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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
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36夜食とお風呂


ふ、と目覚めて、見知らぬ天井と寝台に、ここがどこなのか、全く分からなくて一瞬パニックになりそうになった。


幼い頃、何度も何度も誘拐されたので、それらの記憶が蘇り、体がこわばる。

でもすぐに、体を拘束されてもいないし、自分はもう大人で、自らの力で身を守れることを思い出した。


そのために5年間必死に学院で勉強をしたじゃないか、ロザリーがいたから、一度も一番にはなれなかったけど。


卒業の時に、例年なら僕の成績でも2番以下を引き離してのぶっちぎりの首席だっただろう、と言われたことも思い出す。

確かに毎回2番の僕と3番の間の成績は、随分と離れていたものだった。


ロザリーがいなければ僕は一番がとれたけど、ロザリーのいない学院での生活なんて、想像することすらもできない。

ロザリーと同学年で良かった、と思いながら眠気がまた襲ってきて、もう一度目を閉じかけ、空腹に目が覚めたのだということに気が付いた。


空腹でお腹が痛いほどだ。


寝直すことを諦め、辺りを見回して、改めてロザリーの家の寝室だったことを思い出す。


そして、隣でロザリーが僕の肩におでこをくっつけて、横向きに丸くなってすうすう寝息をたてて眠っていた。


一瞬で目が覚めた。


どうしよう、と狼狽するも、目が覚めたんだから起きればいいだけの話だ。

そーっと寝台から抜け出しても、さすがはロザリー、全く目覚める気配はなかった。


もう、辺りは真っ暗だ。明るいうちに眠ったので、常夜灯のランプも灯ってはいない。

足元だけにライトの魔法をかけ、寝室を出てリビングに入り、本格的に明るくする。


時計を見ると、真夜中だった。


既に外出禁止の時間だ。

…やってしまった。


椅子での仮眠じゃなかったので、寝入ってしまったのだ。

仕方がない、闇にまぎれて帰ることにするしかないだろう。


でも、とりあえずこの空腹感は辛い。


先輩の差し入れもあるし、ちょっといただいてから帰ってもいいだろう、そう思って、キッチンに立った。


差し入れのうち、薄焼きパンに焼いた肉を挟んだやつはまだ食べていない。

これを温め直して、暖かい飲み物でも…そう思って食糧庫をのぞいて、ロザリーが全然料理をしなさそうなことを思い出した。


入居以来使った形跡のないオーブンを予熱する。

パンを温めている間に出来そうな簡単なスープを多めに作っておけば、明日の朝ロザリーが食べるだろう。

そう思いついて、勝手に食材を取り出し、調理器具がどこにあるのか探しながら作り始めた。

エプロンも見つけたのでロザリー用で小さめだけどなんとか身に着ける。


帰ったらまたすぐに寝たいから、ここはお茶やコーヒーではなく、ハーブティーだな…。

さっき調理器具を探していた時にお茶がしまわれている場所とポットやカップも見つけていた。


野菜を火の通り具合が同じになるように考えながら刻み、塩漬け燻製肉も薄切りにして一口大にして鍋に入れて火にかける。

燻製肉から油が出てきたところで野菜を入れて、軽く炒めてから水を入れて煮込む。オーブンが温まったのでパンにうっすら水を振りかけて覆いをしてオーブンに入れる。

スープの味を調えていたら、寝室のドアが閉まる音がしたので振り向くと、寝起きで髪がぼさぼさのロザリーが目をパチパチと瞬かせながら僕を見ていた。


「あの…カミーユ?」

「あ、おはよう?かな?勝手にキッチン借りてごめん。お腹すいて死にそうだったから」


さっき探し出したスープ皿をもう一つだして、スープをよそう。

「ちょうどできたよ」


オーブンの中のパンもいい具合に温まっていたのでお皿に盛り付ける。

お湯も沸いたので、ポットに注ぐ。

それらをダイニングテーブルに運ぶと、ロザリーに座るように促す。


「手伝わなくてごめん」


家主として、気が引けたのだろう。向かい合わせになっている椅子に座りながら殊勝に謝ってくるので、「僕も家主を起こさずに食糧庫とか食器棚を勝手にあさってごめん」一応気になっていたことを謝っておいた。


もしかしたらスープの匂いに誘われて目を覚ますかも、と思って、パンを二つとも温めておいて良かった。


早速食べ始めると、ロザリーはスープを一口食べて、目を丸くし、それからすごい勢いで食べ、肉の挟まったパンも頬張る。

丁度良い頃合いか、とハーブティーをカップに注げば、ほにゃーと気の抜けた顔をしてカップのお茶をすすっている。


満腹、というほどでないにしても、空腹は満たされたので、食器類を下げたら帰らせてもらおうかな、と思いながらお茶を飲んでいたら、ロザリーがお風呂に入っていけ、と勧めてきた。

どうやら、ご飯のお礼らしい。

帰ったら自分の家で入れるけど、長い付き合いだけに、ここで断って帰ろうとすると押し問答になるだろうことが簡単に想像できる。

他人の好意をそのまま受け取ればいいだけなのに、ロザリーはそういうのを良しとしない。

借りを作ったみたいでいやなんだろうと思う。


ささっと入ればいいか、と了承すると、大急ぎでお風呂の支度にとりかかっている。


浴室からジューっと蒸気の上がる音と、もくもくとした湯気が漂ってくる。魔力にものを言わせてお湯を沸かしているらしい。

ロザリーらしいなあ、と思いながらこっちも食器を洗っていると、ふと、新婚の夫婦が手分けをして家事をしているとこんな感じなんだろうな、なんて思ってしまった。


そのタイミングで「お風呂できたよー」などと呼ばれてしまったので、まるでまさに…と顔が赤くなってしまい、慌てて拭いたお皿を食器棚にしまう。


顔が赤くなったところは、ひょい、と顔をのぞかせたロザリーには見えてないと思うけど。


お風呂の説明を聞くと、今暮らしているタウンハウスの僕用の浴室よりは小さめだったけど、大体つくりは一緒だったのでタオルとバスローブの置き場所も確認する。


「水音がしなくなったら寝落ちしたと判断して踏み込むからね」と脅されて、幼い頃の数々の恐怖体験が一瞬蘇ってぞっとしたけど、まあ、ロザリーだから、大丈夫だろう、と気を取り直して入浴する。


ためたお湯に体を浸す入浴方法は、この国に温泉が多いことが由来だ。


温泉のない王都でも、準備に手間がかかってもその心地よさに、貴族や裕福な家庭には浴室がある。

このような小さな家でも浴室があるとは、やはり領地なしの貴族の若夫婦向けなのだろうな、などととりとめもないことを考えながらお湯に浸かる。


ちょっと食べたからか、のんびりとお湯に浸かったら一瞬うとうとしてしまい、慌てて眠らないように髪や体を洗って泡を流し、浴槽のお湯を抜く。浴槽を軽く洗い、バスローブを着て、タオルで髪を拭きながら、ロザリーも入るだろうから、すぐにリビングに出ていく。


入浴後のこんな姿は、近年、ブノアやフレデリクくらいにしか見せたことがないから、ちょっと恥ずかしいし緊張する。


すると僕に、ロザリーはどういうつもりか「これをパジャマにしたらいいよ」、と服を押し付け、自分も浴室に行ってしまった。

裸にバスローブ、という僕に対しての反応が全くないのはまるでブノアやフレデリクと一緒で、なんだか拍子抜けするくらいだ。


髪から水滴が落ちなくなるまで拭いていたら、また豪快にジューっと音をさせながらためた水をお湯にしているらしい音が聞こえる。


僕はとりあえずロザリーが入浴中に帰ってしまうのも何だか…と思って、押し付けられた服ではなく、さっきまで着ていた服に着替えて、帰る準備をして、ロザリーが出てくるのを待った。


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