと足手まといだ。


「ボスのいる階層だったらボスを倒せば次にいけるけどな…ベタに全部の魔物を倒しきるのが条件なのか、なにか見落としてる仕掛けを発動させると進めるのか…」


ギーさんも、首を傾げている。


「でも、何かの仕掛けという場所や物もなかったですよね」


仕掛けがあるときは、祭壇のようなものがあったり、明らかに何かを埋め込むくぼみが壁にあったりなどと、分かりやすい。いくら暗闇だといえ、六人全員が見落とすとは考えにくかった。


「ここの魔物はちょっと強いから、全部倒しきる、じゃないかな?」


アランさんの意見に、僕もきっとそうに違いない、と頷いて同意する。


「まあ、もう少し進んでみるしかないな…。カミーユ、お前はもう少し食っとけ」


休憩の時に何かを食べたり飲んだりするのはお約束なので、僕もそれなりに食べたつもりだったのだけど、ギーさんから見ると足りなかったらしい。


僕は、干し果物と水を更に口にした。



「嘘でしょう?だってここ23階層じゃなかった?」


後ろで地響きを立てながら扉が閉まっていくのを見て、リュシーさんが唖然としている。

なんと、足を踏み入れたここは、ボス部屋だった。


「くそ、回復薬飲んどけ!」


階層の魔物を全て駆逐すればいいのではと思っていた僕らは、ボス部屋に入る前には回復をしておく、の基本が出来ていなかった。


それに、ただの通路が続いているように見せかけて、足を踏み入れてみたらのボス部屋だったのだ。


僕らは急いで回復薬を飲んだ。疲労がたまっていて手足が重い感じがしていたのが軽くなり、さっきの戦闘で受けた切り傷が治った。


「出たぞ!」


現れた魔物は、人のような姿をしていて、かっちりとした甲冑に身を包み、角の生えた兜をかぶり、目のところが赤く光っている。

そして、巨大な剣と盾を持っていて…そして腕が四本あった。


僕らは、持っていたたいまつを床に置くと…戦闘開始だ。


ここは、ギーさんとアランさんにとにかく頑張ってもらうしかない。


ボス敵の目が光っているので、どこにいるのかは分かるけど、あちこちの床に置かれたたいまつのおぼろな光では、四本ある腕の攻撃の軌跡が分かりづらい。


リュシーさんはシーフだけあって、暗闇でも僕らより見えるらしく、素早く後ろに回って切り付けたりしている。


僕は大人しく、邪魔にならないように、攻撃を受けないように、気を付けていた。


それでもたまには素早い動きで近寄られて、切りつけられてしまう。


盾とか持ってないし結界も張れないので、ひたすら逃げるしかないのに、何度かやられてしまって、回復薬を飲む羽目になった。


でも。


ロザリーが刺してくれた陣があったおかげで、肌表面を切られた程度で済んだ。おそらくその陣が無かったら、骨まで切られていただろう。


僕らがやられていないときには、いつもなら回復魔法をかけるようなタイミングで、回復薬をギーさんにかける。

外傷のときは、傷に直接かけることでも効果はあるのだ。飲む方が良く効くけど。


回復薬は、定期的にマジックバッグに補充される割に、使うことがなかったお陰で、潤沢にあった。


オルガさんと僕の回復魔法の効果はほぼ一緒だったし、回復役が二人もいれば、薬の出番はなかったのだ。


「頼むーお願いー蘇生薬の出番はなしで頼むわよー」


オルガさんがブツブツ言いながら、アランさんに回復薬をぶつけている。


え…。


僕はギリギリまで近寄って振りかけるようにしてたけど…。

アランさんの兜に当たって割れてるけど、あれでいいの…?瓶の破片とか危なくない?


ここのボスは、前半の戦いでは誰を狙っているという感じがしなかったけど、途中から明らかにギーさんだけを狙い始めたので、前半の間で一番ダメージを与えた相手を、後半は狙うようになるというタイプだったようだ。


お陰で、後半は僕ら魔術師組はひたすら「ギーさん死なないでー」と回復薬をじゃぶじゃぶとかけ、アランさんが華麗な剣技で、リュシーさんはトリッキーな攻撃で…無事に倒すことが出来たのだった。


「オルガ、君は相変わらず雑なんだよな!」


戦闘終了するなり、アランさんが兜と鎧をとり、兜と鎧の隙間とかに溜まったガラスのかけらを落としはじめた。


やっぱりアランさんからオルガさんにクレームが入った。

そりゃそうだよね!


「だってー。近寄って私がやられちゃったら困るでしょ?」

「テランスのヤツ、なんでこんなガサツ女が良かったんだろ」


う…。


なんか僕のことじゃないはずなんだけど、なんか僕のことを言われたような気になってしまう。


多分テランスさんってオルガさんの旦那さんなんだろう。


ロザリーとオルガさん、従妹同士で意外と大雑把な性格とか似てる気がする…。


ガサツ女のどこがいいのか?


…どこがいい…?


…ロザリーは確かにガサツで大雑把で、基準が生きるか死ぬかで、あとは寝てるか食べてるか魔術のことしか頭にないけど…。


ん?なんかますます…どこがいいって言われたら……。


僕が考えこんでいると、オルガさんが胸を張ってアランさんに答えた。


「私とテランスは、破れ鍋に閉じ蓋よ!」


どんな人にもふさわしい相手はいるもんだ、という意味のオルガさんの発言に、今度は、僕はロザリーにふさわしいんだろうか?と考え込んでしまった。


でも、一応『番』じゃないかと周囲から思われているようだし…少なくとも周りから見て、相応しくないとは思われていない、と思っていいのかな?


そうだよ、相応しいかわからない、とか、どこがいいのかうまく言えない、とかでも、僕にはロザリーしか考えられないんだから、それでいいじゃないか。


あー…久しぶりにロザリーに会いたい病を発症しそうだ。

早く帰って、ロザリーを抱きしめて眠りたい…。

あの甘い匂いと、あのホンワカする魔力に包まれたい…。


僕が眉間にしわを寄せて口をへの字にしてそんなことを考えていたら、皆さんはさっさと魔物から魔石を取り出していた。


「何難しい顔してんの?ほら、宝箱開けて!」

リュシーさんに言われて、考え事をしてしまっていた僕は慌てて箱を開けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ