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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
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34邪神の経典

ようやくロザリー編と同じ時間まで到達しました…


「坊ちゃん、大丈夫ですか?どうぞこちらを」


ブノアが淹れてくれた頭痛に効く薬湯を飲み干す。苦い。


「お食事もとれるといいのですが…」

「うーん、今食べてもきっと吐いちゃうから。薬だけは気合で吐かないように頑張る」


ベッドに横になっている僕の目の周りを、熱めの蒸しタオルで温めながら、ブノアがこめかみから頭にかけてマッサージをしてくれている。

うっすらと回復魔法をかけてくれてもいるので、かなり楽になってきた。


ここ数日、ロザリーと会議室にこもって、一日中書き物をしている。


邪神の経典を翻訳しているのだ。


大先輩たちに仲間入りさせてもらった仕事は、例の暗殺者集団についての仕事だった。


その暗殺者集団と邪神の関わりが分かってきて、さらに、その本質に迫る邪神の経典を先輩たちのチームが入手してきた。


その邪神の経典の封印を解き、罠を解き、ただの本に戻してから、未解読文字で書かれた上に暗号までも使われている内容を解読し、読める形にする。

それが僕らのチームに任された仕事だった。


ただの本に戻すのは、三人の力を合わせての作業だったし、文字と暗号の解読だったときもまだ良かった。


資料室にまで参考になりそうな本を探しに行くこともあったし、文字を読むだけでなく、パズルを解くようなものであったので、そこまで一日中文字とにらめっこではなかった。


でも文字の解読ができた今は、寸暇を惜しんで内容を翻訳しては書き下していく。


一日中メガネをかけた状態で、同じような姿勢で読み書きのみを続けると、ひどい頭痛におそわれてしまうのだ。


「坊ちゃんは神経も繊細でいらっしゃいますからね、御無理はいけません」


「でも。期限がきられているからね…あと数日のことだし、今回ばかりは無理をするよ。それに大先輩たちと同じ仕事の仲間にしてもらえたんだから、ちゃんとやれるところを示したいよ」


そう言って力なく笑ってみせると、ブノアはやれやれといった顔でため息をついて、僕の目の周りや眉間をほぐしにかかり、僕はいつの間にか眠ってしまったのだった。


次の日にロザリーと会議室で食事休憩を取りながら、これはこのままでは無理だ、間に合わない、と感じていた。

この研究所は日付が変わる時間になると、誰であろうとも研究所内にいることが出来ない結界が発動する。

泊りがけでの作業は出来ないのだ。


ちらり、とロザリーを見ると、ロザリーの表情から、同じことを考えているだろうことが分かる。


「私の家でいいかな。多分私の家の方が近いよね?」


ロザリーがたったそれだけを口にした。

僕は黙って口の中の肉を咀嚼しながら頷いた。



僕ら三人のチームリーダーであるジョルジュ先輩と、所長の許可を得て、重くて大きい邪神の経典を抱え、研究所を後にした。


帰らないと心配するだろうブノアとフレデリクには、手紙鳥を飛ばして、特別任務でしばらく帰れないことを知らせておいた。


歩いて数分のロザリーの家へと向かう。


ロザリーはつい数日前に一人暮らしを始めたところだった。

その初日に玄関前まで送っていく機会があったので、場所は把握していた。


ロザリーの義兄の口利きで借りられたというその家は、一人暮らし用ではなく、若夫婦向けであり、庭などこれっぽっちもない、二階建ての集合住宅。

王都ならではの物件だ。

一階がロザリーの家で、ロザリーの家のドアの隣のドアが、二階に住む世帯のための入り口だ。


ロザリーに連れられて入ってみると、玄関から少し短めの廊下があり、すぐに左手にキッチン、そしてダイニング用のスペースがあり、壁などで仕切られることもなくリビングになる。リビングの突き当りは大きな窓があって、その外には洗濯物が干されていた。リビングの右側にドアがあり、おそらく寝室なのだろうと推測が付く。

そして、リビングの左側の扉が、風呂やお手洗いといったところか。


住み始めて数日しか経っていない家でもあり、家人が整えたまま使っていないのが丸わかりのキッチンだ。

僕が家の中を観察している間にロザリーが日当たりのいいところにテーブルを移動させ、向かい合わせになっていた椅子を横並びに置く。

そして、テーブルの中央に、どん、と邪神の経典を広げた。


書き写すための紙束と、インク壺を二つ置くと、ロザリーは早速ペンを片手に左側の椅子に座る。

僕もロザリーの右側に座り、ペンをとった。


すぐにロザリーのペンが動き出し、カリカリと文字を書く音が部屋に響く。

本の左のページをロザリーが、右のページを僕が書き写しているので、遅れるわけにはいかない。


この作業にジョルジュ先輩が加わっていないのはそのせいもある。


三人では出来ないし、暗号解読も僕らがしたので、解読するスピードが僕とロザリーは同じくらいだけど先輩では遅くなるだろう。

つまりは僕と先輩、や、ロザリーと先輩、のペアで作業すると、左右のページでの作業時間に差が出来過ぎると予想できたから。

集中して解読して書き下していけば、僕とロザリーはほぼ同じくらいの所要時間で1ページが終わる。


夕方からロザリーの家で始めた作業だったので、あっという間に外は暗くなった。


ロザリーがランプを灯す。

ランプの灯りは揺らぐので、昼間より文字が読み辛くなる。

研究所では、魔道具の灯りなので揺らぐことはなかった。


頭痛が酷くなりそうだ、そう思っていたら、ロザリーがライトの魔法を使った。


集中して作業をする傍らで、継続して魔法を使い続けられるだなんて、さすがロザリーだな、と口角があがる。

そんなロザリーでも疲れてくるとライトが途切れたりするので、そんなときは僕が代わりにライトを使った。

その頃には、暗号表を確認することもなく、解読がすらすらできるようになっていて、僕でも魔法との両立ができた。


数時間おきに、丸パン一個を2人で半分こにして、水で流し込む、というような休憩にもならないような休憩もとりつつ、ひたすらに本と向き合う。


そして気が付いたら、外がまた明るくなってきた。

ランプを消してライトも解除し、「少しだけ休憩しよう」と提案した。


さすがに頭痛が辛くなってきた。


それに、ちゃんと栄養や水分を取らないと、作業効率も落ちるだろう。


ブノア特製の薬湯ほどではないにしても、コーヒーにも頭痛を和らげる効果があるし、眠気を覚ますこともできる。

来た時にキッチンにコーヒーの豆と、コーヒーを淹れられる道具が揃っているのを見ていた。


僕が勝手にコーヒーを淹れ始めたのに、ロザリーはなんの反応もなく、当たり前のような顔をしている。

そしてナイフを危なっかしく使いながら、フルーツの皮をむいてカットしてくれた。


…本当に間に合うのだろうか。

疲れてもいるし、期限に間に合うか不安もある。


お互いに無言のままにフルーツを食べてコーヒーを飲む。

少しだけ頭痛が軽くなった頭で、また作業に取り掛かった。


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