61ダンジョン攻略~死んだ?
今度は魔法をかけながら落ちたわけではなかったので、ちゃんと足から着地して、転がって勢いを殺すこともできたし、耐物理の結界のお陰でどこも痛くも無かった。
砂時計がこちら側で浮かび上がってきたと同時に、砂時計の少し上あたりに紫がかった黒っぽいもやもやしたものが現れた。
砂時計がはっきりとして、砂が落ち始めたとき、そのもやの中心に赤い線が現れ、そこがぱっくりと開くと、巨大な目が現れ、僕らを順に睨みつけて行った。
僕は圧は感じたものの、異変は感じなかったので、他のみんなはどうか、と見て見れば、皆も平然としている。
どうやらさっきかけた術は効いたようだ。
悪霊は誰にもとり憑くことが出来ず、そこにとどまっているようだったので、オルガさんが強力な聖魔法の攻撃と浄化をかけてくれて、消滅した。
「ふう。これで、また上に落ちたあとは、今度は悪霊王、だっけ?」
僕はもう一度砂時計に近寄って、書かれていた文字を確認する。
既に起こったところに関しては文字の色が変わっていて、最初に気が付かなくても途中からでも気が付けるようになっていたようだ。
トラップに関してのヒントが必ずあることといい、こういうところは、創造神とダンジョンを司る神とのせめぎあいなのかな、と思ったりする。
特に読み落としたことも無かったようで、安心していると、魔力のないギーさんとアランさんがなにやらガサゴソしている。
「悪霊王との戦いとなると…オルガに活躍してもらうことになるけど、魔力残量大丈夫?」
「大丈夫よ。いざとなったらとっておきの魔力回復薬つかうから。アランは、聖なる剣ちゃんと持ってるんでしょうね」
「ああ、ちゃんと変えたよ」
「俺は、短剣になっちまうから、攻撃力は期待しないでくれ…」
「ああ、ギーはもしかしたら悪霊王がザコを引き連れて出てくるかもしれないから、そのときはそっちを頼むよ」
どうやら、悪霊には物理攻撃は効かないので、装備を変えたようだ。
それより。
「魔力回復薬なんてあるんですか?」
研究所では使っているのを聞いたことも見たことも無い。
ひたすら食べて回復してきただけだ。
そんなものがあるのなら、ぜひ使いたいじゃないか。
「あー、これ、今、魔術師の塔で研究中なの。だから試作品。魔力回復は確実になされるんだけど、副作用があるから、まだ実用段階ではないのよね。でも蘇生の術とか、どうしても急いで魔力ほしいときってあるじゃない?そういうとき用に持っているのよ」
「副作用、ですか」
「そう。一気に魔力が回復するのはいいんだけど、そのあと、数時間から下手したら丸一日、一切の魔力の自然回復が無くなってしまうの。魔力回復薬は、今のところ時間とともに回復する魔力を先食いしている、とも言えるわね。だから、このアプローチじゃない方向からの魔力回復薬の研究もなされてるんだけど…。それから、その魔力の自然回復をしない間中、かなり強い吐き気がするの。つわりの時よりひどいのよねー。だから、本当にいざというときにしか使わない方がいいってわけ」
「なるほど…」
それは、実用化には確かにもう少しかかりそうだ。
そんな話をしている間に、また砂が落ち切った。
今のところ、僕の結界術のお陰で大した戦闘になることも無かった。
もしかしたら楽な階層なのかも、なんて思ってしまった僕は…甘かった。
また天井に向かって落ち、悪霊が湧いたときのように、砂時計と、もやもやがでてきた。
さっきとは比べ物にならない大量のもやもやはやがて集まり、手にロッドを持ち、ローブを身に着け頭には王冠を被った骸骨の姿になった。
「これが悪霊王…て、これってリッチって言われてるやつじゃないの?!」
「いや、リッチはアンデッドだ。ヤツは一応実体があるから、これは違う!」
皆がそれぞれ戦闘態勢に入る。
魔術師の塔の二人組によって、リッチっぽいけどそうじゃないってことが分かった。
っていうか、僕の知識ではそもそもリッチも知らなかったけど…。
学院生時代にロザリーと愛読した魔物辞典は、ダンジョンに出る魔物までは網羅していなかったようだ。
きっと現役の冒険者向けに、ダンジョンに出る魔物の本もありそうだから、今度のロザリーの誕生日用に探してみようか…。
考え事ができたのは、そこまでだった。
その悪霊王は、何故か近くにいたわけでもない僕に、攻撃をしてきたのだ。
「うわ!」
耐魔法の結界はそれで壊れてしまった。
どうやら実体がないので魔法攻撃しかしてこないらしい。
たまたまなのか、と思ったら…まるでこの場には僕しかいないかのように、執拗に僕に攻撃をしてくる。
たまに全体攻撃をしてくる程度だ。
これは…いつもギーさんが担ってくれている役目を僕がしているってことじゃないか?
「一番魔力量が多いやつ、もしくは、ここで一番魔力を使ったやつが選ばれちまうらしいな」
魔法攻撃をかわすための耐魔法結界は、結構魔力を消費してしまう。
そして、悪霊王の魔法攻撃の前では一撃で壊れてしまう。
これではいくら魔力があっても足りない!
物理攻撃と違って、避けることも滅多にできないので、僕はみるみる、これはまずい…と自分でも思う状態に陥ってしまった。
「オルガさん、あとはお願いします!」
僕はそう叫ぶと、半分やけになって自分の身を守らずに、聖なる結界のさらに強力なやつ、俗に聖なる檻と呼ばれるものを悪霊王に向かって放ってやった。
うまく行けば、檻の中に囚われたように、しばらく身動きが取れなくなるはず。
その間に、詠唱に時間のかかる浄化魔法でも…。
そう思ったところで全身に激痛がはしり、意識が途絶えた。
悪霊王が放った、生命力を直接削ってくる暗黒魔法の直撃を喰らってしまったのだった。
ぱち。
目を開けると、皆が取り囲んで僕を覗き込んでいた。
あ。この感じは…。
「僕、死んじゃってました?」
オルガさんが頷いて、僕の頭を撫でてきた。
「ロザリーちゃんに合わせる顔が無くなるから、無理しないでね」
皆が教えてくれたところによると、僕の聖なる檻は見事に悪霊王を捕らえ、マルセルさんの攻撃力倍増の補助魔法を受けたアランさんやギーさんの攻撃とオルガさんの浄化魔法のコンボで、無事に倒せたのだとか。
で、暗黒魔法をくらって倒れた僕の所に来てみたら、気を失ってるのではなくて死んでた、ということらしい。
「それにしても…20階層の中ボスでこれとは…。カミーユ君がいなかったら、最初の同士討ちでリュシーは死んでただろうし、次の悪霊にギーがとり憑かれた時点で全滅してただろう。…万が一誰かが生き残れていたとしても、ギーの攻撃を避けつつ悪霊王なんて倒せやしないだろう?そして最後には悪霊王にギーもやられてしまうという訳だ。本当に危なかった」
アランさんの言葉に、皆が沈痛な面持ちで頷く。
「カミーユ君の強運があのヒントをすぐに見つけ出して、さらに間に合う時間内で解読できたから、どうにかなっただけよね。さらに、あんなに短時間で私達全員に結界を張るのも、私達だけじゃ無理だったわ」
オルガさんに言われて、そういえば僕はダンジョンで運がすごくいいんだったのを思い出した。
このダンジョンでは宝箱はボスを倒した時にしか出ないので、すっかり忘れていた。
「ようやく僕が参加している意義があったみたいで良かったです」
「何言ってるのよ!今までのトラップのヒントをどれだけ読んでもらって命拾いしてきたことか!それに、あの違う階層に皆が散り散りに飛ばされそうになったのを防いでくれたのもどれだけお手柄だったと思ってるの?!自分を過小評価しないで」
リュシーさんに叱られてしまった。




