57ダンジョン攻略~トラップ攻略
超高難度のトラップダンジョンと知ってはいたけれど…。
トラップダンジョンと言ってもいいの?という初級と、まあ、トラップダンジョンって厄介だね、という中級を一度ずつ経験しただけの僕にとって…そこは、もはやこの世の一部と思えない場所だった。
僕以外の五人で既に数階層は進んでいたので、その踏破済みのところはマップもあるし、まあ何とかなっている。
一階層が広く、踏破済みの階層なのに、一日で次の階層に進めない。
安全地帯である階段で眠ることが出来ないので、そういうときは僕が予想した通り、二人起きていて、四人が寝ている、というのを数時間おきに交代で繰り返した。
疲れて集中力を欠くのは、命とりなのだそうで、僕らはかなりこまめに休憩をした。
もちろん、まだ踏破済みのところなのでどこが安全か分かっているからできることだ。
そして、食糧が足りるのかと心配していた僕にとって驚きだったのは、休憩の時に、マジックバッグに仕込まれている魔道具に魔力を流すと、マジックバッグの中に食料が届くのだ。
魔術師庁に、僕らのそれぞれのマジックバッグに対応する特殊な魔道具があって、僕らがマジックバッグに魔力を流すと、その魔道具が展開する陣の中に入る程度のものなら、直接マジックバッグの中に送り込めるのだそうだ。
これは一方通行なので、こちらからこれが欲しい、といった要望を出すことはできないし、あちら側でマジックバッグの中身を取り出すこともできないらしい。
それでも、なんという画期的なものがあったものか。
これなら、何日かかっても飢える心配はなさそうだ。
万が一パーティーとはぐれてしまった時にダンジョンから離脱する魔道具のように、一個あればいいもの以外は、数日おきに食料とともにそれらも補充されるとのことだった。
ちなみに、ギーさんとアランさんは魔力がないのだけど、厳密に言うとこの世界に生きているもので、全く魔力のない生き物はいない。何かの術を行使できるほどの魔力がなくても、微弱には持っている。
なので、二人のマジックバッグは、魔力増幅の魔石に触れることで、反応することになっているらしい。
余談だけど、リュシーさんの魔力は、自身の身体強化には使えるけど、他者に使うことが出来るほど強くない。
なので、リュシーさんは世の中的には魔力持ちには分類されなかったりする。
あくまでも、冒険者として鍛錬を積んでいるうちに身に着けた『技』、という分類になるのだ。
このマジックバッグでの食料補給は、魔術師庁側でも、鞄に着けられた魔道具に僕らが魔力を流すことで、その瞬間はまだ僕らは無事であることを知ることが出来る。
今回のような国からの依頼での場合にはうってつけのようだ。
「さてと。もうすぐ、前回先に進めなくなった辺りに着くんだよね。カミーユ君、今まで見てきた感じでどう?」
ダンジョンに潜ってもう10日ほどは経つので、少しこの異常な場所にも慣れてきていた。
初回ではここまで来るのに半月以上かかったそうだ。
「ああ、皆さんがおっしゃっていた通り、トラップのヒントや予告以外に、模様に見せかけるように暗号が時々壁や床や天井にあります。あれはどうやらルートを教えてくれているようですね。あの暗号を見つけることが出来れば、無駄な回り道をしなくて済む可能性がありますが…ただ、本当に気が付きにくいです」
「だよね!二回目でようやく見つけられたのもあったし。でもそうと分かれば、皆全力で探すよ!」
「リュシーと違って、私はそういうの鈍感だから気が付かないと思うけど、まあ一応気にはするよ」
「すまないが俺もあまり役に立たないと思うが…」
「僕も」
「じゃあせめて私は気を付けます」
「皆さん暗号表は覚えられたのですか?」
「まさか!」
「もう若くないからそんなにすぐには覚えられないよ」
「あーえーと、僕、頑張りますね」
休憩中にそんな話をして、再度出発してしばらくいくと…先頭のリュシーさんはじめ、皆が立ち止まった。
「この先が、前回どうしても進めなかったところなんだ」
あらかじめ聞いていたその罠は、足を踏み入れると急に壁に囲まれ、大量の水が流れ込んでくる。
そして、正面の壁に、その罠から逃れるヒントが浮かび上がるのだけど、長文なのに短時間で消えてしまうので何度やっても解読できなかったのだとか。
そして、普通なら絶対に溺死するほどの長時間天井まで水に浸かった状態を保った後、足元に排水口が出来て水がはけていくのだそうだ。
マルセルさんが結界を張って、泡の中にいるような感じでなんとか耐えるのだけど、その中の空気も無くなりそうになるくらい、長時間の水攻めで、毎回チャレンジするたびに意識がもうろうとする、という話だった。
正直、ここにいるメンバーは、邪神の経典に使われていた未解読文字と暗号の区別すらついてない人もいると思う。
ダンジョンに潜って今までのところ、正直僕はあまり役に立ってはいなかった。ここまでの罠は、既に経験済みだったから。
いよいよ僕の力が試されるのか、と、緊張してしまう。
「前回より一人多い分、空気がもつ時間は短いからな。みんな今のうちにいっぱい深呼吸しておけよ」
ギリギリの場所で呼吸をしてから、皆で足を踏み入れた。
すぐにすごい勢いで壁が落ちてきて囲まれた。
同時に水が降ってくる。
僕は目に入ってくる水に耐えながら、壁に浮き上がってきた文章を読んだ。
壁に近寄っている僕以外は、中央で集まって、すぐにでも結界が張れるようにしている。
文章が長いはずだ。
この文字を理解していないものが見たら文字に見える、似た模様が、一文字おきに混ざっているのだ。
何度試しても解読できないのは、誤読して意味不明になっていたのだろう。
マルセルさんが、水がもう腰の辺りまで来たので、結界を張ろうとしているのを慌てて止めた。
「結界を張ることで、この小部屋の中に入る水の量が少ないとダメなんです!僕を信じて、結界を張らずに、ただ水に耐えてください!」
もう胸まで浸かっているところだった。みんなはそれぞれに了解の合図を返してくれて、ギーさんは自分の武器の大斧と大楯を手放した。重い装備を持っていると、上がっていく水面に合わせて体を浮かせられないのだ。
大した武器もない僕は、立ち泳ぎをしながらなんとか水面に顔を出しているけど、上から水が大量に降ってくるので、溺れそうだ。水が怖いとか泳げない人の場合はこの罠を乗り切るのはかなり難しそうだ。
水面が天井ギリギリまで上がり、とうとう、完全に水没した。
一体どれくらい耐えなくてはならないのか…。
その時間までは書かれていなかった。
思っていたより長いのではないか…息が続くのか…そう心配になったまさにそのとき、天井がガコン、と音を立てて開き、なんとか水面に顔を出して息をしたら、今度は足元で排水が始まってみるみる水面が下がっていく。
なんとか普通に立っていられるようになり、最後に僕らが全身から水を滴らせながらも足元の水が全部なくなると、さっき文字が浮かび上がっていた正面の壁が徐々に上がっていって、先に進めるようになった。
「あー…びしょ濡れ…気持ち悪いー」
オルガさんが長い髪を絞っている。
「この小部屋から動かなければ次のトラップは無いよな。よし、ここで立て直してから進むとするか」
ギーさんの一声で、皆マントを絞ったり、一旦装備を外して中に着ている服を絞って乾かしたりし始めた。
こういう時は、男性と女性で背中合わせになるように立って、お互いに見ないようにするというのがマナーだ。
僕も髪が背中の真ん中くらいまであるので、良く絞り、それからマントを…と思って、びっくりした。
マントが水を吸っていないのだ。
まさか、と確かめると、装備の内側に着ている衣類も濡れていなかった。
ロザリーの魔法陣だ…。
マントの内側で、濡れないようにの防水の陣が輝いていた。
肌着やシャツなんかにも同じ陣があるのだろう。
僕は髪の毛を乾かせばいいだけだった。
「すごいな…カミーユのその刺繍の効果…」
「ほんとですね…」
他のメンバーが服を乾かしたり髪を乾かしたり、濡れた剣や斧の手入れをしているのを待つ間、僕は初めてマントの内側の刺繍をじっくりと見た。
あんなものまで刺繍されているのか、などと驚きを禁じ得ないでいると…マントのあちこちに散らばっていて一瞬見ただけでは分かりにくいけれど…無事に帰ってきて、と読める文字があることに気が付いた。
平気で広げてしげしげと眺めていたのに、急に恥ずかしくなって、腕の中に抱き込む。
周りをちらりと見て、誰も僕のマントに刺繍されていた文字に気が付いてないようだと分かって、安心して…。
もう一度自分にだけ見えるようにこっそりと小さく広げて、その文字を何度も読んだ。
なんだかロザリーがすぐそばに居てくれるような気持ちになった。
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