39帰れない?
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ロザリーが寝室に戻ってちゃんと着替えてくると、僕がロザリーの服を借りているのが寒そうに見えるらしく…五分袖の膝上のチュニック一枚しか着ていないから、確かにじっとしていると肌寒い…これはどうか、こっちはどうか、と色々な服を試すことになった。
まだ僕がロザリーより体が小さかったころに、ロザリーのお下がりのドレスを着せられたことがあったけど、さすがに今は女性の平均身長より小さいロザリーの服が、男性の平均身長より大きい僕に着られるはずがなく。
試行錯誤の末に、予備のシーツを古代神官のように体に巻き付けて腰の辺りで紐で結わえて止める、ということになった。
で、僕がパンツを履いているのか、と急に訊いてくるので、お風呂で洗って温風の魔法で乾かしているから、ちゃんと履いている、と教えてあげると、その弱めた魔法が難しいのだ、と口をとがらせる。
ロザリーは魔力が強い上に、火系統の魔法は特に強力なので、布を傷めないような威力での風やそれにまとわせる熱の量の調整が難しいんだろう。
ふと、前から思っていた、威力を軽減させる魔法陣を作って調整したらどうか、と提案したら、目をキラキラさせて、早速とりかかった。
僕も大概集中力がある方で、夢中になると他のことが気にならなくなる傾向はあるけど、ロザリーのそれは僕以上だ。
夕食は何がいいかとりあえず聞いてみたけど返事がない。
夕食は、また食糧庫の中身と相談で、適当に作ることにした。
その仕込みをしている間にちらりと手元を見ると、魔法陣の一部を「これじゃダメだ」とか言いながら書き換えたりしてて、僕の存在はないも同然だ。
洗濯物を取り込んで、すぐそばで畳んでいても、気が付かない。
ここまで徹底的に存在を忘れられるというのは寂しいような気もするけど、常に過剰に注目される人生を送ってきた身にとっては、新鮮だ。
それに、無視されているのとも違う。いるのは分かっているうえで、気にする必要がないと思われているだけだ。
やっぱりロザリーは違う。
豆のスープにしようと豆をゆでていると、外出禁止令中だというのに、玄関がノックされた。
ロザリーは気が付いたかと振り向くと、ちゃんと気が付いていて、怪訝な顔をしている。
外出禁止令中だと忘れていないらしい。
「私の家だし、カミーユは不審すぎる格好だから、私が出るから」
不審すぎる格好と言われても、仕方なくてこの格好なんだから、と不満に思いながらも、玄関からは見えないところで待機して、来客とロザリーの会話に耳を澄ます。
一応ロザリーの家は結界があって望まない客は足を踏み入れられないので大丈夫だとは思うけど。
聞いていると、来たのはどうやらこの近辺を巡回をしている警邏兵たちのようだ。
外出禁止令を守らずに外出する人が結構いるので、一軒ずつ回って注意喚起をしている、ということだった。
「すぐそこのパン屋までだから、とかそんな安易な気持ちで出たとしても、一晩は牢屋に入ってもらうことになるんですよー。で、今回は特別な案件なので、実は魔道具を使っていまして、僕らが見ていないところでも、外を歩いていると絶対に捕まるんです。食べ物などの備蓄は足りそうですか?困っていることがあれば聞きますよ」
声からして若い兵のようで、対応に出たのが年若い娘だからか、機嫌良く、困っていることがあれば助けるようなことを言っている。
「…それって、昼夜問わずに家から出たら捕まる…?」
僕が深夜になったら帰るつもりでいることを知っているロザリーが、固い声で確認をしてくれている。
「もちろんですね。闇にまぎれて、だなんてなおさら怪しいですから昼も夜も関係なく」
「…わかりました。困っていることはないです。ご苦労様です」
警邏の兵を帰した後、振り返ったロザリーは僕を気の毒そうな顔で見た。
「暗殺者集団が相手だから、夜の方がなんなら警備が厳重かもしれないんだね…よく考えたらそりゃあそうか」
「闇にまぎれて家に帰るのは無理か…」
僕もそこまでだったのか、と、昨日外に出なくて良かった、と安堵するとともに、この家にもう二晩泊まらざるを得ないのか、と困惑する。
常識外の術を使う暗殺者集団相手だけに、相当念入りになっているらしい。
ロザリーの家は、窓から外国の要人が宿泊している宿が見えるほどに近いのだ。
これは諦めるしかない。
「可哀想だけど、外出禁止令があけるまで、うちにいるしかないねぇ」
ロザリーに言われて、頷くしかなかった。
腹をくくった僕は、ひとまず目の前の夕食作りの続きに専念することにした。
本格的に調理にかかるのに、ひらひらとまとっているシーツは邪魔だし危ない。
夕べから借りているワンピースだけの上にエプロンをしめて、野菜を刻んだり煮込んだりしていると、手伝う気はありません、と顔に書いてあるロザリーがふらりと近寄ってきて、「カミーユさんや、今日の晩御飯は何ですか」と手元を覗き込んできた。
「あー、ご飯は鳥肉のローストと、豆のスープとフルーツのコンポート、あとは丸パン」
「ふああー美味しそうー」
献立を教えてやると目を輝かせる。
既に、夜中と昼の二回、僕の作ったご飯を食べさせているけど、ロザリーはその度に目をキラキラとさせて美味しがって食べてくれていた。
食べさせ甲斐があるというものだ。
汗をかきながら柔らかく煮た豆を裏ごししていると、その手元をぼーっと見ているので、午後ずっと集中して作っていた魔法陣を試さなくていいのかと訊いてみると、「そうだった」とテーブルの上の魔法陣が書かれたスカーフを持ってくる。
「ね、見てみて」
じゃじゃーん、とばかりに自慢げに見せてくる。
僕も気になっていたので、調理の手を止めて、エプロンで手を拭いてから、ところどころ指でなぞって確認していく。
「へえ、すごいね、こうしたら確かにいつもなら二つ描く陣を一つで済ませられる訳か…よく思いついたね」
最近は研究所で僕が新しい陣を考えていると、それにちょっかいを出してきて、何だかんだで二人で協力して考え出すことは多い。
就職の時、こういうことがしたいと言っていたのは僕で、討伐したがっていたのがロザリーだったのに、お互いにどっちもやっている羽目になっている。
「でしょ?でね、ここ、ここが…」
しばらくいつものように魔法陣談義に花を咲かせていたんだけど、豆が冷えると固くなって裏ごしできなくなるので、話をしながら裏ごし作業をする。
「…という訳で、憧れの温風を出して髪を乾かす、ってのをやってみたいので、私お風呂に入ってくるね」
一通りの陣の説明と、僕の感想なんかを聞き終えたロザリーは、やっぱりご飯を作る手伝いはする気はなくて、お風呂に入るという。
「え、今料理中だから、寝落ちしても気が付かないかもよ」
一応、嫌みを言ってみると、「そんなにいっつも寝ません!」たまに嫌みだと通じないこともあるんだけど、今回はさすがに通じた。
ぷりぷりしながら浴室に向かうロザリーを笑って見送り、食事作りに集中した。




