42一緒に…寝る?
気持ちの整理もついて、体も綺麗になって温まったところで、お湯を抜いて、洗っておく。
今日用意された着替えは、薄手のバスローブだ。もうこれしかないのだからあきらめるより仕方がない。
体を洗うときに一緒に洗っておいたパンツは、お湯に浸かって考え事をしながら乾かしていたのでもう履ける。
濡れた髪を拭きながらリビングに出ていけば、ロザリーが手ぐすねを引いて待っていた。
新しい魔法陣をよほど試したいらしい。
ソファーに座ると、さっきと逆の立場で、ロザリーがソファーの後ろに回り込む。
ふわ、と暖かい風を感じたと思ったら、ロザリーの手がわしゃわしゃと僕の髪の毛をかき回す。
背中の真ん中くらいまで伸びている髪は暖かい風によってみるみる乾いていった。
「うん、風量といい、温度といい、いい感じだったよ」
そう実験台として感想を述べれば、ロザリーは満足そうに微笑んで、手に巻いていたスカーフをほどいて、描かれていた魔法陣を再度確認して頷いている。
「寝る前に、果実酒かなんか飲む?」
この国では本来、正式には夕食にお酒がつきものだ。
でもここ数日はそれどころじゃなくて、お酒なんて飲んでいなかったし、今日の夕食の時もお茶で済ませている。
「今日はいらない」
ロザリーが気を遣って言ってくれているのは分かったけど、疲れが抜けきれていないときにお酒を飲むのはあまり好きではない。
夕べはあまり眠れていないし、今晩だってぐっすり眠ることは出来ないだろうし。
「じゃ、もう寝ようと思うんだけど…カミーユはまだ起きてる?」
ロザリーは睡眠至上主義。
大人が寝るにはかなり早い時間ではあるけど、僕も寝ようと思えばすぐにでも寝られるほどに疲れてはいる。
「あ、本が少しあるから、何だったら眠くなるまで読んでていいけど…」
ロザリーが本を貸してくれるらしい。
今日は、ソファーの前に食卓の椅子を持ってきて、座ったままでもせめて足をあげて寝てみようか…。
そうだ、今日は毛布を借りられたら、などと考えていたら、ロザリーがかけていたライトの魔法を解除してしまった。
薄暗くなり、持ち歩くこともできるランプの灯りだけになったので、自分の寝場所を確保するときには自分でライトの魔法をかければいいだけだしな、と思っていたら、「行こ?」とローブの袖をロザリーに引っ張られて驚いてびくっとしてしまった。
行く?行くってどこに?
「言っとくけど、私ですら寝るのには小さいソファーだから、ソファーで寝るのは無しだよね?そういう押し問答は面倒だから却下だよー」
そういうと、ロザリーはあくびをする。
そういえば、初日には拘束魔法を使ってまで、僕を寝室に引きずっていったロザリーだった。
これは、ロザリーの言う通り、ソファーで寝るだのと言っても、また同じような目にあうだけだ。
僕は物理的な腕力以外はロザリーにはかなわないし、その腕力だってロザリーの前では発揮する前に返り討ちだ。
…つまりは抵抗するだけ無駄、なのだ…。
……まあ、ロザリーはヴィリエだしな…はたして、ロザリーに勝てる人がいるのだろうか?
ヴィリエの家族以外は、きっと誰であれ諦めるしかない状況だろう。
なんとか気持ちの整理をしている間に、ロザリーに、ほらほら、と寝室に追い立てられた。
ベッドサイドテーブルにランプを置くと、ロザリーは「この本とかならきっとカミーユも興味あると思うんだけど、もうこれ読んだ?」と一冊の本を手渡してくれる。
「私はもう寝るから、奥ね。でランプ側がカミーユってことで」
そう宣言すると、さっさとベッドに上がって毛布にもぐりこんで、ランプ側の毛布をめくって、ここに寝ろ、と視線で訴えてくる。
僕が下心満載だったら、君は貞操の危機なんだけど、分かってるのかな?
そう訊いてみたかったけど、私とカミーユの仲でしょ、とかいう返事がくるだけな気がする。
はあ、とため息をついて、言うことを聞いて大人しくベッドに上がると、ロザリーは毛布を掛けてくれた。
でも、毛布も二人で一枚だ。
僕は足先とか色々はみ出してるけど、でも無かった昨日よりは断然ましだ。
「おやすみー」そういって目を閉じるロザリーに、「うん、お休み、いい夢を」そう答えてあげて、とりあえず借りた本を開いてみる。
疲れていて眠いのに、心臓がバクバクして、すぐには寝られそうもない。
あっという間に隣からは寝息が聞こえてきた。
ロザリーのベッドは彼女の甘い匂いが染みついている。
嫁入り前の貴族の娘であるロザリーをどうこうしようという気にはならないけど…。
ロザリーと神様に試されている気がする…。
とりあえず、寝よう。
まずは慣れだ。
ランプの灯りを絞って、本を閉じ、ロザリーに背を向けて目をつぶる。
ゆっくりした呼吸を意識していたら、夕べほとんど寝られていなかったのも手伝ってか…思ったよりもすぐに眠ることが出来たようだった。




