52ダンジョン攻略~初級ダンジョン
自己紹介も済んだところで、ジョルジュ先輩は研究所に帰ってしまった。
僕は緊張しながらベテラン冒険者達のアドバイスを受けながら、装備を選んでいた。
「ん-。カミーユ君、ちょっとごめんね触るよ?」
アランさんがそう言って僕の体をあちこち触ったり揉んだりした。
「あー。こりゃあ典型的な魔術師だ。軽い鎖帷子と、あとは頭にサークレット、ローブにロッド、だな」
「ふむ、私と同じものでいいのではないか?」
マルセルさんも同意して、ホスキンさんが素早くそれを部下に指示している。
赤髪のマルセルさんは、魔術師として、攻撃魔法や補助魔法を担当しているのだそう。
銀髪のアランさんは、剣を持たせれば右に出るものはなかなかいない、というソードマスターで、アランさんに切れないものはあまりないらしい。
黒髪三つ編みのオルガさんは、回復魔法と補助魔法担当の魔術師。
茶髪でガタイのいいギーさんも剣士だけど、いわゆるタンク役。
こげ茶短髪のリュシーさんはさっきも聞いたけど、シーフだ。
つまり、通常の戦闘であれば、タンク役のギーさんが敵の攻撃を自らにひきつけ、アランさんが剣で攻撃、マルセルさんが魔法で攻撃、誰かが傷ついたらオルガさんが回復。
そこにトラップダンジョンであるのでシーフのリュシーさんが加わっている、という編成だった。
確かに、バランスもとれていて、普通ならこの五人でいいはずだ。なら、僕は純粋に暗号解読係で良さそうだ。
僕は僕の装備が準備されるちょっとの合間に、ロザリーに手紙鳥を飛ばして、今現在の状況と、今後の予定を知らせた。
「あら?何?今日の夜まで待たずに手紙を飛ばすなんて」
「あ、その…同居人に今後のことを…」
「こら、リュシー、プライベートまで立ち入るんじゃない」
「ギー、私達これから命を預け合うのよ、人となりくらいは知っておかないと」
「まあ、それはこれからすぐに分かるだろう。ダンジョンでは取り繕う余裕なんてないからな…」
それからすぐに僕の仮の装備が整い、初級のトラップダンジョンに向かった。
あらかじめ魔術師庁が転移魔法陣を仕掛けておいてくれていて、魔術師庁内から一瞬で移動することが出来た。
「さてと。ダンジョンの一番の特徴は……どこまで知ってるのだろうか」
「学院で習ったことしか知りません」
僕はそう前置きをして、思い出せる限りのダンジョンの特徴について言ってみた。
まず、何と言っても特徴的なのは、階層、という概念だ。
ダンジョンに発生する魔物は、ある階層で全てを倒しつくしても、一度違う階層に移動してしまと、戻ってきてみたらまた元のように魔物が発生している。でも、倒しつくした後その階層から動かなければ、魔物はいないまま、だ。
そして、誰か魔物じゃない者が既にいる階層には行けないこと。
つまりは、その階層を誰かが攻略中に、途中から誰かが参加することはできないということだ。
そして、特筆すべきもう一つは、ダンジョンの中に限り、戦闘中に死んでしまっても、ある一定の時間内であれば、蘇生の術により、生き返ることが出来ること。
このとき、例えば体が燃えて炭になっていても、でかい魔物に踏みつぶされてぐしゃぐしゃになっていたとしても、元通りの体に戻る。
でも、仲間が一度その死体を放置して別の階層に移ってしまったら、例え制限時間前に戻ってきたとしても、もう蘇生はできない。ここにも、階層というダンジョン特有の理が働くのだ。
当然その蘇生の術は簡単ではなく、発動させるのには大量の魔力と難しい詠唱が必要だ。もちろん僕は使えない。
でも多分オルガさんは使えるのだろう。
あとは、ダンジョンの魔物はかなりの確率で魔石を保有しているので、冒険者たちはその魔石を集めて換金して生計を立てている。
魔石は、魔力のない者が魔道具を使う際に必要なため、高値で取引される。
「…一般的なダンジョンがそんな感じで、トラップダンジョンだと、今のに加えて色んなトラップがあちこちにあって、でもなぜかそのトラップの直前にはその予告と回避の方法がどこかに記されている、でしたか…」
「ああ、補足することはまだあるが、間違っていたことはなかったな。それだけ分かっていればとりあえず入って経験するのが一番早い」
そういうと、ギーさんはダンジョンの入り口の扉を押し開けた。
ここは、古代の神殿の遺跡で、地上階と地下二階の三階層しかない。
冒険者になりたての新人が、トラップダンジョンの経験のために一度は入る有名なところだそうだ。
ダンジョン管理人という人たちが、ダンジョンの入り口の脇に詰めていて、どこの誰がダンジョンに入ってチャレンジしているかを管理している。僕達もさっき、その手続きはしたところだ。
世界中にある有名なダンジョンは大体、管理人がいて、入ってきた者と出てきた者を確認し、稀に魔物がダンジョン入り口から出てきてしまったときの対応をする。
僕とロザリーも、そのダンジョンから出てきてしまった魔物の討伐の仕事はしたことがあった。
ダンジョンに足を踏み入れると、異様な雰囲気に一瞬鳥肌が立った。
なんと表現していいのか…理が違う世界である、というのを実感する。
一説によると、この世界の創造神の範疇ではなく、違う神の管轄なのだとか。
まあ、そういうのはそういうのを研究している人に任せて…とりあえずはあたりを見回す。
元々古代神殿だっただけあり、かなり広いものの奥の方に祭壇があり、その祭壇までが見渡せる一つの大きな部屋と、両脇に小部屋がいくつかあるようだ。
「さて。足元をみてくれる?」
リュシーさんに言われて足元を見る。
トラップに関しての説明は、シーフである彼女がしてくれるようだ。
僕ら全員が今立っているのは、入ってすぐのいわば玄関ホールのようなところだ。青みがかった石が敷き詰められている。
でも、あと二歩ほども歩けば、そこからは明るい色と暗い色の石が模様を描くように敷き詰められていた。
「足元の石の色が違っているよね?じゃ、今度はここ見て」
今入ってきた扉が閉まると、文字が浮かび上がってきているところだった。
「明るきは行け。暗きは落ちよ」
声に出して読んでみる。
「そう。ここは神様を祀っていたところのお陰か、トラップに命を落とすようなものもないし、ヒントも、謎かけもなくそのままなんだ。でも、入ってきて、ここでじっとして、振り向いてドアを見ないと、このヒントも読むことが出来なくて、トラップに引っかかる、という訳」
なるほど。知らずに入ってきてすぐに歩き始めていたら引っかかっていただろう。
「ここは、暗い色の石を踏んでしまうと、落とし穴が発動するんだ。まあせいぜい身長の二倍程度の高さから落ちるだけだし、穴の中には何もない。でも、普通の落とし穴は中に剣が上向きにびっしり生えてるとか、強力な酸が溜まってるとか、まあ、無事ではいられないね」
話を聞くだけでぞっとする。
「私達だと、ここは地下の2階まであるけど、踏破するだけなら10分もあれば、なんだよね。でも、今日はカミーユ君の記念すべき初ダンジョンだし、君に合わせて進むから。ってことで、まずは左右にある小部屋を順に調べていくよ」
「わかりました…僕だったら、まずはあの祭壇に行っていたと思います」
「そうでしょ。あそこは地下一階への入り口があるから、行ってみても先に進めなくて戻ってくることになるのよ。大体トラップダンジョンに限らず、いかにも、なところはその階層でやること済ませてないと先に進めないようになってるものだから。覚えといて」
「そうなんですね…」
僕はリュシーさんに指し示された右側のドアに向かって進むことにする。
慎重に、明るい石の上だけを踏んで進む。
「ここはさ、石の大きさも足より大きいでしょ?でも、意地悪いところだと、片足のつま先立ちした分くらいしか安全なところがなかったりするのよ。そうしたら、ギーみたいに足もでかいやつだと、つま先立ちしてもはみ出ちゃうのよ。そういうところは、私がどうにかするから、そういうときは絶対に私の言う通りにしてね」
「はい」




