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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
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33暗殺者集団


たまにある、陛下からの突然の特別任務以外、これといった刺激的な仕事はないままに、冬が終わりを迎える頃、僕らはとある暗殺者集団の話を聞かされることになった。


いわく、新人の時の、どうやって留置所から逃げ出したか分からなかった殺人犯も、例の陛下の暗殺も、いずれも彼らの一味によるものだというのだ。


もちろん僕らの知らない犯行もたくさんあり、しかもこの国だけのことではなく、近隣諸国も同様の犯罪被害にあっているという。


そして、彼らが今知られている魔術では理解不能な、不可思議な能力を使い、それらのことを成し遂げている、という話だった。


会議室に呼び出されて所長から聞かされた話に、僕らは眉をしかめたり、鼻の頭にしわが寄ったりした。


僕らとは別のチームがこの件では動いているけど、僕らも関わりがあるので、手伝うことになるかもしれないから教えておく、という話だった。


僕らは意外と他のチームがどんな仕事をしているのか、知ることは少ない。

魔術師の塔寄りの仕事が多いチーム、魔術師庁寄りの仕事が多いチームなどさまざまだ。


そういう意味では僕らは討伐寄り、かもしれない。

三日程度で帰ってくる魔物や魔獣討伐であるなら、日常茶飯事となってしまっている。

今まで手分けしていた討伐を僕らに集中させているっぽい節もある。


そんな訳で、僕らは荒くれ仕事を請け負い、それらがない時は、新たな魔法の組み合わせの開発にいそしむ毎日を過ごし、春を迎えた。


働き始めて三年目の春だ。


今年も幾人かの新人が入ってきて、やがてあちこちに配属されていった。

僕らのチームはアンバランスな三人なので、先輩が抜けて、僕らの下に若い子が付く、ということにはならないらしい。チームの再編成も無かった。


陛下に呼び出される極秘任務も、『色々と事がおさまったので当分は呼び出すことにはならないだろう』というようなことを先日の任務の後に教えられて帰されたので、気持ちは軽い。


「今朝はご機嫌ですね」

「ええ、鼻歌を歌われるところなんてはじめて見たでしょうか。夕べお帰りの時は機嫌が良くなかったですが」


朝食のコーヒーを淹れながら、鼻歌を歌っていたらしい。ものすごく恥ずかしい。


夕べは、研究所の同僚たちかなり大勢で、食事をして帰ってきた。もちろん先輩やロザリーも一緒、所長も含めて10数人いた。


たまに、大きな仕事の前にその仕事にかかわるチームや人々が集まって、食事会をすることがあるのだそうで、僕らは三年目にしてはじめてそのような食事会に加わることになった。


僕らみたいな若輩ものは他にはおらず、ジョルジュ先輩と同期であったり、それよりさらに先輩であるような、ベテランばかりの中で、僕らは緊張をしていたのだけど。


「おお、君がヴィリエの…」とか、「一年半でオーガ倒したって聞いたよ」とか、「君のお父さんと、一緒に仕事をしたことがあるよ」とか、ロザリーがまるで珍獣のように珍しがられては酒を注がれて…ロザリーは調子に乗って酔っぱらった。


僕は、ロザリーの家の馬車が迎えに来るという時間を気にしていて、「酔っぱらい過ぎだからもうあまり飲まない方がいいよ」とか、「そろそろ時間だから行かないと」とか声をかけたんだけど「うるさいよー」と赤い顔で文句を言われて、頭に来た。

なのでロザリーのほっぺを右手でムニューと摘まんだ。


「心配してるのに、何だよ!クロードさん待たせるつもり?」

「まだ飲む!このお肉揚げたやつもまだ食べる!」

「両親と約束した時間も守れないでいて、一人暮らしが許されると思ってるの?」


ロザリーは今、一人暮らしをしたいと両親と交渉中なのだ。


反対の頬もつまんで、両方から引っ張ってやると、「ひひゃい、ひひゃい、ひゃなひてー」と涙目になったので、「もう帰る?」と聞けば「ひゃえる」と頷いたので、「よし」と手を放してやると、「先輩、カミーユがお母さんより厳しいです」そういって反対隣のジョルジュ先輩に泣きついた。


「でも、お迎えが来る時間なら、本当に帰らないと。ね」先輩に優しく諭されると、素直に頷いている。


食事会での話題も、今は僕らが知らない昔の話で盛り上がっていて、僕らがいない方が先輩も楽しめるかと、ロザリーを馬車まで送りがてら、僕も帰ることにした。


心配した先輩が、店の入り口まで僕らを見送ってくれて、僕はロザリーを抱えるように支えながら盛り場の道を歩いていった。


ちょっと先の大通りまでいかないと、馬車が入れるような大きな道はない。周辺の店の呼び込みが僕らに入店を勧めてくるけど、明らかに酔っ払いと、それを引きずって歩いている図なのに、と思ったら、連れ込み宿も併設しているというのだ。


思わず顔が赤くなる。


ロザリーは酔ってふにゃふにゃになってて、歩かせていると遅いので、どんどん呼び込みに声をかけられてしまう。

確かに、酔っぱらってしまった女の子を連れていた男性が、呼び込みに連れられて店に入っていくのを何組か見た。


呼び込みを無視して、早くロザリーをクロードさんが待つ馬車に送り届けねば、と焦って、最後にはロザリーを抱きかかえて運んだ。


見慣れたヴィリエ家の馬車を見つけたときは、ホッとした。


「クロードさん、お待たせしてしまって」


「あちゃー、ものすごい酔いっぷりですね、御迷惑をおかけしたようで申し訳ありません」


「大先輩たちに勧められるままに飲んでましたからね」


いわゆるお姫様抱っこで運んできたロザリーを馬車の座面に降ろそうとすると、なんと眠っていた。

しかも、寝ぼけていて、僕に回していた腕を離してくれない。


「クロードさん、助けて」

「はー全く困ったロザリーお嬢様だ」


二人がかりでなんとかロザリーを座面に寝かせて、僕が離れると、なんとこんなに苦労してやったというのに寝ぼけたまま「カミーユのばか、まだ食べる!」そういって、ごろり、と寝返りを打った。


僕がイラっとしたのを感じたクロードさんが「酔っ払いの寝言ですから勘弁してやってください」と苦笑いをしてとりなした。


僕は「ロザリーこそばかでしょ」そう言ってやりながら、勝手知ったる馬車なので、ひざ掛けを取り出してロザリーにかけてやって、馬車の扉を閉め、お礼を言うクロードさんに手を振って別れたのだった。


そんな訳で、なんとなくむぅ、とした顔で帰宅し、出迎えた二人に機嫌が悪いことを心配されつつも、もう寝るように二人に言って、僕も寝室に直行した。


自分で湯を用意して、体を清めているとき、ふとロザリーの頬を摘まんだのなど初めてだったことに気が付いた。


柔らかくて弾力のある頬だったな、なんて思ったら、盛り場のあの通りを早く抜けたくて必死だった時には気が付かなかった、抱き上げたロザリーの体の柔らかさと、いつもの甘い匂いを近くでかぎ続けたことを思い出してしまった。


困った酔っ払いだという見方しかしていなかったけど、かなりの密着ぶりだった。


色々思い出すと、ぶわ、と顔が熱くなって、そして、腰の辺りも熱が集まってむずむずする。


それから、健康な若い男性ならみんなすることのはずだから、と頭のどこかでいい訳をして、自分も健康な若い男性なので、自分にも子を成す能力があることを確かめたのだった。


そんなわけで、アレをして寝ると、朝なんとなくスッキリして起きられたことに気が付いた。

ぐっすり寝られたし、コーヒーを淹れながら鼻歌も出てしまったらしい。


はじめての時から数回は、アレをした次の朝は後ろめたい気持ちになったりしたものだけど、最近はそれすらもなくなっていた。


「昨日の食事会のメンバーは大先輩が多くて。まだ経験の浅い僕らは、何をさせられるんだろうな…」


話を誤魔化す意味も兼ねつつ、本当に思っていることを口にする。

なんとなく、三年目にもなったし、大事な仕事に携われるようになったのは嬉しい反面、不安がよぎるのだ。


「ヴィリエのお嬢さんと坊ちゃんでしたら、若いと言えども即戦力でありましょうとも。この二年でそれを実証したからこその抜擢でございましょう。所長であられるバルドー伯の人を見る目は確かのようでございますからね、不安になる必要はないと思いますよ」


ブノアがオムレツの皿を並べながら励ましてくれる。


「そういえば、陛下はどうやら不眠にお悩みだったようなのですが、不眠になる原因であったことが次々と解決したので最近は良くお眠りになれるんだそうですよ」


「相変わらずフレディはどこから陛下の個人情報を入手してるんだか」


「いえ、カミーユ様が関わっていらっしゃったので知り得ただけでして」


「え?」


「隣国の第2王女様が、昨年の陛下の生誕祭に来賓としてお越しになって、陛下に一目ぼれをなさいまして…側室で良いのでどうしても嫁ぎたい、とごねてごねて、大変なことになっていたのはご存じでしたでしょう?この国には側室制度はありませんし、両陛下の仲も良好、隣国の王も娘の扱いにほとほと困り果てておりましたのですよ。国際問題に発展しそうな雰囲気にまで達しておりました」

「……もしかして…」

「はい、御想像なさっておられる通りかと」


陛下からの特別任務の最初の接待は、若い綺麗な女性だった。

彼女が隣国の第2王女であったなら。


「他にも、議会で強硬な姿勢を崩さなくて、法案の成立に時間がかかっていたものがすんなり通ってみたりですとか、冒険者ギルドの…」

「あーああー、もういい。知らされていなかったことなんだから、僕は知らないままでいいよ。そういやまだ2件分ご褒美を貰っていないから、何を陛下にねだるか、よく考えておこう」


執事フレデリクからのとんでもない暴露話を朝から聞かされて、ご褒美はもうちょっといいものをねだってもよさそうだ、と思い、研究所の仕事に対する不安な気持ちはどこかに消し飛んでいた。


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