46厄介な討伐依頼
そんなある日。
厄介な討伐依頼が舞い込んだ。
ロザリーと出勤してすぐ、始業時間前に所長と先輩に連れられて、久しぶりに足を踏み入れた所長室は、研修生だった数年前にあんなに綺麗に片付けたはずなのに、もう雑然としていた。
「討伐依頼なんだけどね、ちょっと厄介で」
フロアで話をするにははばかる内容ということか。
そして、会議室は始業時間からしか使えないから、必然的に所長室になったのだろう。
「厄介って、何です?」
先輩が厄介だと口にするからには、相当厄介なんだろう。
普段の魔物の討伐の時、なかなか『厄介』だなんて言わないのだ。
「まあ、とりあえず各自で座るところを確保して座って座って」
所長の言葉に、どこに座れるのか、と見回す。
応接セットとして置かれているソファーの上に置かれているものをどかせばいいか、とソファーの座面にあった書類を本来の執務机に運んでいる間に、同じくソファーの座面に置かれていたけど触るのを躊躇した、謎の魔道具らしきものなどをロザリーがどかしてくれた。
ソファーの座面には片付けた僕とロザリーが座り、先輩は隣の一人掛けソファーの手すりに座った。
僕らが落ち着いたのを見て、所長が内容について切り出した。
「今回の討伐依頼は王都内なので、遠出はないんだが、厄介なのは間違いがなくてな。淫魔なんだよ」
「ほえ?」
隣でロザリーが変な声を出している。
「夢魔の仲間ですか、確かに厄介な…」
夢魔は以前、僕にロザリーの夢を見させたヤツだ。
思わず苦々しい顔になる。
あれはまだギリギリ夢魔だった。
でも、夢魔の一部が、とり憑いた相手にはっきりとした性的な夢を見せて精気を吸い取るようになると、淫魔と呼ばれるようになる。
「えええ?普段実体ない奴じゃないですかー」
「そうなんだ、だから厄介だと言ってるじゃないか」
所長が眉間にしわを寄せている。
どうやら所長にとっても、ヴィリエのロザリーをもってしても、厄介らしい。
淫魔は良い獲物を見つけてとり憑くと、力をつけて実体化できてしまうことがある。
討伐依頼が出るってことは、実体化するほどまで力をつけた淫魔が相手だということだろう。
夢魔である間は、実体化できないし、討伐依頼が出るほど強い魔物ではないのだ。
厄介なのは、確実に討伐するには実体化したところを狙わなければならないこと。
…つまりは淫魔ととり憑かれた人物が、イタシている最中に踏み込まなくてはならない。
そして、男性は淫魔討伐に向かないことも厄介だった。
淫魔はその片思いの相手の姿で実体化するので、思いを遂げられて本人は幸せであるため、とり憑かれた本人からは討伐依頼は出ない。
どんどん病的にやせ細りながら目だけがらんらんと光る、特徴的な見た目となるために、医師や魔術師が一目見れば分かる。
なので、大抵、討伐依頼は医師からの指示で家族からなされるので…淫魔を消滅させた後、とり憑かれていた本人から、家族や周囲は非難を受けることになるらしい。
放置すれば確実に命を落とすというのに、命を救って文句を言われる、やりがいの無い仕事だと聞いている。
「…んんん?よく考えたらなんでそんな依頼を女子の私が居るっていうのに私達のチームに?」
ロザリーは淫魔討伐に男は不向きだってことを忘れてしまっているらしい。
「まず、実体化するほどの淫魔は、かなり強力な術を使ってくるので、魔力量が多くて、耐性の高いやつしかこの仕事はできない。ので、今回は私を含めたこの4人だ。次に、今回のターゲットにされている人間は貴族の女性。なので、淫魔も男型のため、淫魔討伐には向かないとされている男も入っている、と言った方が良い。よくある女型の淫魔退治なら、純潔の女魔術師が行うものだからな。ロザリー一人で行く可能性もあったってことだ」
「あー、そういやそうでしたね!男の人って淫魔に弱いんでしたっけね…って…あれ?私のプライベートな情報がこの上もなく駄々洩れ?!」
鈍いロザリーも、所長がうっかり口を滑らせて、ロザリーが処女だろうと言ったも同然なことにちゃんと気がついたらしい。
僕は誓約しているから、結婚するまでは手を出さないからね…。
まあ、誓約のことまで所長たちには教えてないし、そんな事情までは知る由もないはずなんだけど。
2人とも僕らの微妙な関係性は把握してくれているので、僕がうっかり顔を赤くした上に、ロザリーはロザリーで顔を赤くしたので、先輩までが気まずそうに顔を赤くして目を逸らしてしまった。
「まあ、見てりゃそうかそうでないかは分かっちまうもんだから」
そういって所長がむくれているロザリーの頭をなだめるようにポンポンしたら、ロザリーは驚愕の顔をした。
きっと見ただけでアレの経験のあるなしって分かるものだったのか?と思っているに違いない。
普通はそんなに分かるものじゃないけど…ロザリーの場合は分かりそうだ。
結婚休暇をとるときには長めにとるようにしよう…。




