表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
60/101

35翻訳完了


先輩が、ここに来てからの成果を取りに来てくれたことで、もう昼になっていたことに気が付いた。


夜中同様に、しっかり食べると眠くなりそうだったので、ほんのひと口ふた口、何かを口にしては作業をしていたので、昼食をとる、ということもない。


先輩がソファーに座って僕らが書いたものをページごとに整えて読み、眉間にしわを寄せているのを視界の隅に入れながら、手は休めない。


さっき書いたあたりは、邪神への生贄に関する内容だった。

僕もロザリーも1ページおきなので、僕が訳したところの内容はロザリーは知らないし、ロザリーが訳したところは僕は分からない。

でも、1ページおきでも、おぞましい内容は十分に伝わる。


のんびり休憩したい気持ちにならない理由の一つは、こういう、読んでいて気持ちのいいものではないものは一刻も早く終わらせてしまいたいから、もあるだろう。


僕もロザリーも楽しみはあとにとっておいて、嫌なことはさっさと済ませるタイプだった。


ふと手元に影が差して顔を上げると、先輩が大きめな木の実ほどもあるキャンディを口に押し付けてきて、慌ててパクリと口に入れた。隣ではロザリーがもう口をもごもごさせていた。


実をいうと、僕は甘いものがそんなに得意ではない。でも、このキャンディは甘酸っぱくて、疲れがとれるような気がした。

ちょっと栄養の摂取が足りていなかったかもしれない。

先輩は僕ら二人の頭をかるくわしゃわしゃ撫でると、研究所に戻っていった。


キャンディを食べ終わってからも、頭痛でどうにもならなくなるまで、ひたすらに集中して作業をすすめた。


ズキズキする痛みに目から火花が散るようで、「うう」と小さくうめいて一旦ペンを置いて顔を上げたら、いつの間にか、また先輩が来ていた。


外はもう暗く、ランプはさっき灯したところだ。


玄関のカギはかけておらず、そのかわりに、この家に入居するときにロザリーがかけた、彼女が認めた人物以外は足を踏み入れられない結界が、その役目を果たしている。


先輩は僕の顔色が良くないことに目ざとく気付いて、僕のところに寄ってきた。

ロザリーには、キッチンに差し入れがあるから、と、食事の準備をするように言っている。


僕は、多分食べられないから僕の分はいらない、と言おうにも、言葉を発するのも辛い。


先輩が、僕の両目に手を当てると、魔力が流れ込んできた。

先輩の回復魔法だ。


暖かくほわほわした感じがしてくるのがジョルジュ先輩の回復魔法。

人柄が出るのだろうか。

ガチガチになっていた首筋や肩にも、先輩の手が触れると、暖かくなって楽になっていく。


最後に額に手を当てられて、このまま寝てしまいそうだ、と思うくらいに心地よく、先輩の手が離れたときには、あれだけ痛かった頭痛はおさまり、頭痛に伴う吐き気も無くなっていた。


「無理をさせてすまないな。どんな章立てになっているかさえも分からないから、最後の1ページまでおろそかにできない。明日の昼までだから、どうにかできるところまで頑張ってほしい」


「すごく楽になりました、ありがとうございます。頭痛の時は魔法の発動は難しくて…。それに軽い頭痛の時でも、自分で自分にかけるとあまり効かないんですよね。本当に助かります。それから、できるところまで、とはいわないでください、僕らは最後までやりきってみせますよ」


そういって笑顔を見せると、先輩は心配そうな顔をしつつも「頼もしいな」そういって笑ってくれた。


ロザリーが先輩がもってきてくれたお茶や食べ物を籠からお皿に移してくれていたので、僕とロザリーで少しだけまとまった量を食べた。


その間に先輩は僕らの書いた分をまたまとめて読み、そして鞄にしまうと帰っていった。


僕とロザリーは終わりが見えつつある本の残りのページ数を確認して、かき消えそうになるやる気をなんとか奮い起こし、お互いに励まし合って、作業を再開した。


2人で同じくらいの時間で1ページを訳し終えなければ、相手を待たせてしまう。

そのことがいい意味に働くのか、1ページにかかる時間はどんどん早くなっていった。

早く終わらせてしまいたい。


その一念から、もう休憩もとらず、ひたすらカリカリとペンを動かす音が室内に響く。

また明るくなり、ライトの魔法がいらなくなり、ランプを消してもひたすらに書き下していく。


僕らが最後のページを書き写し終え、これ以上の内容はないかどうかを確認して、顔を上げると、またしても先輩がいた。


僕らが作業を終えたところを見届けていたので、「よく頑張ったね」そういって、僕らの頭をなでまわす。


マジックバッグに邪神の経典をおさめ、僕らが今書いたものもしまうと、「悪いけどもう行くね、伝えたいことは書いておいたから。ゆっくり休んで」

そういうと、研究所に戻っていった。


頭の芯がしびれたようになっていて、しばらくぼーっと先輩が帰っていったドアを見つめ、それから先輩が書き置いてくれた手紙を手に取った。


僕が動いたことで、僕と同じくぼーっとしていたロザリーも現実に戻ってきたようだ。


その手紙は、まず僕たちをねぎらう内容から始まり、今日の午後はもちろんのこと、明日と明後日の二日間、つまりはいつものように特別任務の後の二日の休みが貰えることが書かれていた。

さらにロザリーの家にこもる前にうっすら聞いていた、外出禁止令について書かれていた。


この邪神の経典の訳が急がれたのは、陛下の肝いりで、この国と同じように暗殺者集団に悩まされていた周辺諸国と、その対応について協議する場が、明後日、この国で開かれるためだった。


そのために、明日から各国の要人がこの国を訪れるため、警備の観点から会場の周辺は外出禁止令が出ることになっており、ロザリーの家はなんとその外出禁止令の対象区域内に入ってしまっていた。


なので、今日の夜からしあさっての朝まで出歩けなくなるので、ロザリーのために食料を多めに買って食糧庫に入れておいたこと、僕には今日暗くなる前に家に帰ること、僕の家は外出禁止区域ではないけど、あまり出歩いたりはしないように、などが書かれていた。


とりあえず、二人分の昼食として、果実酒と、焼き魚と野菜が挟まったパンと、芋と肉を揚げたものがキッチンに並べてあったので、僕とロザリーはそれをもくもくと食べた。


食べ始めてみたら、ものすごくお腹がすいていたことに気が付いた。

しっかりした食事をとるのも久しぶりだ。

果実酒をあおると、体が一気に温まっていく。


そして、体が温まると、もう耐えきれない程に眠い。

うっかり飲んでしまったけど、果実酒はやめておくべきだったかも。


ロザリーのこの家から、自分のタウンハウスまでは、おそらく歩いて30分はかからない。

でも、帰る前に、ほんの少しだけでも仮眠をとらないと、まともに歩くことも出来なさそうだった。

暗くなるまでに、まだ数時間はある。

ちょっとだけ、寝かせてもらおう…。


僕が食べ終わった食器をキッチンに運んでる間に、ロザリーはもう椅子でうとうとしていた。


ロザリーの肩を揺らして、「ロザリー、ベッドで寝なよ」と起こしてやると、はっと目を開き、僕の腕を握った。


その手を引っ張って立たせてやると、ロザリーを寝室の方へ押しやり、僕はソファーに行こうとしたら、ぐい、と握られたままの腕を引っ張られた。


全く予想していなかった動きだったのと、寝不足と疲労でふらふらしていたから、虚を突かれてバランスを崩した。

そして、おっとっと、となっている隙に、何と拘束魔法を使われた。


簡易なやつだったけど、ロザリーが手を放してくれるまで、僕から手を振りほどくのは難しい。


まあ、出来なくないけど、こんな死にそうに眠い時に面倒くさい、なんでこんなことを…。


と思っていると、睡眠至上主義のロザリーの目がすわっている。

これは、問答無用の顔だ。


腕をつかまれたまま、寝室に引きずり込まれ、小さな一人用ベッドの毛布をめくると、ロザリーが室内履きを脱ぎ捨てて、着替えもせずにベッドに上がり、僕のことも自分の横に引っ張り込む。


僕は観念して、室内履きを脱いで、ロザリーの隣に体を横たえた。

手を離してくれたので、めくりあげられていた毛布を肩までかけると…ロザリーはもう寝息をたてていた。


僕も、頭のどこかで、いいのか、これで…、と一瞬よぎったのだけど、そこまでだった。


丸二日、寝ていなかったのだ。

ロザリーの寝息に引き込まれるように、僕もあっという間に意識を手放したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ