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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
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56ダンジョン攻略~出発


次の朝、日の出と同時くらいに起きてみると、ロザリーは寝ないで僕が持ち帰ったマントに刺繍をしてくれていたようだった。


少しは刺繍をしてもらえるかと持って帰ってきたのは事実だったけど…まさか、睡眠至上主義のロザリーに、徹夜でマントの裏に刺してもらえるとは思わなかった。


外側から見る分には刺繍されているなんて分からないままなのに、裏地には、もう隙間がないくらいにびっしりだ。


「まず、この肌着着て。それから、このシャツとスパッツね」


そういって渡されたのは、これまたびっしりと様々な陣が刺繍された肌着だった。

その上から、また陣の刺繍だらけのシャツとスパッツを身に着ける。

この上に、魔術師庁にある鎖帷子などを身に着けることになる。


ちらっと見ただけだけど、寒がりの僕が寒くないように、防寒とか、あとは暑くても文句を言うので、でもこちらは炎を吐く魔物の熱にも対応できそうな陣とか、急所に矢などが刺さらないように、とか…。


まあ、良く思いついたな、と思うほどにいろんな効果の陣が刺繍されていた。


ロザリーはそんなに刺繍が好きでもなかったのに、この短期間にこれだけのことを僕のためにしてくれたのかと思ったら…ちょっと泣きそうになった。


でも、時間がない。

軽く冷たいままのもので食事を済ませると、ロザリーとともに魔術師庁に向かった。


一旦ロザリーと別れて、別室で僕の装備を全て身に着ける。


僕が装着するのに手間取っていると、ギーさんやアランさんが後から来たのにあっという間に自分の分を身に着けて、僕を手伝ってくれて、そして僕の服に刺されていた膨大な陣を見て、目を丸くした。


「これ…すごいな…」


「一昨日決まったんだったよな?金にあかせてどこかの工房にでも依頼したのか?」


「いえ…その…えー、ロザリーが作ってくれたもので…」


「ロザリー?彼女か?」


「あー…えーと…」


僕は視線をウロウロさせたものの、いいや、と腹をくくって言うことにした。


「ロザリーは、僕が結婚したいと思っている相手で、もう一緒に暮らしてて。その…彼女はヴィリエなんです」


他のメンバーも既に揃っていたので、全員の動きが一瞬止まった。


「……なるほど。今回の任務はヴィリエの令嬢か伯爵もちの侯爵子息か、だったけど、行くことになったのが侯爵子息になったのは、その将来の嫁を危険な目に合わせられない、と」


マルセルさんがふむふむと頷きながら言うので、ちょっと恥ずかしくなる。


「なんとーカミーユ君、女の子みたいなナリで、意外と男気あるんじゃないの!」

女性陣はきゃっきゃと喜んでいる。


僕はこれから命がけのダンジョンに赴くので、緊張しているっていうのに、ベテランになるとこうも余裕があるものか…。


そんな話をしているうちに、持ち物と装備の最終確認が済み、僕らはダンジョンのそばに出口が設定されている、ゲートと呼ばれるものが置かれている部屋に移動した。


既にマントとスカーフも装着済みだ。


ゲートとは、目的地と現在地を固定してある、魔具を使った転移陣のことだ。

これの場合はダンジョンのそばに出るし、向こうから入れば魔術師庁のこの部屋に来られる。


その部屋に入ると、一応誰が見送りに来たのかが分からないようになのか…マントのフードをかぶって、スカーフで顔を隠したジョルジュ先輩とロザリーとホスキンさんや、他に数名がいた。


「いい?肌着に浄化の陣も刺したから、絶対に帰ってくるまで脱いじゃダメだよ?それから、このハンカチたち、胸当て部分の内側に縫い付けたけど、これは発動しちゃったら普通にハンカチとして使い捨てちゃっていいからね?一応鞄の中にも予備で何枚か入ってるけど、こっちも一回しか効かないやつだし。どんな陣が必要なのか、分かんないから、臨機応変に使えるように、ちょっと変わったやつはハンカチにしておいたんだけど、どんな効果かは見たらわかるよね?あとは…」


ゲートをくぐる前に、ギーさんとホスキンさんが少し話をしていたので、ロザリーが寄って来て、僕のマントをちらりとめくって装備を見たりしながら、お母さんなの?というような注意事項をくどくどと言い始めた。


僕は緊張で吐き気がしていたし、正直青ざめているだろうと自分でも分かるほどだったので、ただロザリーがいうことに、頷くだけだ。


「ダンナのことが心配なのはわかるが…そろそろ行かねばならぬ」


話が終わったギーさんが僕らの所に戻ってきて、ロザリーにそう言ったので、僕は慌ててしまった。


「ダンナではないです」

即答でロザリーが否定したので…内心、がっくりと項垂れる。


でも、僕の手を両手でぎゅっと握って「気を付けてね」と僕の目を見つめ、その目にみるみる涙が浮かび始めたのを見て、動揺してしまった。


すぐに僕から離れて、横を向いて涙を拭いている。


バレてないとでも思っているのだろうか…。


ギーさんが、僕らの別れも済んだと判断したようで、ゲートをくぐった。

僕は最後だったので…ゲートをくぐる前に、振り向いた。

最後にロザリーを見ておきたかった。


ロザリーはスカーフを下ろして、頑張って作った笑顔で手を振ってくれていた。


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