49天使からの癒し
僕の様子がおかしいので、ロザリーが僕のことを持て余したのか、特別休暇の間は、ロザリーの実家のヴィリエ家で過ごした。
ふとした時に、あのとき見てしまった光景がフラッシュバックしてしまい、吐き気がこみ上げてしまう。
詳しいことは話さなかったけど、仕事で精神的にダメージを受けてしまっていることなどを、ロザリーが軽く説明してくれたので、気持ちの落ち着くお茶を出してもらったり、ヴィリエ家の皆さんに気を使わせてしまった。
普段なら一緒にいると癒されるシャルルまでが来てくれていたのに、一緒に遊ぶ気力も無かった。
幼い子どもはそういうものなのか、それともシャルルがそういう子なのか…。
僕の様子がおかしいことを敏感に感じ取ったシャルルは、いつものように庭で遊ぶことをせがんだりしなかった。
せめて、お昼寝の時には絵本でも読んでやろうか、と先にベッドの上に座って待っていたら、ベッドに横にならずに、僕が胡坐をかいて座っていた足の間に、ちょこん、と座った。
僕のお腹に背中を預けて、足の間にすっぽりと収まっている。
それならそれで読みやすいので、そのまま絵本を読んでやった。
気がついたら、シャルルは僕にもたれて寝てしまっていて、ベッドに寝かせたら起きてしまいそうだったので、そのまま腕を回して抱き込み、ゆりかごのように揺れてやった。
シャルルの暖かい体温を感じながら寝息を聞いて、ぼんやりとしていると、あの光景が浮かぶことも無くて気持ちが楽になってきた。
気がついたら、僕の隣で僕にぴったりくっついて、ロザリーが昼寝をしていた。
そこ、シャルルが寝るはずだったところだよね…。
次の日から仕事だし、と、夕飯をいただいた後は、ロザリーと暮らしているアパートに帰った。
既に一泊しているし、一泊も二泊も変わらないようなものだけど、朝の早さが違う。
寝起きの悪いロザリーのためにも、帰っておいた方が、明日の朝が楽なのだ。
寝るときに、いつものようにロザリーを抱き込む。
ロザリーは、身動きがとれなくなるから嫌だ、などと文句を言わず、同居を始めてからいつも大人しく抱き込まれてくれる。
ヴィリエ家に泊まらせてもらう時は、さすがに一緒のベッドで寝たりはしないので、ロザリーの魔力を感じて甘い匂いをかいだら、気持ちが落ち着いてきた。
シャルルを抱いていたときも、ロザリーほどではないけど気持ちが落ち着いた。
生まれたての時から見ているからか、シャルルは僕にとっても特別だ。
あの、命のエネルギーの塊のような感じにも惹かれるし、単純に可愛いし…。
もし自分にいつか子どもが出来たら、あんな感じなんだろうか。
…ふ、と。
ひたすら嫌悪を感じていた、あの行為。
自分の姿で為されていたからこそ、気持ち悪くて仕方なかったけれど…あれは、本来、子どもを成すための行為。
あれがうまくいくと、やがて、子が生まれてくるのだ…と気が付いた。
そうだ、あれは、本来は愛し合う者同士であるなら、必然の行為。
愛する者の血を分けた子が欲しいと願い、なされるものなのだ。
嫌悪されるべきものではないものだったのだ。
…まあ、その行為を当事者でないものが見るというのは、悪趣味で嫌悪すべきことかとは思うけど。
自分の姿を他人からの視点で見る機会など普通の人間にとってはあるはずがなく、それ自体も異常な体験だった。
しかも、あんな特殊な状況の場面で、それをまともに見てしまったのだ。
そして、そのときの『自分』の相手は、ほとんど記憶にもないような令嬢。
最初はショック状態でひたすら嫌悪と闘っていたけど…だんだん落ち着いてくると、それが行為自体への嫌悪にすり替わりかけていたことに気が付いた。
危うく、いつか結婚できたとしても、その行為ができない人間になるところだった…。
そうだよ、僕はロザリーとなら、できる、と思う。
でも、ロザリーが相手じゃなかったら…きっとあの経験がなかったとしてもどっちみち気持ち悪くて無理だ。
ロザリーといつか、僕も本当にああいうことをして、シャルルみたいな子どもを持つのなら…それはそれで、いいことに思えてきた。
うん、ロザリー限定だけど。
アレをするのは悪くないに違いない。
あれは僕じゃなかった。魔物だった。
そうだ。僕はいつかロザリーとの間に子どもを持つんだ。
ようやく、自分の中であの事件についての気持ちの整理がついた気がする…。
既に寝息をたてていたロザリーをもう一度ぎゅっと抱きしめて、その甘い匂いを思い切り吸い込んだら…、やっと肩の力が抜けて、ほぅ、と息を深く吐き出すことが出来た。
これでやっと。
良く眠れるだろう。




