38どうしちゃったの?
ロザリーの顔をみて、ハッとする。
うっかり洗濯などに集中しててロザリーを起こすといった発想がなかった。
かなり好き勝手に色々やってしまったけど…。
そして、僕と目が合ったロザリーは、ヘナヘナ…とその場にへたりこんだ。
「え、ロザリー大丈夫?お腹すきすぎて歩けないの?」
立てなくなるほど魔力を使ったとも思えないけど、そろそろ昼だし、朝ごはんも食べてないからお腹がすいて歩けないのか。
オーブンからはいい匂いが立ち始めている。
床に座り込んだロザリーが、「ううー」、と唸りだしたので慌てて駆け寄る。
「ええと、なんだろう、お腹痛いとか?」
とりあえず背中をさすってみる。
空腹じゃなくて、具合が悪いのか。こんな様子のロザリーを見たことがないから、どうしたらいいか慌てる。
しばらく、うう、うう、唸って、そして涙をにじませていたロザリーだったけど、ようやく出した言葉が「洗濯を…」だった。
洗濯をさせてしまって申し訳ない、か、もしくは、何勝手に洗濯してるんだ、とかそういうことかな、と思って、言い訳をする。
「ああ、僕の服、悪かったけど洗濯させてもらったんだ。で、ついでだったからその、随分たまってたし、えーと…」
そういいながら、片手にまだ干そうとしていたロザリーの肌着を持ったままでいることに気が付いて、本人の目の前で肌着を手にしていることにさすがに羞恥心が湧いて目が泳ぐ。
「あの、ごめん?」
勝手に適当な石鹸を使って洗濯をしたし、ロザリーのものまで洗ってしまった。これは、何を勝手に洗濯してくれてるんだ、という文句だろう。
僕はロザリーの衣類でなければ触りもしないけど、ロザリーは僕には衣類を触られたくなかったのかもしれない。
同じように、家の中も触られたくなかったのかも。
「その、洗濯だけじゃなくて、掃除して、ご飯も作ってあるんだけど、その、勝手にごめん…」
自分のことしか考えていなかったな、と反省して謝ると、ロザリーは遠い目をして何やら考え込んでいる。
反応がないので、僕は手に持っていた肌着と洗濯物の残りをちゃちゃっと干してしまうと、まだ座り込んでいたロザリーを、やはり空腹で動けない、と判断した。
「ちょっとごめんね」
僕はロザリーを抱え上げると食卓の椅子に座らせた。
少し暖かくなってきていたので、熱々は嫌だな、と、淹れて冷ましていたお茶を注いで、ロザリーに出してやる。
さっきからとろ火で温めていたショートパスタ入りの野菜スープをよそって「食べてて」とロザリーの目の前に置いて、オーブンの様子を確認する。
いい感じに焼けていたミートパイを取り出して、切り分ける。
そうだ、勝手に食材を使ったのだったと思いだして、「瓶詰めの塩漬け肉使っちゃった」と報告をする。
ミートパイも目の前においてやったのに、全然手を付けない。
これは食べさせてやらないとダメなのだろうか?
顔色はそんなに悪くないけど…と顔を見て、さっき涙を浮かべてたし寝起きで顔も洗ってないな、と気が付く。
ロザリーの甥っ子のシャルルのお世話のときに、蒸しタオルで顔を拭いてやることがあるっけ、と思い出して、同じように蒸しタオルを作って、ロザリーの顔を拭いてやる。
「あの、なんか何から何まですみません」
全然喋らないし、大人しいから変な感じだ。調子が狂う。
「なんかおとなしいとロザリーじゃないみたい。とりあえず食べよ?」
僕も向かい側に座ってそう声を掛けたら、ようやく食べ始めた。
食べさせる必要はないらしい。
食べ始めたら、すごい勢いでぱくぱくと平らげていく。やっぱりお腹がすいていたんだね。
「ロザリーって外だと良くしゃべるのに、家だとおとなしいんだね」
いつもとあまりに様子が違うのでつい口が滑る。
「いや、寝起きに色々衝撃的だったのと、一人暮らししてて、一人でしゃべってたらおかしくない?」
ご飯を食べて元気が出たからか、返事があった。
「今は僕がいるけど?」
「うっ、まずね、あんたなんで帰ってないのよ。私の家の掃除洗濯してないで、帰って自分の家の掃除やら洗濯やらすればよかったじゃない」
「え、忘れたの?この辺りの通りは、要人警護のために、外出禁止だよ?」
「ああああ!そ、そっかあ!」
どうやらぐっすり寝たせいで、寝不足状態で読んだ情報はどこかへ行っていたらしい。
「じゃあ、じゃあ昨日のうちになんで帰らなかったの?そういや先輩の手紙にも休暇中はおとなしくとけっていうようなこと書いてあったっけか」
「え、だってさ、先輩が帰ったタイミングで帰ってなかったらもう間に合わなかったけど、あのときはそんな体力残ってなかったし。深夜に闇にまぎれてこっそり帰ろうにも、僕に水音しなくなったら、って話してたのにさ、自分が寝落ちしちゃってて、仕方ないから踏み込む羽目になったし。一宿一飯の恩義でお風呂で寝落ちした君のお世話もしたんだよ?で、大丈夫なのを見届けたら、また死にそうに眠くなって、その、また帰る気力がもうなかったっていうか」
半分は状況説明で、残り半分は、自分でも帰らなかったのはまずかったな、と思っているので、いいわけだ。
でもロザリーはお風呂で寝てしまったことに関して、申し訳ない、と思ってくれたらしい。
「ううううううう、ごめん、迷惑をかけた」
情けない、とでもいうように、両手で顔を覆うと、謝ってくれた。
「うん、極力見ないようには心掛けたけど、嫁入り前の君の一糸まとわぬ姿を見ちゃったのは、将来の君の旦那さんには言わないでおくよ」
ふと思いついて一言添えたら、がばっと顔をあげてこっちを見て、それから顔を真っ赤にして、もう一度顔を両手で覆った。
「すみません。ぜひそうしてください、そして速やかに記憶を消去してください」
うん、記憶力はいいから、記憶消去は多分無理だけど、いくら僕でもロザリーの裸見たよ、なんてどんな状況で口にする話題か皆目見当もつかないから、将来のロザリーの旦那さん以外にも誰にも言うつもりはない。
お腹もいっぱいになって元気になったロザリーは、いつもの調子を取り戻した。




