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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
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59ダンジョン攻略~ロザリーの愛


僕の結界術が強力で、ダンジョン内でも有効なことが分かってから、休憩の時に僕が結界を張って、その中で全員が休むことが出来るようになっている。


アランさんの手首の骨折とギーさんの傷を治したついでに、僕らはそのまま休憩に入っていた。


「この階層も、そろそろ終わりに近いと思うんだよな」


マッピングをしてくれていたマルセルさんが描いたこの階層のマップを見せてくれた。

確かに、空白の所がわずかになっている。


「ここ、20階層だよね?こういうキリのいい階層って、かなり手強いでかいボスが出がちだよね…」


オルガさんが、僕が治したアランさんの手を念のために見ながら呟いた。


「ここで、軽く睡眠とってから進むか、もう少し行くか…」


ギーさんが思案顔で言うと、リュシーさんが「カミーユ君が張ってくれた結界が勿体ないからここでがっつり休んでいこうよ」と提案してくれた。


そんなにひどく消耗するようなものではないけれど、確かに短時間で何度もかけていればその後の強敵との戦闘中に魔力切れにならないとも限らない。


「そうだな、僕もここでしっかり休んでからがいいと思うよ」


アランさんが手首を軽く回して、何ともないことをオルガさんにアピールしながら賛成した。


僕はこういう時はダンジョンでの経験が少ないので、皆さんに従うようにはしているけど、確かに今までよりも戦闘以外で頻繁に魔力を使いがちで、休憩した方が良さそうに感じていた。


「あの、できれば休みたいです…」


僕がそう口にすれば、即、皆が毛布を鞄から引っ張り出したりし始めた。


「カミーユ、お前はいつも以上に食べないとダメだ。これも食べるといい」


マルセルさんが自分の鞄に入っていた燻製肉を、僕が取り出した料理の皿に載せた。


「私のこれもあげるー」

「私も」

オルガさんとリュシーさんも肉やらパンやらをくれた。


「じゃ俺はこれだ」

「僕はこれにする」

ギーさんとアランさんまで肉や干し果物をくれたので、僕の皿はてんこ盛りになってしまった。


「ええと…」


「カミーユは魔力量の割に食べなさすぎだからな。それ全部食べ終わって、少し眠ってから再出発だからな」

「はあ…」


ブノア、ロザリーに続いて、ここでも食べなさすぎ、と言われてしまった。


これでも普通の成人男性よりはたくさん食べているんだけどな…。


マジックバッグに補給される食糧は大体毎日同じ量なので、オルガさん、マルセルさん、僕の三人の魔術師で誰かが特に食べなくては、のときにはこうして融通し合うのだ。


僕が一生懸命にもぐもぐしている間に、みんなはあっという間に食べ終わっている。

彼らの食べる量が僕より少ない訳でなく、ただ早食いなのだ。


一生懸命に食べていたら、魔物が寄って来て、でも結界に阻まれてじたばたしている。


それを眺めながら、もぐもぐしていたら、アランさんとマルセルさんが「目障りだな、安眠妨害になりそうだ」と一歩だけ結界から出ると、雷撃と剣の一閃で片付けて、僕の近くに戻ってきた。


僕が今張った結界は、魔物が入ってこられないようにしただけだから、僕らは出入り自由だった。


「これでよし」

そういってアランさんはマジックバッグを枕にしてマントと毛布を体に巻き付けると、僕が干し果物を口に入れて、それを噛んでいる間に眠ってしまった。


僕が涙目で何とか全部食べ終えたときには、みんな寝てしまっていて、僕もアランさんのようにマントと毛布を巻き付けて横になった。

ロザリーが安眠の陣を刺繍したハンカチを握りしめて。


ふと目覚めると、みんなもう起きていて、アランさんがこだわりのお茶を淹れていた。


今回のように、マジックバッグに食糧が届くので、ダンジョン内で煮炊きしない、というのは珍しいらしく、栄養のためではなく、くつろぐためにお茶を淹れるのだという話だった。


なので、アランさんのマジックバッグには、簡易湯沸かしセットが入っているのだ。


「あ、カミーユ君起きた?はい、お茶」


アランさんのお茶は、アランさんの出身国の名産品で、花の香りがする。


僕が大急ぎで毛布とかを鞄に突っ込んでからお茶を受け取って、お茶を一口飲んだら「そのさー、安眠とか防湿とか防寒とか、まあカミーユ君の嫁は過保護だよねー」とアランさんに言われて思わずむせた。


僕が咳きこんでいると、オルガさんが背中をさすってくれた。


「大丈夫?まあ、ロザリーちゃんも、カミーユ君はダンジョン初挑戦だもん、心配でたまらないに決まってるよ」


「でもさ、お嫁ちゃんもダンジョンに入ったことないのに、よくそんな落下対応の陣なんて思いつくよねー愛だよね、愛」


リュシーさんにそう言われると、ぼぼぼ、と顔が赤くなっていくのが分かる。


「いや、その、ロザリーは嫁ではないというか、まだ、というか…」


「えーでも、社交界ではもう婚約寸前だって噂だったし、出発前にはもう同居してるって言ってなかったっけ?」


オルガさん、噂知ってましたか…。


「ええと…そのー」


僕がしどろもどろになっていると、ギーさんまでが「そういや、出発前にダンナではないってすっぱり切り捨てられていたな」と参加してきた。


「ああ、ロザリーちゃんはそういうの鈍感だから」


オルガさんの口調にあれ?と思っていると、僕の表情に気が付いたのか、「私ロザリーちゃんとは従姉妹にあたるのよ。私もヴィリエの黒髪と、金まではいかないけど、金に近い黄色い目をしてるでしょ?ロザリーちゃんのお父さんの姉、が私の母なの」


そうか、なんか誰かに似ていると思っていたら、ロザリーの姉のルイーズさんに似ていたんだ…。


「だから、カミーユ君とは、近い将来親戚付き合いだね!」


いい笑顔でニカっと笑うオルガさんに、マルセルさんが「どうしてそんな話を今頃になってするんだ?もっと早く教えてやればよかっただろうに。じゃなかったら結婚式の時までサプライズにとっておくとか」と言えば、「あら!ほんとね!驚かせてやれば良かったー」と、僕そっちのけで二人でわいわい言い始めた。


「でもね、みんなもカミーユ君のそばに行くと、カミーユ君がロザリーちゃんの魔力に全身が包まれてるの、わかるでしょ?これ、なんだろう?ってずっと不思議でねー。陣から感じられるのとも、ちょっと違うっていうかでさー」


「ああ、それは私も思っていた。確かに気になる」


オルガさんとマルセルさん、今は魔術師の塔に勤務する2人が同時に僕を振り返って、その目が光った。


「ひ!」


僕がすくんだ隙に、「よーし、むいちゃえー!」とリュシーさんまでが参加して、いつの間にか手にしていたお茶のカップが無くなっていて、僕のマントが奪われた。


「あっはは、すごい、すごいよ」


「うむ、見事なものだな」


「うわー圧巻!」


「いいなー僕も欲しいよこんなの」


「アランも彼女をとっかえひっかえしないで、こういう一途な子を探すといいんだ」


僕がずっと隠してきたのに、僕のマントを広げて、皆が隅々まで眺めている。


隙間なく陣で埋め尽くされているのは、確かにちょっと離れたここから見ても圧巻だ。

でも、見られると恥ずかしくていたたまれない。


「すっごい執念!これ、たったの一晩で刺したんでしょ!!ロザリーちゃんってば意外と一途ー!着ている服にもびっしり、だもんねー」


「ねえねえオルガこれって、名前だけじゃなくて、カミーユ君から離れたらカミーユ君のところに戻る機能になってない?」


「うわ、本当だわ!すごい!こんなの大発明じゃないの!…ん?でも、こんなの、ヴィリエとかカミーユ君レベルの魔力持ちじゃないと付与するのは難しいか。まあ、私はできそうだから、帰ったらうちの旦那がよく失くすものに、これやってみようっと」


オルガさん、旦那さんがいたのか…。

まあ、僕以外30代みたいだし、落ち着いて考えたら当たり前か。


「あ、見て見ろ、多分これだな。この『無事に帰ってきて』これじゃないか?すごい力を感じる。ただの言葉なのにな」


「どれどれ…あ、そうみたいね…これも大発明じゃないの!陣でもなくて、ただの言葉なのに…これなら古代語じゃなくていいから陣よりもっと効率的にできるんじゃない?ちょっと!興奮してきた!」


「このマントを第2研究科のやつらに見せたら、興奮して鼻血出しそうだな」


「そうよ、私、第2研究科所属なのをお忘れ?もう、帰ったら絶対にこれの研究する!決めた!おじ様に頼んで、ロザリーちゃんをちょっとの間塔に出向してもらうようにしよう!」


「そんなことになったら、第1や第3のやつらも黙っていないだろうな」


「…ちょっと、魔術バカのお二人さん。そろそろ出発したいんだけどー」


「マントをカミーユに返してやれ」


「カミーユ君、犠牲になってくれてありがとうね」


リュシーさんギーさんアランさんに言われて、ハッとした二人が、マントから顔を上げた。


「あー、ありがとね!ここ無事に終わったらの楽しみが出来ちゃった!」


僕が生きて帰れるのかなと心配になっていたのに、オルガさんは全くその心配をしていないようだ。

こういうところ、確かにヴィリエっぽい…。


僕達のパーティーで、蘇生の術が使えるのはオルガさんだけだ。


だから、オルガさんが死なない限りは、僕らは生きて帰れるけど…当然オルガさんと言えども戦闘中には蘇生術は使えないので、もしオルガさんが死んでしまったら…その時点で僕らは困ったことになる。

そして当然全滅なんてことになったときは、もう終わりだ。


そういう心配を一切しないっていうのは、それだけ自分たちのパーティーの実力を信じているのか、楽観主義者なのか…今の僕には分からない。


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